- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 環境経営・CSR >
- 持続可能なESGを求めて-目標と手段とを取り違えないこと
持続可能なESGを求めて-目標と手段とを取り違えないこと
金融研究部 常務取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 サステナビリティ投資推進室長 德島 勝幸
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
本来のESGは、SDGsを推進するための手段である。人間も組織も手段を目的化してしまいがちであり、真の目標が何処にあるかを常に意識することが重要である。ESGの推進そのものを目的化したことから、世界的に反ESGの動きが生じてしまっているように考えられる。ESGへの取り組みを形式的なものにせず、本当に持続可能な取り組みになっているかどうか、しっかり取り組みの意味するところを考えておきたい。
■目次
・ESGは手段であって目的ではない
・反ESGの動きへの対応
・ESGへの適切な取り組み
ESGは手段であって目的ではない
国連の提唱したESGは、自ら設定したMDGs(Millenium DevelopmentGoal s;後にSDGs(Sus tainable Development Goals))を達成するための手段であって、直接の目的ではない。目標とされているのは、日本語で言えば「持続可能な成長」である。経済的な成長を実現することが目標であり、それを長期に支え持続可能にするための手段がESGである。したがって、ESGによって経済成長を阻害するべきではないし、経済的な安全保障を脅かすことがあってはならないと考えられる。
また、置かれている国や経済によって、ESGの取り組み内容が異なるのも自然である。熱帯地域の国と極地に近い極寒の国とでは、当然、取組みは異なる。寒冷地で生活するために、何らかの熱を発生することは否定されない。地域特性を無視した一律の基準は、必ずしも適切ではないだろう。
また、以前から主張しているように、ESGへの取り組みも、燃焼といった一局面のみを捉えるのではなく、全体を包摂して考える必要がある。例えば、水素を燃焼すると副産物は水だけであり、極めてクリーンであるが、その水素を生成する過程で環境に好ましくない副産物が生じていないかの確認が必要である。また、電力を産出するために太陽光パネルを用いるとしても、耐用年数を過ぎた廃パネルの適切な処理が担保されなければ、必ずしも望ましいものではない。
反ESGの動きへの対応
ESGへの取り組みを“サステナブルかどうか”という観点から見直すことで、行き過ぎた感のある一部のESGを、より適正な取り組みに戻すことが可能になるだろう。大量の温室効果ガスを排出する飛行機の利用を忌避するフライト・シェイム(Flight Shame)という主張も、代替として化石燃料を燃焼する自動車や船舶を利用しては意味がない。だからと言って、ヨット等自然エネルギーを利用するといった極端に走るのは、環境保全と効率性とのバランスを失している。
筆者はよくプロ野球の試合を球場で観戦する。太陽光パネルで発電して電気を賄っている球場も見られるが、その一方で、巨大な照明塔でグラウンドを照らすだけでなく、選手が登場する際に炎を演出したり、ジェット風船を飛ばし、時に花火も打ち上げる。ESGを徹底するならば、矛盾する行為と言わざるを得ない。しかし、人々は容認している。墨田川など大きな花火大会にしても、火薬の燃焼で温室効果ガスを不必要に排出していると批判できるかもしれない。しかし、こういった季節のイベントがあることで、観光収入が得られ、人々のメンタルが保たれるなら、容認されるのである。
温室効果ガスのゼロエミッションに向けた取り組みも、あくまでもネットゼロを目指すべきで、まったく排出しなくなるように取り組むのとは意味合いが異なるだろう。そういう観点からは、トランジションを評価する考え方を、より強くして行くことが適切なのではないか。
ESGへの適切な取り組み
NHKのドラマ『べらぼう』で取り上げられた寛政の改革を批判する狂歌で、「白河の清き魚のすみかねて もとの濁りの田沼恋しき」というものがあるが、ESGにしても同じではなかろうか。極端なESGは持続可能ではなく、ある程度の許容幅を持つことが必要なのであり、現実的な取り組みと解決に導くものであると考える。
(2025年11月20日「基礎研レター」)
03-3512-1845
- 【職歴】
・1986年 日本生命保険相互会社入社
・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
・2025年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・日本ファイナンス学会
・証券経済学会
・日本金融学会
・日本経営財務研究学会
德島 勝幸のレポート
| 日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
|---|---|---|---|
| 2025/11/20 | 持続可能なESGを求めて-目標と手段とを取り違えないこと | 德島 勝幸 | 基礎研レター |
| 2025/07/03 | アクティブ運用かパッシブ運用か | 德島 勝幸 | ニッセイ年金ストラテジー |
| 2025/05/09 | ESGからサステナビリティへ~ESGは目的達成のための手段である~ | 德島 勝幸 | 基礎研レター |
| 2024/07/03 | 見直しを迫られる国内債券パッシブ運用 | 德島 勝幸 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年11月20日
持続可能なESGを求めて-目標と手段とを取り違えないこと -
2025年11月20日
「ラブブ」とは何だったのか-SNS発の流行から考える“リキッド消費” -
2025年11月19日
1ドル155円を突破、ぶり返す円安の行方~マーケット・カルテ12月号 -
2025年11月19日
年金額改定の本来の意義は実質的な価値の維持-年金額改定の意義と2026年度以降の見通し(1) -
2025年11月19日
日本プロ野球の監督とMLBのマネージャー~訳語が仕事を変えたかもしれない~
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【持続可能なESGを求めて-目標と手段とを取り違えないこと】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
持続可能なESGを求めて-目標と手段とを取り違えないことのレポート Topへ










