2024年07月03日

見直しを迫られる国内債券パッシブ運用

金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸

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3月に日本銀行が金融緩和政策を見直した後も円安はなかなか解消せず、金融市場が催促するかのように、10年国債利回りは上昇するようになった。それまでの7年間以上にわたって日銀によって利回り水準が市場で操作されて来ており、その管理が撤廃されたことを受けて、以前に上限とされていた1.0%を越えると、更なる金利の上昇も見られるようになった。圧倒的な市場参加者による価格コントロールが廃されて、ほぼ純粋な市場原理で利回りが決まることになったのである。10年国債利回りだけでなく、中期から超長期にかけての広い年限の国債利回りは、緩やかに水準訂正がはじまったと言って良いものと考えられる。
 
過去30年以上にわたって、日本の金利は低下若しくは低位安定を継続して来た。その中で、日本の公的年金や企業年金の多くは、国内債券運用の評価軸として市場インデックスを採用していた。図表1にあるように、市場インデックスの種別構成(2024年3月末)を見ると、日本の債券市場は圧倒的な国債残高に対して、一般債はわずかな比率に留まる構造にある。この間、財務省は市場の要望等を勘案し慎重ながらも、30年国債や40年国債といった超長期国債の発行を増やして来た。図表2で毎年度の国債の市中発行額(カレンダーベース)を見ると、足元の超長期国債の比率は12~17%と必ずしも高くはない。しかし、これは2020年度にコロナ対策で短期国債を大幅増発したことによるもので、そもそも短期国債は年金運用の評価軸となっている市場インデックスには含まれない。短期国債を除く市中発行額から見ると、ほぼ20%程度が超長期国債になっている。短期国債を除く国債の平均償還年限(右軸)を推計すると、今年度は10.4年程度と市場インデックスを上回る水準になっている。
 
図表1:NOMURA-BPI総合の種別構成、図表2:国債の市中消化長期化(兆円、年)
金利の低下する局面での債券運用において、デュレーションの長期化はインカム収益に加えて、ローリング効果とキャピタル収益をもたらす。しかし、これからの金利上昇局面においては、利回り上昇によって多少のインカム増収効果はあるものの、キャピタル損失の発生が懸念される。国債発行計画において超長期国債が増発されることも考えられる。金利上昇の前に長めの資金調達を企図するのは、資金調達者として当然のことである。その結果、債券のパッシブ運用は、金利上昇の中でデュレーションの長期化を求められる可能性がある。金利上昇局面でキャピタル損失を抑制するには、キャッシュ比率の引上げや、債券の空売り、先物やスワップといったデリバティブ取引によるヘッジといった手法が考えられるものの、パッシブ運用においては、愚直なまでの市場インデックスに合わせたロングポジションしか許容されない。
 
図表3:市場インデックスの修正デュレーションと10年国債利回り(%)の推移
図表3を見ると、2003年のVaRショック以降の10年国債利回りの低下局面において、市場インデックスのデュレーションが伸び続けて来たために、国内債券のパッシブ運用が大きなメリットを享受してきたことが分かる。足元では金利の上昇によってデュレーションの長期化が停滞しており、また、市中に発行される国債の推定償還年限はインデックスより少し長い程度であるため、大きなネガティブ効果は現れていないようである。しかし、今後の金利上昇の速度と発行される国債の年限構成次第では、市場インデックスに基づく国内債券のパッシブ運用が大きな危機を迎えるかもしれない。かつて株価が低迷を続ける局面において、マイナスリターンのTOPIXに連動するパッシブ運用に対しては、キャッシュ化すべきだとか、アクティブ運用で超過収益を狙うべきだといった主張が多く聞かれた。久しぶりの金利上昇局面においては、国内債券運用の在り方を早急に見直す必要があると考えられる。
 

(2024年07月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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金融研究部   取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
債券・クレジット・ALM

経歴
  • 【職歴】
     ・1986年 日本生命保険相互会社入社
     ・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
     ・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
     ・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
     ・2021年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・日本ファイナンス学会
     ・証券経済学会
     ・日本金融学会
     ・日本経営財務研究学会

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