2022年01月17日

2022年度の社会保障予算を分析する-診療報酬改定で攻防、参院選後はどうなる?

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   三原 岳

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6――社会保障関係予算の概要(3)~後期高齢者医療制度の患者負担引き上げ~

2022年度予算編成では、75歳以上の後期高齢者が医療機関の窓口で支払う患者負担について、所得の高い人は原則1割から2割に引き上げる時期が2022年10月と決まった。この問題12では、安倍首相が2019年12月の全世代型社会保障検討会議で、「75歳以上の高齢者であっても、一定所得以上の方については、その医療費の窓口負担割合を2割とし、現役世代の負担上昇を抑えながら、全ての世代が安心できる制度を構築する」と述べたことに始まる13

しかし、与党サイドに反対意見が根強かったため、2019年12月の全世代型社会保障検討会議中間報告では、「後期高齢者であっても一定所得以上の方については、その医療費の窓口負担割合を2割とし、それ以外の方については1割とする」という方向性が明記された一方、具体的な施行時期とか、2割負担の所得基準については、「検討を行う」と結論を先送りした。

その後、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)医療保険部会に議論の舞台が移ったが、日医が「原則2割となると、(筆者注:高齢者は)貯蓄とか、費用を節約しなければならない。このような話になると、政治問題になる」などと難色を示した14

結局、所得基準の線引きについては、2020年9月に発足した菅政権の下で決着が図られ、菅首相と公明党の山口那津男代表によるトップ会談を経て、「収入200万円以上」で決まった。

しかし、実施時期は参院選後に先送りされ、「2021年下半期」と決まっただけだった。その後、岸田政権に代わった2021年12月の閣僚折衝で、この実施時期が2022年10月と決まった。

なお、患者負担の増加を抑える経過措置として、1カ月当たり最大3,000円に収まるような措置が導入される予定だ。
 
12 後期高齢者の患者負担増については、2022年1月12日拙稿「10月に予定されている高齢者の患者負担増を考える」、2020年12月22日「後期高齢者の医療費負担はどう変わるのか」、同年2月25日「高齢者医療費自己負担2割の行方を占う」を参照。
13 2019年12月19日、全世代型社会保障検討会議議事録を参照。
14 2020年1月30日、医療保険部会議事録を参照。

7――社会保障関係予算の概要(4)

7――社会保障関係予算の概要(4)~雇用保険料の引き上げ~

2022年度予算案の編成では、雇用保険料の取り扱いも焦点となり、2022年10月から半年間、失業手当などに充てる「失業等給付」の保険料率を0.6%に引き上げることが決まった。この措置は新型コロナウイルスの感染拡大で雇用調整助成金の支給が増大しているため、雇用保険の財政悪化に対応するのが目的である。

ここで、雇用保険の仕組みを簡単に整理すると、労働者、使用者が折半で負担する「失業等給付」「育児休業給付」に加えて、会社だけに課される「雇用保険2事業」に大別される。このうち、失業等給付の保険料に関して、政府は保険料引き上げを企図したが、参院選への悪影響を恐れる与党サイドの意見が強まって調整が難航した。その結果、賃金の0.2%とする現在の水準は2022年9月まで維持される一方、10月から0.6%に引き上げられることになった。

この関係では、2021年度補正予算で一般会計からの繰入金として、2兆1,611億円が計上されているほか、雇用保険の財政安定化に向けた法改正が通常国会で予定されている。

では、以上のような形で決着した社会保障関係予算案をどう考えたらいいのだろうか。以下、診療報酬、特に本体改定の評価を試みるとともに、筆者の関心事である医療・介護の制度改正を中心に、今後の展望を考える。

