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2025年09月12日

欧州経済見通し-関税合意後も不確実性が残る状況は続く

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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■要旨
 
  1. ユーロ圏の4-6月期の実質成長率は前期比0.1%(年率換算:0.5%)となり、関税引き上げ前の駆け込み生産・輸出が見られた1-3月期(前期比0.6%、年率2.3%)からは大幅に減速したが、在庫積み上げによる押し上げもあってプラス成長を維持した。基調的には緩やかな回復傾向が継続している。
     
  2. 8月のHICP(速報値)は総合指数が前年比2.1%、コア指数が2.3%と2%目標前後で推移しており、ECBのインフレ目標はほぼ達成された状況と言える。
     
  3. ECBは6月にかけて政策金利(預金ファシリティ金利)を4.0%から2.0%まで引き下げた後、政策金利を据え置いている。ラガルド総裁は現在の金利水準を「様子見する良い位置」と評している。
     
  4. 米国とEUの間で通商交渉が枠組み合意に至ったことで不確実性はやや後退したが、合意内容の実行可能性には疑問が残るなど、不確実性が解消された訳ではない。おおむね合意内容に沿った関税政策が採られ、EUも報復関税を実施しないという前提のもとでは、駆け込み後の一時的な落ち込みの後、消費を中心とした緩やかな回復が続くと見込まれる。成長率は25年1.1%、26年0.9%、インフレ率は25年2.1%、26年1.8%と予想する(図表1・2)。
     
  5. 政策金利は現行の金利水準(2%)がECB試算の中立金利推計値の中央値であり、インフレリスクが上下双方ともに想定されることもあって、積極的に金利を変更する動機に乏しく、据え置きが続くと予想する。
     
  6. 成長率のリスクは下方に傾き、インフレリスクは上下双方に不確実性が存在する。米国との対立が再燃し、米国・EUの関税率が双方引き上げられる可能性も残っている。
(図表1)ユーロ圏の実質GDP/(図表2)ユーロ圏の物価・金利・失業率見通し
■目次

1.経済・金融環境の現状
  (関税政策を巡る状況)
  (実体経済:4-6月期は駆け込み生産・輸出の剥落で減速したが、プラスを維持)
  (景況感は力強さに欠ける状況が継続)
  (失業率が低位安定するなか、人手不足感の緩和が継続)
  (物価・賃金:インフレ目標をほぼ達成)
  (財政政策:財政リスクに配慮しつつ防衛分野は強化へ)
  (金融政策・金利:政策金利は中立金利水準で様子見)
2.経済・金融環境の見通し
  (見通し:基調的には消費主導の緩やかな成長を予想)
  (リスク:米国の各種政策に関する不確実性は引き続き残る)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月12日「Weekly エコノミスト・レター」)

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