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2025年10月15日

IMF世界経済見通し-世界成長率見通しは3.2%まで上方修正

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.内容の概要:見通しは3.2%まで改善

10月14日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(WEO:World Economic Outlook)を公表し、内容は以下の通りとなった。
 

【世界の実質GDP伸び率(図表1)】
2025年は前年比3.2%となる見通しで、25年7月時点の見通し(同3.0%)から上方修正
2026年は前年比3.1%となる見通しで、25年7月時点の見通し(同3.1%)から変化な

(図表1)世界の実質GDP伸び率/(図表2)先進国と新興国・途上国の実質GDP伸び率

2.内容の詳細:リスクは引き続き下振れ

IMFは、今回の見通しを「変動期の世界経済、見通し依然暗く(Global Economy in Flux, Prospects Remain Dim)」と題して作成した1
 
IMFは今回公表された成長率見通しで25年を上方修正した(25年3.0%→3.2%、26年3.1%→3.1%)。

IMFは上方修正の要因として、関税の影響が当初発表されていたより小さいことを挙げている。また、今年上半期は輸入の前倒しや貿易フローの経路変更といった供給網の迅速な再編成が見られたとする。また、米国における関税コストの消費者物価への転嫁も限定的にとどまっているとする。一方、見通しは昨年(24年10月)時点よりは下振れており、不確実性と保護主義の逆風が景気減速に反映されているとした。なお、米国の実効関税率の想定は18.8%(4月見通し24.4%、7月見通し17.3%)となっている。
 
成長率見通しを地域別に見ると(前掲図表2、図表3)、先進国と新興国・途上国の双方で25年が上方修正された(先進国:25年1.5%→1.6%、26年1.6%→1.6%、新興国・途上国:25年4.1%→4.2%、26年4.0%→4.0%)。

先進国のうち、米国の見通しは7月時点と概ね変わらない(25年1.9→2.0%、26年2.0→2.1%)。関税率前提の(4月時点からの)低下、金融情勢の緩和、予算成立が追い風となる一方、不確実性の増大、貿易障壁、労働力の鈍化が成長率の押し下げ要因としている。

ユーロ圏の成長率は25年が上方修正された(25年1.0%→1.2%、26年1.2%→1.1%)。ドイツの実質賃金改善や財政緩和による消費押し上げは部分的なものにとどまる一方、アイルランドが堅調だったことが25年の成長率を押し上げるとする。なお、IMFは昨年(24年10月)と比較すると不確実性の高まりと関税引き上げにより下方修正された点も強調している。

日本は25年が大幅に上方修正されており、外需減速の逆風のなか、実質賃金上昇の加速が消費を支えると予想されている(25年0.7%→1.1%、26年0.5%→0.6%)。
 
新興国・途上国では、中国の成長率は変更されなかった(25年4.8%→4.8%、26年4.2%→4.2%)。

インドは第1四半期が好調で米国の関税引き上げの影響を相殺したとして、25年度の見通しが上方修正された。ただし26年度は下方修正されている(25年度6.4%→6.6%、26年度6.4→6.2%)。
 
その他の国では、メキシコ(25年0.2→1.0%、26年1.4%→1.5%)が予想を上回って好調なため、25年が大幅に上方修正された。一方、ロシアは24年の財政拡大の反動で25年の成長率見通しが下方修正された(25年0.9%→0.6%、26年1.0%→1.0%)。
(図表3)主要国・地域の成長率
(図表4)先進国と新興国・途上国のインフレ率 インフレ率については(前掲図表1・4)、先進国では26年が若干上方修正、新興国・途上国では25年がやや下方修正、26年が上方修正となった(先進国:25年2.5→2.5%、26年2.1→2.2%、新興国・途上国:25年5.4→5.3%、26年4.5→4.7%)。世界全体では26年がわずかに上方修正されている(25年4.2→4.2%、26年3.6→3.7%)。ただし、国別には特に米国・英国では(昨年の24年10月見通し対比で)上方修正が顕著であるとし、英国では規制価格などの影響、米国では関税の消費者への転嫁が影響しているとする。
IMFは今回の見通しに対するリスクは前回見通しに引き続いて下向きに傾いているとした

こうしたリスク要因のうち、IMFは下振れリスクとして「貿易政策の不確実性の長期化・保護主義的な貿易措置の拡大」「労働供給ショック(移民政策の厳格化)」「財政の脆弱性、金融市場の不安定化、それらの相互作用」「新技術の再評価(楽観的期待の剥落)」「健全な統治、制度的独立性の浸食(中央銀行への政治的圧力など)」「商品価格の急騰(気候変動、地域紛争、広範な地政学的緊張)」を、上振れリスクとして「貿易交渉の進展と関税引き下げ、政策の予見可能性向上」「構造改革の加速」「人口知能による生産性向上」を指摘している。
 
IMFはこうしたリスクに関連して、下振れと上振れのシナリオ分析を提示している。下振れシナリオでは、①関税引き上げ・供給網の混乱(4月・6月・7月に公表された関税率のうち高いものを採用、実効関税率は10%ポイント上昇、報復措置はなし)、②インフレ期待の上昇、③長期金利上昇、世界的な金融市場の緊張、④米国資産に対する世界的な需要後退、が重なる形でシナリオ化し、上振れシナリオでは、(1)低関税への回帰、(2)貿易政策の不確実性低減、(3)AIによる予想以上の利益ついて、図表5・6 の通り試算している。
(図表5)下振れシナリオによる世界成長率への影響/(図表6)上振れシナリオによる世界成長率への影響
最後に、今回の見通しでは特集として商品価格の変動がマクロ経済に及ぼす影響が分析されている。そこでは、その国の経済における商品部門の規模よりも、他の部門との結びつきの強さがマクロ経済への影響を左右すると分析されている。
 
1 同日に「政策が変わり複雑な要因が働く中、世界経済見通しにわずかな変化(Global Economic Outlook Shows Modest Change Amid Policy Shifts and Complex Forces)」との題名のブログも公表された。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月15日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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