8――診療報酬本体の改定の評価と今後の展望

8――診療報酬本体の改定の評価と今後の展望

1|「玉虫色」となった診療報酬本体の改定率
まず、診療報酬本体の改定率を巡る攻防を考えると、今回の改定水準は政治的に「玉虫色」という見方が示されている15。確かに財務省は0.3%程度の改定率を望んでいたため、0.43%増という本体のプラス改定率に関しては、財務省が譲歩したかのように見える。さらに、横倉氏が会長として改定に当たった2014年度以降、4回の改定率の平均が0.42%だったため、これを僅かに上回ったことで、日医の面子を保てる水準に収まったと言える。

しかし、日医、自民党が要望していたとされる0.50%に届かなかった上、0.43%の本体改定率は「首相案件」とされていた不妊治療の保険適用と看護職員の給与引き上げの影響である0.4%を含んだ数字であり、実質的なプラス幅は小さい。

さらに、初診料の減少に繋がる可能性を伴うため、日医として反対してきたリフィル処方箋が導入される点も踏まえると、むしろ政治的には日医が押し切られたという見方も可能である。

こうした背景には、新型コロナウイルス対応などを巡って、日医を含めて民間医療機関に対する風当たりが強くなっていることも影響している可能性がある。さらに、過去の診療報酬改定に関わったプレイヤーが交代したことで、横倉氏が会長時代に誇った政府・自民党とのパイプが一種の目詰まりを起こした点は否めず、各種報道を見ると、決着の場面では第一線を退いた伊吹氏や横倉氏が要路に働き掛ける一幕もあったようだ。

今後、導入が決まったリフィル処方箋を含めて、診療報酬改定の詳細については、中央社会保険医療協議会(中医協、厚生労働相の諮問機関)で2022年3月末までに決定される予定だが、医療現場への影響に加えて、こうした決着が今年に予定されている日医会長選、あるいは夏の参院選にどう影響を及ぼすのか、その動向を注視する必要がある。
 
15 2021年12月23日『毎日新聞』を参照。
2|医療提供体制改革を加速させる「言質」?
さらに、診療報酬改定を最終決定する閣僚折衝に際して、財務、厚生労働両相の間で「診療報酬における医療提供体制の整備等」と題する文書が交わされている点も見逃せない。ここでは、「良質な医療を効率的に提供する体制の整備等の観点」に立ち、表1のような内容で医療提供体制改革に取り組む方針が示されている。
表1:財務、厚生労働相の折衡で決まった医療提供体制の改革項目
具体的には、急性期病床(いわゆる看護配置7:1基準の病床)の適正化とか、急性期から回復期への移行など外来機能分化、かかりつけ医機能の強化、多店舗を有する薬局の評価適正化といった方針であり、ここでは全てを一つ一つ取り上げないが、いずれも医療提供体制改革を目指す「地域医療構想」を含めて、以前から懸案になっているテーマである16

こうした改革項目が改めて列挙されたのは「医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし」とする財務省のスタンスが反映された結果であり、中医協における医療提供体制改革の見直し議論に関して、財務省が厚生労働省から「言質」を取ったと解釈することも可能であり、今後の議論が注目される。
 
16 ここでは詳しく触れないが、地域医療構想については、2017年11~12月の「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く」(全4回、リンク先は第1回)、2019年5~6月の拙稿「策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える」(全2回、リンク先は第1回)、2019年10月31日「公立病院の具体名公表で医療提供体制改革は進むのか」、2020年5月15日「新型コロナがもたらす2つの『回帰』現象」。併せて、三原岳(2020)『地域医療は再生するか』医薬経済社も参照。かかりつけ医については、2021年8月16日「医療制度論議における『かかりつけ医』の意味を問い直す」、薬局向け報酬の適正化に関しては、2021年10月15日「かかりつけ薬剤師・薬局はどこまで医療現場を変えるか」を参照。
3|今後の医療制度改正の展望
しかし、診療報酬の細かい調整に際しては、中医協で毎回、日医と健康保険組合連合会が攻防を繰り広げるのが通例であり、財務省が期待するような制度改正が一気に進む保証はない。むしろ、中医協では、現場や医療機関・薬局の経営、国民の生活に対する影響も考慮しつつ、漸増主義的に合意形成を積み上げるアプローチが採用されるため、個々の制度改正は小さくなる可能性がある。このため、3~5年程度のスパンで制度改正のスケジュールと方向性を確認する必要もある。

