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2025年09月01日

法人企業統計25年4-6月期-トランプ関税の影響で製造業は減益も、非製造業が堅調を維持

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.製造業の落ち込みを非製造業がカバーし、かろうじて増益を確保

経常利益の推移 財務省が9月1日に公表した法人企業統計によると、25年4-6月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比0.2%(1-3月期:同3.8%)とかろうじて3四半期連続の増益となった。トランプ関税の影響などから製造業が前年比▲11.5%(1-3月期:同▲2.4%)と減少幅が拡大したが、非製造業が前年比6.6%(1-3月期:同7.0%)と堅調を維持し、製造業の落ち込みをカバーした。
製造業は、円高の影響などから売上高の伸びが25年1-3月期の前年比5.7%から同1.3%へ大きく鈍化したことに加え、売上高経常利益率が24年4-6月期の11.6%から10.1%に悪化したことが収益の押し下げ要因となった。売上高経常利益率を要因分解すると、金融費用要因は利益率を押し上げたが、人件費要因、変動費要因、減価償却費要因がマイナスとなった。

非製造業は、売上高の伸びが25年1-3月期の前年比3.8%から同0.6%に鈍化したが、売上高経常利益率が24年4-6月期の8.9%から9.4%に改善したことが収益の押し上げ要因となった。人件費が前年比4.1%と売上高の伸びを上回ったことから、人件費要因がマイナスとなったが、金融費用要因、変動費要因、減価償却費要因がプラスとなった。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)

2.トランプ関税の影響で自動車は前年比▲30%程度の大幅減益

経常利益を業種別に見ると、製造業は、生産用機械(前年比20.9%)、電気機械(同29.5%)、情報通信機械(同43.8%)は増益となったが、輸送機械(同▲29.7%)、化学(同▲19.0%)、鉄鋼(同▲48.2%)、金属製品(同▲36.6%)などが軒並み前年比二桁の大幅減益となった。なお、4月から米国向け輸出に25%の追加関税が課せられている自動車・同付属品は前年比▲29.6%だった。輸出価格を大幅に引き下げたことから米国向け輸出は数量ベースでは横ばい圏で踏みとどまったが、価格の引き下げにより売上高経常利益率が24年4-6月期の17.7%から12.1%(前年差▲5.6%)へ悪化したことが収益を大きく下押しした。

非製造業は、建設業(前年比▲8.5%)は減益となったが、運輸・郵便業(同20.3%)、サービス業(同17.2%)、不動産業(同7.6%)などが増益となった。
経常利益(季節調整値)の推移 季節調整済の経常利益は前期比0.7%(1-3月期:同▲3.1%)と2四半期ぶりに増加した。製造業は前期比▲6.6%(1-3月期:同▲16.3%)と2四半期連続で減少したが、非製造業が前期比4.4%(1-3月期:同5.3%)と3四半期連続で増加した。

経常利益(季節調整値)は29.5兆円(1-3月期:29.3兆円)となった。製造業はピーク時(24年10-12月期)から2割以上落ち込んでいるが、非製造業は25年1-3月期に続き過去最高水準を更新した。トランプ関税の影響を強く受ける製造業と影響が小さい非製造業で明暗が鮮明となっている。

3.設備投資は堅調を維持するが、先行きは減速が見込まれる

設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比7.6%(1-3月期:同6.4%)と2四半期連続で増加した。製造業が前年比16.4%(1-3月期:同4.2%)と17四半期連続で増加し、前期から伸びが大きく加速した。非製造業は前年比3.0%(1-3月期:同7.6%)と2四半期連続で増加したが、前期から伸びが鈍化した。
設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 季節調整済の設備投資(ソフトウェアを含む)は前期比6.3%(1-3月期:同0.9%)と5四半期連続で増加した。非製造業は前期比▲1.0%(1-3月期:同2.4%)と5四半期ぶりに減少したが、製造業が前期比6.3%(1-3月期:同0.9%)と4四半期連続で増加し、前期から伸びが加速した。

製造業は企業収益が悪化する中でも設備投資は好調を維持しているが、これは設備投資が企業収益に遅れて動く傾向があるためである。先行きについては、足もとの企業収益悪化を受けて製造業の設備投資は減速することが予想される。

4.4-6月期・GDP2次速報は1次速報とほぼ変わらず

本日の法人企業統計の結果等を受けて、9/8公表予定の25年4-6月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.2%(前期比年率0.9%)になると予想する。1次速報の前期比0.3%(前期比年率1.0%)からほぼ変わらないだろう。

設備投資は1次速報の前期比1.3%から同1.1%に下方修正されると予想する。
2025年4-6月期GDP2次速報の予測 設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比5.2%(1-3月期:同6.9%)と17四半期連続で増加したが、前期から伸びが鈍化した。法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるが、当研究所でこの影響を調整したところ、前年比5%弱となった。金融保険業の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比17.8%(1-3月期:同14.0%)と2四半期連続で増加し、前期から伸びを高めた。

1次速報段階では、設備投資の需要側推計値は前年比6.1%となっていた。本日の法人企業統計の結果は設備投資の下方修正要因と考えられる。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映されるが、1次速報の前期比・寄与度▲0.3%から変わらないだろう。

その他の需要項目では、公的固定資本形成は6月の建設総合統計の結果が反映され、前期比▲0.5%から同▲0.1%へ上方修正されると予想する。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月01日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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