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2025年05月28日

4月から始まった「かかりつけ医」の新制度は機能するのか-地域の自治と実践をベースに機能充実を目指す仕組み、最後は診療報酬で誘導?

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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■要旨

身近な病気やケガの治療などに当たる「かかりつけ医」の機能を強化するための制度が2025年4月からスタートした。新しい制度では、身近な病気やケガへの対応や、在宅医療の提供などについて、都道府県が診療所や中小病院の報告を受け付けた上で、その現状を地域単位で可視化する「かかりつけ医機能報告制度」が創設される。さらに、こうした情報を都道府県が住民に公表するとともに、都道府県を中心に、市町村や地域の医師会、介護団体など関係者の協議と合意形成を通じて、足りない機能を充足させることも目指されている。現時点では、具体的な協議は2026年度から本格化することになりそうだ。

本稿では、かかりつけ医に関する今回の新たな制度の論点や展望を考察する。具体的には、制度の概要を検討することで、この仕組みが自治体や地域の医師会の実践と自治をベースにしている点を明らかにする。その上で、現場で制度の運営を司る都道府県による創意工夫、地域の医師会による主体的な参加が欠かせない点を強調する。

しかし、検討過程では厚生労働省が「かかりつけ医機能の報告が医療機関を縛るものではない」と説明する一幕があるなど、あらゆる場面で行政的な関与が限定されているのも事実である。しかも、関係団体の言説を振り返ると、「かかりつけ医」という言葉が初めて注目された約30年前から余り変わっておらず、自治と実践に頼る限界も見受けられる。本稿では、こうした点を指摘しつつ、今後の展望として、最終的には診療報酬で誘導される可能性を論じる。

■目次

1――はじめに~4月から始まった「かかりつけ医」の新制度は機能するのか?~
2――かかりつけ医、かかりつけ医機能の定義
  1|かかりつけ医、かかりつけ医機能とは何か?
  2|言葉遣いは分かりにくいが…
  3|40年前の家庭医構想と今回の制度創設に至る経緯
3――かかりつけ医機能報告制度の概要
  1|2023年通常国会における法改正の内容
  2|新制度の主な流れ(1)機能報告の「1号」
  3|新制度の主な流れ(2)機能報告の「2号」
  4|新制度の主な流れ(3)医療機能情報提供制度での公表
  5|新制度の主な流れ(4)地域における協議
  6|かかりつけの関係を証明する書面の交付
4――新たな制度の特色
  1|フリーアクセスを維持
  2|国や都道府県の関与を限定
  3|医療機関が参入できる「間口」を拡大
  4|新制度が内在する強みと弱み
5――新たな制度は機能するのか?(1)~患者の視点~
  1|「刷新」された医療機能情報提供制度の意味合い
  2|正確かつタイムリーな情報が届くのか?
6――新たな制度は機能するのか?(2)~医療機関や地域の医師会の視点~
  1|どこまで参入者が増えるか?
  2|事務負担が増える?
7――新たな制度は機能するのか?(3)~都道府県・市町村の視点~
  1|身近な病気やケガに対応する部分もカバーされた意味合い
  2|期待される都道府県と市町村の工夫
  3|好事例は拡大かつ永続するのか?
8――新たな制度は機能するのか?(4)~介護従事者の視点~
9――新たな制度は機能するのか?(5)~保険者の視点~
10――今後のテコ入れ策(1)~現場の自治と実践を支える国や関係団体の支援~
11――今後のテコ入れ策(2)~政策誘導の選択肢~
  1|医師偏在是正との対比
  2|結局は診療報酬による誘導?
  3|2026年度診療報酬改定を巡る対立
  4|約30年前と同じ?
12――おわりに

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月28日「基礎研レポート」)

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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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