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債券・株式収益率の相関をどう考えるか

名古屋市立大学 名誉教授 臼杵 政治
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米国での株式・債券リターンの相関係数は、1960年代まではマイナスであったのが、70年代以降はプラス、さらに2000年代にはマイナスに戻った。ところが、この1、2年相関係数はプラスになっており、それがいつまで続くかと議論を呼んでいる。あえて一言でいうと、相関係数の符号は、金融政策の目標が景気(失業率)かインフレ率か、に依存する(図表1)。
物価抑制を重視するインフレレジームでは、予期せぬ物価上昇があると、実質利回りを維持するため長期債利回りが上昇する。インフレを抑えるための金融引締め政策が金利上昇を加速し、債券価格は下落する。企業の売上高が減る上、将来の収益から適正な株価を算定する際に使う割引率(=リスクフリーレート+リスクプレミアム)が上昇するため、株価も下落する。他方、物価が安定すれば金融引締は終了する。長期金利が低下し、債券は値上がりする。景気回復(売上の増加)により企業収益の見通しが改善し、割引率も低下するので、株価は値上がりする。このように債券価格・株価が同じ方向に動くので相関係数はプラスとなる。
レジームを決めるのはインフレ率の変動である。米国消費者物価上昇率の標準偏差(年率)は、1971-2000年が3.2%、2001-2020年は1.1%であった。2000年代以降はインフレ率の変動が小さく、当局の主な関心は景気後退さらにバブル崩壊による金融システム危機であった。景気循環レジームの金融政策の下、株式と債券リターンの間の相関係数はマイナスになった。
日本ではどうか。年金ポートフォリオの主要な資産クラスのうち、リスク寄与度が大きい内外株式について、国内債券、外国債券、ヘッジ付き外国債券の3つの債券クラスとの間の1985年度以降の相関係数の推移を計測した(36か月移動平均:図表2)。
第2に外国株式と外国債券との相関係数は、全38年間を通じて0.6前後で推移した。米国内で株式・債券リターンの相関がマイナスになった後半でも0.6に止まっているのは、為替レートの影響であろう。現地通貨建てのリターンが株式でプラス、債券でマイナスであっても、現地の金利上昇が円安を招けば円建ての外国債券リターンはプラスに転じうる。一方、外国株式と国内債券、ヘッジ付き外債の相関はここでも非常に似た推移を辿っている。最後にこの1、2年は、内外株式と国内債券及びヘッジ外債の相関係数が上昇して対外国債券と同水準となっている。海外では金融引締めにより、株式・債券ともにマイナスリターンとなった。日本でも金融政策転換の観測が生じ、国内債券、ヘッジ付き外債ともにマイナスのリターンとなった。
まとめるなら、2004年前後から先進国市場の一体化が進み、国境をまたぐ市場、すなわち国内株式とヘッジ付き外債、外国株式と国内債券でも、リターン間にマイナスの相関がみられた。しかし、金融政策がインフレレジームに転換した2020年以降は、内外株式・債券の相関係数はプラスに転じた。変化を引き起こしたインフレレジームの金融政策が続くのかどうか、その答えは誰にもわからない。当面、景気循環、インフレどちらのレジームも前提とせず、外国株式・外国債券間以外は株式・債券リターンの相関係数をゼロとして、基本ポートフォリオを策定するのが堅実な対応かもしれない。
(2023年08月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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