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2024年08月05日
米国から学ぶ成功する投資教育の条件
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2022年の資産所得倍増プラン、さらに昨年は資産運用立国実現プランが公表される中、国民の金融リテラシーの向上が政策課題となっている。そこで注目されるのが企業型確定拠出年金における投資教育である。現在、確定拠出年金法22条では、事業主は「資産の運用に関する基礎的な資料の提供その他の必要な措置を継続的に講ずることに努める」とする。「継続的に」とあるように、2018年以降、加入時だけでなくその後も定期的に投資教育をする努力義務が課された。現在80%の事業主が、継続投資教育を実施したとしており、投資教育は広がっている。
そこで本稿では、投資教育の効果や内容、方法について考えてみたい。1つの参考になるのが米国の先例である。401(k)プラン加入者などの個人情報の利用がある程度可能なこともあり、2000年代以降投資教育に関して多くの研究成果が蓄積されている。以下では3つの論点について研究の成果を紹介する。
第1の論点は、投資教育の効果である。すなわち、投資教育が金融リテラシーを高め、その結果、本当にリスク資産投資など行動に影響するかどうか、である。当初は投資教育を受けたことと株式などリスク資産への投資に相関関係があったとしても、直接の因果関係を示していない、という反論があった。例えば、学歴や所得の高い層は、そうでない層よりも知識の吸収に積極的であり、教育を受ければ知識が高まりやすい。ただ、そうした層は教育と関係なく、投資リスクを取る経済的な余裕がある。その結果、教育とリスク資産投資との間に見せかけの相関があるように見えるのかもしれない、というのである。この点の論争はまだ続いているものの、最近のさまざまな研究から、投資教育の実施が加入者のリテラシーを向上し、それがリスク資産投資など望ましい金融行動につながるという、2段階の因果関係が認められている。
第2の論点が教育の内容である。例えば一度にあまり多くの内容を盛り込まず、いくつかの重要な点に絞り、わかりやすく説明することが必要だとされている。インフレーションやリスク分散効果が重要であるのは無論、ここで取り上げたいのが複利の効果である。仮に現預金だけに投資した場合の期待リターンが1%、リスク資産投資を含む投資の期待リターンが3%あるいは5%としよう。この「たった2%あるいは4%」の差が長期では大きな積立額の差になる。右図は毎年初めに50万円ずつ積み立てた場合の30年後までの積立額を示している。30年間計1,500万円を拠出すると、期待リターン1%の積立額1,757万円に対して、3%のケースが2,450万円、5%であれば3,488万円とそれぞれ1.4倍、2倍になる。米国の研究では、公的年金との合計で将来の理想とする年金額(積立額)を得るために必要な掛金額がわかるような仕掛けを準備したことで、確定拠出年金への加入割合や掛け金拠出額が高まった、と言う。
第3に教育の方法については、 (1)全体へのセミナーの他、ビデオを組み合わせるだけでなく、個別のニーズに応じて相談できる体制を整える、 (2)セミナーの後に従業員同士、コミュニケーションを取らせると、例えば株式への長期分散投資の重要性に気付きやすい、 (3)教育の効果は時間とともに薄れるため、定期的に繰り返し実施する、などを強調する研究がある。
そこで本稿では、投資教育の効果や内容、方法について考えてみたい。1つの参考になるのが米国の先例である。401(k)プラン加入者などの個人情報の利用がある程度可能なこともあり、2000年代以降投資教育に関して多くの研究成果が蓄積されている。以下では3つの論点について研究の成果を紹介する。
第1の論点は、投資教育の効果である。すなわち、投資教育が金融リテラシーを高め、その結果、本当にリスク資産投資など行動に影響するかどうか、である。当初は投資教育を受けたことと株式などリスク資産への投資に相関関係があったとしても、直接の因果関係を示していない、という反論があった。例えば、学歴や所得の高い層は、そうでない層よりも知識の吸収に積極的であり、教育を受ければ知識が高まりやすい。ただ、そうした層は教育と関係なく、投資リスクを取る経済的な余裕がある。その結果、教育とリスク資産投資との間に見せかけの相関があるように見えるのかもしれない、というのである。この点の論争はまだ続いているものの、最近のさまざまな研究から、投資教育の実施が加入者のリテラシーを向上し、それがリスク資産投資など望ましい金融行動につながるという、2段階の因果関係が認められている。