そこで、医療・介護で予定されている制度改正を展望すると、図5の通り、2024年度というタイミングを意識せざるを得ない。具体的には、2年に一度の診療報酬改定に加え、都道府県が6年周期で策定する医療計画の改定のタイミングと重なる。特に、医療計画の改定に関しては、2021年の通常国会の医療法改正を経て、新興感染症対策が医療計画に位置付けられることが決まっており、各都道府県は急性期病床の削減とか、医療機関同士の連携強化などを目的とする地域医療構想を進めつつ、新興感染症対策を進める必要に迫られる17

さらに、地域医療構想に関しては、公立・公的医療機関の再編論議が再燃する可能性が想定される。この問題では、厚生労働省が2019年9月、「再編・統合に向けた議論が必要な公立・公的医療機関」を名指ししたことで、首長や住民が反発。さらに、2020年前半から新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で、見直し議論がストップしている。
図5:政治、医療・介護制度改正の主な日程
しかし、厚生労働省は2021年12月に開催された「地域医療確保に関する国と地方の協議の場」で、2024年に予定されている医療計画の改定に向けて、2022年度あるいは2023年度で、公立・公的医療機関の見直しに向けて結論を出すように要請しており、各都道府県で議論が進む可能性がある。

その際には、多くの公立・公的医療機関が新型コロナウイルスの患者を受け入れている実態とか、総務省が2021年度中に作成する方向で検討を進めている新たな公立病院改革ガイドラインの内容18といった情勢変化を踏まえる必要がある。

このほか、医療機関で働く医師の超過勤務を制限する「医師の働き方改革」も2024年4月に本格施行されることが決まっており、各医療機関は「医師労働時間短縮計画」の策定などが求められるほか、実質的な実施主体である都道府県も準備態勢の整備を急ぐ必要がある19。こうした制度改正の内容といったタイミングを踏まえると、2024年度は医療行政にとって大きな節目となり、一部は2022年から議論が始まりそうだ。
 
17 新興感染症への対応を医療計画に追加した改正医療法の内容や論点に関しては、2021年7月6日拙稿「コロナ禍で成立した改正医療法で何が変わるか」を参照。
18 現在、有識者などで構成する総務省の「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会」で議論が進んでいる。
19 医師の働き方改革の概要や論点などに関して、2021年6月22日拙稿「医師の働き方改革は医療制度にどんな影響を与えるか」を参照。
4|今後の介護制度改正の展望
介護保険に関しても、同じく2024年度が一つの焦点となる。3年サイクルで実施される介護保険制度改定や介護報酬の改定のほか、市町村による介護保険事業計画の改定も控えており、一部については2022年から見直し論議が始まる可能性がある。

まず、岸田首相が重視する介護職の給与引き上げに対応するため、臨時の報酬改定が10月に実施される予定となっている。この問題では既述した通り、2021年度補正予算が編成された時点では、2~9月の給与引き上げに必要な経費が確保されたものの、10月以降の対応は先送りされたていた。

その後、看護職に関しては、診療報酬改定に経費の手当がなされたが、介護職に関しては10月に臨時の介護報酬改定を実施することになっており、社会保障審議会介護給付費分科会で具体的な議論が始まった。

さらに、3年に一度の介護保険制度改正と介護報酬改定に際しては通常、「社会保障審議会介護保険部会が制度改正の2年前に意見書を提出→制度改正の前年に国会が法改正→並行する形で、前年に介護給付費分科会が報酬改定を議論→厚生労働省が制度改正と介護報酬を同時に実施、市町村が介護保険事業計画を改定」という流れになることが多い。

このため、一部の議論は2022年から始まる可能性があり、介護職の給与改善問題に加えて、財務省が重視する軽度者向け給付の見直しとか、ケアマネジメント費(居宅介護支援費)の有料化20などが争点化する展開も予想される。
 
