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資産形成の定義と金融経済教育-確定拠出年金の加入者に伝えたいこと

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
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「資産形成」を「投資」のほぼ同義語と理解して、「資産形成」は「投資」で行うものと思っている人が多いのではないだろうか。以前、雑誌への寄稿を求められた際、編集者の方から「資産形成」と「貯蓄」の違いを中心に寄稿して欲しいと言われ、困惑したことがある。筆者は、「資産形成」の手段は「投資」だけではなく、効率に差はあるが「貯蓄」も「資産形成」の手段だと認識していたからだ。では、改正法案で「資産形成」がどのように定義されるかというと、「金銭、有価証券その他の金融資産の運用により、資産を形成することをいう。」とある。
金銭に明確な定義はないが、紙幣や貨幣も金銭に含まれるのは間違いないだろう。タンス預金といった言葉もあるのだから、「貯蓄」も「資産形成」の手段であると明確に定義されたと喜びたいところだが、「運用」の解釈次第で結論は変わる。運用には「そのものに備わる機能を生かして用いる」という意味の他、「ものを働かせて使うこと」という意味もある。前者の意味なら、「貯蓄」には、元本割れせず、すぐに使うことができるという機能があるので、この機能を生かす「貯蓄」も「資産形成」の手段の一つと言える。一方、後者の意味なら、預貯金の金利がほぼ0%で金融資産を働かしているとは言えない「貯蓄」は「資産形成」に含まれないとも解釈できる。改正法案の定義を読んだだけでは、「資産形成」に「貯蓄」が含まれるのか否かはっきりしないと思うのは筆者だけだろうか。
実は、改正法案を所管する金融庁のHP1に『「資産形成」には、「貯蓄」と「投資」の2つの方法があります。』と明確な記述がある。「貯蓄」は「資産形成」ではないと誤解している人がいるほど、資産形成の啓発や金融経済教育に関する取組が「投資」に傾注するのは、「投資」に対する理解が圧倒的に不足していたからだろう。理解が不十分な内容に特化して教育を施すことも重要だが、体系だった教育も必要だ。改正法案では、適切な金融サービスの利用等に資する金融又は経済知識を習得し、これを活用する能力の育成を図るための教授及び指導(金融経済教育)を推進することを目的とする「金融経済教育推進機構」の創設が定められている。
改正法案の説明資料に示される「金融経済教育」の教材・コンテンツの内容は、家計管理・生活設計、適切な金融用品の選択・資産形成、消費生活の基礎、悪質な投資勧誘など金融トラブル未然防止策等である。投資に関する知識だけでは、金融リテラシーが高いとは言えないのである。
金融トラブルというほどのものではないが、確定拠出年金を受給する段階で困ることが無いよう、確定拠出年金の加入者に是非伝えたいことがある。将来、確定拠出年金を一時金で受給する際に、過去に受給した退職金の源泉徴収票が必要なので、大事に保管しておいた方がいい2。これがないと、確定拠出年金を一時金で受給する際に提出する書類の必要記入事項(過去に受給した退職金の金額や、その際支払った源泉徴収税額等)が分からず、本当に困ることになる。現時点で書類への記入が必要なのは、確定拠出年金を一時金で受給する年を含めて20年内に受給した退職金だけだが、その期間が延びる可能性もある。
20年も保管し続けるのは難しいので、インターネット上で自身の年金記録が確認できる「ねんきんネット」のように、過去受給した退職金に係る情報がインターネットで確認できれば良いのだが、現時点でそのようなサービスはない。過去の勤務先(源泉徴収義務者)に再発行してもらうにしても、源泉徴収義務者に関連書類の保存義務が課されるのは高々8年なので、スムーズに再発行してもらえない可能性もある3。将来起こり得るトラブルを未然に防止する為、確定拠出年金加入者には是非知っておいていただきたい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年04月12日「研究員の眼」)

03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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