第2の論点が教育の内容である。例えば一度にあまり多くの内容を盛り込まず、いくつかの重要な点に絞り、わかりやすく説明することが必要だとされている。インフレーションやリスク分散効果が重要であるのは無論、ここで取り上げたいのが複利の効果である。仮に現預金だけに投資した場合の期待リターンが1%、リスク資産投資を含む投資の期待リターンが3%あるいは5%としよう。この「たった2%あるいは4%」の差が長期では大きな積立額の差になる。右図は毎年初めに50万円ずつ積み立てた場合の30年後までの積立額を示している。30年間計1,500万円を拠出すると、期待リターン1%の積立額1,757万円に対して、3%のケースが2,450万円、5%であれば3,488万円とそれぞれ1.4倍、2倍になる。米国の研究では、公的年金との合計で将来の理想とする年金額(積立額)を得るために必要な掛金額がわかるような仕掛けを準備したことで、確定拠出年金への加入割合や掛け金拠出額が高まった、と言う。
第3に教育の方法については、 (1)全体へのセミナーの他、ビデオを組み合わせるだけでなく、個別のニーズに応じて相談できる体制を整える、 (2)セミナーの後に従業員同士、コミュニケーションを取らせると、例えば株式への長期分散投資の重要性に気付きやすい、 (3)教育の効果は時間とともに薄れるため、定期的に繰り返し実施する、などを強調する研究がある。
上述の通り、確定拠出年金制度がスタートして20年を経過した日本でも、教育に関するさまざまな知見が得られている。ただ、教育の内容や方法を検証し、改善していく上では課題もある。例えば、教育の効果を測る際、多くの事業主が、教育後のアンケートの他、教育の前後で全加入者の中の、(1)ウェブページへのアクセス回数の変化、(2)掛け金の配分先や積み立て資産の運用対象の変化、(3)元本確保型商品と投資信託の配分割合の変化、などを指標としている。日本では事業主が各加入者の運用先情報を利用できないため、加入者全体の数値を使わざるを得ない。それでも、個人にリテラシーなど理解度のテストを実施し、受講者と非受講者の成績を比較することで、どのような教育に効果があるか判断材料にはできるだろう。
政府の掲げる資産所得倍増には、家計の金融資産2,000兆円の半分を占める現預金を、期待リターンの高いリスク資産に移すことが不可欠であろう。そのうち確定拠出年金の資産はわずか20兆円余に過ぎない。しかし、加入者数はすでに8百万人を超えた。適切な教育を受けることで、これらの加入者がリスク資産投資による成功体験を得れば、それを契機にその人たちの確定拠出年金以外の資産、さらに家族や同僚、友人が保有する現預金へもリスク資産投資が波及するだろう。その意味で資産所得倍増の導火線とも言える確定拠出年金において、投資教育の効果、内容や方法に関して、絶えず見直し、改善を図る試みが求められる1。
1 4月に設立された金融経済教育推進機構では、金融リテラシー向上のため、職域への講師派遣を行うとともに、セミナー後のテストを通じて効果を測るという。事業主がこうした試みを参考にし、また利用することも一案であろう。
政府の掲げる資産所得倍増には、家計の金融資産2,000兆円の半分を占める現預金を、期待リターンの高いリスク資産に移すことが不可欠であろう。そのうち確定拠出年金の資産はわずか20兆円余に過ぎない。しかし、加入者数はすでに8百万人を超えた。適切な教育を受けることで、これらの加入者がリスク資産投資による成功体験を得れば、それを契機にその人たちの確定拠出年金以外の資産、さらに家族や同僚、友人が保有する現預金へもリスク資産投資が波及するだろう。その意味で資産所得倍増の導火線とも言える確定拠出年金において、投資教育の効果、内容や方法に関して、絶えず見直し、改善を図る試みが求められる1。
1 4月に設立された金融経済教育推進機構では、金融リテラシー向上のため、職域への講師派遣を行うとともに、セミナー後のテストを通じて効果を測るという。事業主がこうした試みを参考にし、また利用することも一案であろう。
(2024年08月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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名古屋市立大学 名誉教授
臼杵 政治
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