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2025年07月03日

アクティブ運用かパッシブ運用か

金融研究部 常務取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 サステナビリティ投資推進室長 德島 勝幸

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資産運用において、アクティブ運用を選ぶか、パッシブ運用を選ぶか、は永遠の課題であると言って良い。言い換えるならば、α(超過収益)を狙うか、β(市場平均並み)を狙うか、である。どんな局面でもαを獲得できるアクティブ運用は存在しないし、運用資産の100%をアクティブ運用に振り向けるのは、現実的でない。将来の運用局面においてαの獲得が期待できるアクティブ運用を採用することが、資産配分を担いマネジャーストラクチャーを決定するアロケーターの役割であり、必ずしも過去のトラックレコードだけでは判断してはならない。また、バックテストを鵜呑みにするのも危険である。金融工学的手法によるマネジャー選択も、過去の局面における最適化であって、決して将来のα獲得を約束するものではない。
 
運用者がパッシブ運用を採用する理由としては、運用環境の変化に応じてリバランスを柔軟に行うためという共通のものの他に、GPIFのように資産規模が大きくアクティブ運用を採用しきれないとか、優秀なアクティブ運用を探し出せないため暫定的にパッシブに置いておくとか、といったものが考えられる。また、運用手数料が相対的に安価であるため、獲得できるαと運用手数料の水準を考慮しアクティブ運用に多くを委託しないという判断も考えられる。アクティブ運用において手数料等を控除するとパッシブ運用程度の利回りしか獲得できないのであれば、アクティブ運用に委託する意義は乏しい。仮に運用手数料が高くとも、手数料を大きく上回る高いパフォーマンスを獲得することがアクティブ運用の存在意義である。
図表 GPIFのパッシブ運用比率推移(%)
パッシブ運用は基本的に装置産業的な運用手法であり、運用手数料は安い。ETFを購入する等の代替手法を利用しない限り、銘柄入替え等をシステム化したアセットマネジャーに委託することになる。短期間であれば先物取引で同様の効果を得ることも可能であるが、デリバティブに対する関係者のアレルギーは強く、GPIFのようにアロケーションを行うアセットオーナー自らが利用するのでなければ、実質的な効果は小さい。パッシブ運用の問題点は古くから言われているように、指数に含まれる銘柄を何らの判断もなく購入するという消極的な姿勢にあった。パッシブ運用のマネジャーは、かつては指数に追随するように的確な銘柄の保有比率の調整を行うことのみが求められるものであったが、現在は、それに加えて、投資対象の企業経営に対して、エンゲージメントを通じて関与することが求められるようになっている。
 
日本の伝統的資産を運用するアセットマネジャーの多くは、アクティブ運用に課する運用手数料は高くないが、それ以上にパッシブ運用の運用手数料は低い。十分なαを得られるのであれば、運用手数料が高くても、アセットマネジャーも運用委託者もともに良好な成果となるが、実際には、運用手数料はより低いことを望まれる傾向にある。アセットオーナーの多くは、マネジャーセレクションにおいて、運用手数料が低廉なことを優先するが、果たしてそれで良いのだろうか。GPIFは成功報酬制を導入し、αの獲得が乏しい場合にはパッシブ運用並みの手数料とし、十分なαが得られた場合には、より多くの手数料を支払うとしている。しかし、他のアセットオーナーに追随する動きは乏しい。金利水準が上昇している中では、より高い運用利回りやより大きな超過収益の獲得を、もっと大きく評価することが必要であろう。
 
年金基金は、投資理論等に基づいてアクティブ/パッシブ比率を予定することが少なくない。超過収益(シャープレシオ)、運用手数料、リバランスコストなどの要素から理論値を算出することが考えられるが、基本的にアクティブ/パッシブ比率は、これくらいをアクティブ運用に回すという目標値でしかない。優秀なアクティブ運用へ委託することができなければ、暫時パッシブ運用に置いておくので、目標よりもパッシブ運用が多くなることが考えられる。
 
基本的にパッシブ運用を採用する者は市場にとってフリーライダーであり、全運用者がパッシブ運用のみを採用するならば、パフォーマンスはインデックスとアロケーションのみによって定まるものとなる。全額をパッシブ運用とするアセットオーナーは、十分な運用人材がいないために、適切なアクティブ運用を選択できないのかもしれないし、アセットマネジャーからのアクセスが乏しいのかもしれない。全額をパッシブ運用とする場合、自らのアセットオーナーとしての不明を恥じるべきか、運用業界に適切なアクティブマネジャーが不在であることを嘆くべきだろうか。アセットオーナーは、本来ならば、積極的にアクティブ運用への委託を考えることが、アセットオーナー・プリンシプルの趣旨を考えても望ましく、全資産をパッシブ運用とする場合には、十分な説明責任を果たすことが求められる。また、資産運用業界は適切なアクティブ運用者が存在していないという認識に対して、大きな課題があることを意識すべきであろう。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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金融研究部   常務取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 サステナビリティ投資推進室長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
債券・クレジット・ALM

経歴
  • 【職歴】
     ・1986年 日本生命保険相互会社入社
     ・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
     ・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
     ・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
     ・2025年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・日本ファイナンス学会
     ・証券経済学会
     ・日本金融学会
     ・日本経営財務研究学会

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