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2025年08月20日

貿易統計25年7月-貿易収支は事前予想を大きく下回ったが、関税引き上げの影響本格化はこれから

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.貿易収支は事前予想を大きく下回る

財務省が8月20日に公表した貿易統計によると、25年7月の貿易収支は▲1,176億円の赤字となり、事前の市場予想(QUICK集計:2,131億円の黒字、当社予想は2,923億円の黒字)を大きく下回った。輸出は前年比▲2.6%(6月:同▲0.5%)と3ヵ月連続で減少したが、輸入が前年比▲7.5%(6月:同0.3%)と大幅に減少したため、貿易収支は前年に比べ5,108億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比1.2%(6月:同2.5%)、輸出価格が前年比▲3.7%(7月:同▲2.9%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比4.0%(6月:同13.1%)、輸入価格が前年比▲11.0%(6月:同▲11.3%)であった。
貿易収支の推移/貿易収支(季節調整値)の推移
輸出金額の要因分解/輸入金額の要因分解
季節調整済の貿易収支は▲3,030億円と5ヵ月連続の赤字となり、6月の▲2,476億円から赤字幅が若干拡大した。輸出が前月比▲0.2%の減少、輸入が同0.4%の増加となった。
原油価格(ドバイと入着ベース)の推移 25年7月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=71.4ドル(当研究所による試算値)と、6月の70.3ドルから若干上昇した。足もとの原油価格(ドバイ)は60ドル台後半で推移しており、指標価格に上乗せされる調整金、船賃、保険料などを含めた通関ベースの原油価格は8月には70ドル台半ばまで上昇することが見込まれる。

2.米国向け自動車輸出は数量ベースでは横ばい圏

25年7月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲2.3%(6月:同▲1.6%)、EU向けが前年比▲3.7%(6月:同7.0%)、アジア向けが前年比2.2%(6月:同4.4%)、うち中国向けが前年比▲0.3%(6月:同▲5.8%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 25年7月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比▲3.2%(6月:同▲0.2%)、EU向けが前月比▲4.3%(6月:同0.8%)、アジア向けが前月比▲1.8%(6月:同3.0%)、うち中国向けが前月比▲1.6%(6月:同0.3%)、全体では前月比▲2.8%(6月:同1.6%)となった。

米国向けの減少幅が拡大したが、7月は主要国・地域向け輸出が全て前月比でマイナスとなっており、米国の関税引き上げによる影響とは言い切れない。
25%の追加関税が課せられている米国向け自動車輸出(金額)は前年比▲28.4%と6月の同▲26.7%から減少幅が若干拡大した。輸出価格が前年比▲26.1%(6月:同▲29.1%)と大幅なマイナスが続く中、輸出数量が6月の前年比3.4%から同▲3.2%と減少に転じた。

北米向け乗用車の輸出物価指数を契約通貨ベースでみると、3月の前年比▲1.5%から4月が同▲8.1%と低下幅が拡大した後、5月以降は同▲20%近いマイナスとなっている。
米国向け自動車輸出の推移/輸出物価(米国向け自動車)の推移
米国向け自動車輸出は数量ベースで減少に転じたが、均してみれば横ばい圏の動きとなっており、引き続き輸出価格の大幅な引き下げによって輸出数量の落ち込みは抑制されている。ただし、収益の大幅悪化を伴う値下げによるシェアの維持には限界があり、すでに日本の主要自動車メーカーは米国での販売価格を引き上げている。米国での値上げは日本車の価格競争力低下を意味する。今後、米国向け自動車輸出は数量ベースの減少傾向がより明確となることが予想される。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月20日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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