20 介護保険制度改正の論点については、2020年7月16日拙稿「ケアプランの有料化で質は向上するのか」、2019年12月24日拙稿「『小粒』に終わる?次期介護保険制度改正」、2019年7月に全2回で連載した拙稿「介護保険制度が直面する『2つの不足』」(リンク先は第1回)を参照。
5|コロナの影響、政治日程との兼ね合い
一方、負担増や給付抑制などの見直し策が展開されるかどうか、新型コロナウイルスの感染状況の収束度合いが影響する可能性がある。新型コロナウイルス対応では医療・介護現場に負荷が掛かっており、感染拡大が収束しないと、現場への影響を及ぼす制度改正は難しい面がある。

さらに国民に負担を強いる改革を議論する上では、政治日程を踏まえる必要もある。そこで、政治日程を簡単に俯瞰すると、今年は参院選を控えており、負担増や給付抑制に繋がるような議論は難しい状況である。実際、本稿で触れた通り、後期高齢者の患者負担引き上げとか、雇用保険料の引き上げは全て参院選後に先送りされている。

ただ、参院選が終わると、図5の通り、2023年に予定されている統一地方選を除けば、2022年~2024年は大規模な国政選挙が実施されない「空白」が生まれる。このため、参院選の結果次第の側面はあるにしても、結論が先送りされている制度改正の是非が争点として浮上する展開も考えられる。
6|財政再建目標との関係
このほか、政府が掲げる財政再建目標との関係も問われる。政府は中長期的な経済財政運営の目標として、借金に頼らずに政策経費を賄えるようにする基礎的財政収支(プライマリー・バランス、PB)を国・地方で2025年度に黒字化させる方針を掲げており、2021年6月の骨太方針ではPB黒字化の政府目標について、「本年度内に、感染症の経済財政への影響の検証を行い、その検証結果を踏まえ、目標年度を再確認する」という考えを盛り込んでいる。

このため、2022年3月末までに目標年度の「再確認」作業が進む見通しだが、既に述べた通り、新型コロナウイルス対応で財政事情が悪化しており、目標が堅持されるか微妙な情勢だ。実際、岸田首相は昨年11月のインタビューで、「必要な検証を行っていく」と述べるにとどまっている21。こうした財政政策の議論も今後、医療・介護制度の影響を及ぼす可能性がある。
 
21 2021年11月19日『朝日新聞デジタル』配信記事を参照。

9――おわりに

9――おわりに~負担と給付の見直し論議を~

全世代型社会保障の実現に向けては、どんな働き方をしても安心できる勤労者皆保険の実現や、効率的で、質が高く、持続可能な医療提供体制の実現など、課題は山積しています――。2021年11月に発足した全世代型社会保障構築会議の席上、岸田首相はこのように述べた22。確かに本稿で述べた通り、過去最大に膨らんだ歳出規模や積み上がる一方の債務残高、社会保障費の増加などを踏まえると、財源確保策の検討に加えて、医療提供体制の効率化など給付の見直し論議も欠かせない。

一方、新型コロナウイルスは非正規雇用者の雇い止めとか、所得格差、女性の貧困問題など社会の歪みを顕在化させた23面あり、少子化対策や子育て支援なども含めて、給付や支援を充実させなければならない分野も多い。

しかし、社会保障制度改革の議論は往々にして「給付は手厚く、負担は軽く」という議論に流れがちであり、制度改正を議論する上では、負担の問題も常に念頭に置く必要がある。社会保障の負担と給付をどう組み替えるか、見直し論議が求められる。
 
22 2021年11月9 日開催された第1回全世代型社会保障構築会議・第1回公的価格評価検討委員会合同会議における発言。
23 非正規雇用と医療保険の関係としては、特例で部分的に認められた非正規雇用者の傷病手当金を取り上げた2020年5月13日拙稿「新型コロナ対策で傷病手当金が国保に広げられた意味を考える」を参照。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

(2022年01月17日「基礎研レポート」)

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