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2025年07月03日

国内企業年金が好むオルタナティブ投資

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子

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近年、多くの企業年金が伝統的資産を補完する手段として、オルタナティブ投資を活用している。企業年金連合会の調査結果によると、2005年度にオルタナティブ投資を実施する企業年金の割合が50%を超え、2023年度は約75%であった。ポートフォリオ全体に占めるオルタナティブ投資の割合(内外債券、内外株式、生保一般勘定といった伝統的資産及び短期資産以外の割合)も増加傾向にあり、2023年度は約19%に及ぶ。
 
ポートフォリオにオルタナティブ投資を組み入れることで投資効率の改善が期待されるが、これは、オルタナティブ投資が伝統的資産とは異なるリスク・リターン特性を有するためである。オルタナティブ投資のリスク・リターン特性は多岐にわたり、リスク・リターン特性が伝統的資産と異なる理由もそれぞれである。不動産やインフラ、コモディティのように伝統的資産とは投資対象資産の性質そのものが異なるケースがある一方、プライベート・エクイティやハイイールド債券のように伝統的資産と資産種別が同じであっても、流動性や信用力などの違いを理由にオルタナティブ投資に分類されるケースもある。また、値上がりや配当・利息を期待して資産をあらかじめ定めた割合で保有する従来の投資手法との相違を理由にオルタナティブ投資に分類されるものもあり、その代表例がヘッジファンドやマルチアセット運用である。
 
国内の企業年金はどのようなオルタナティブ商品を採用し、新たにどのようなリスクをとっているのかを確認するために、「オルタナティブ投資年鑑2024(格付投資情報センター)」を参考に国内企業年金のオルタナティブ投資状況を確認した。図表1に資産規模が大きい上位10分類の結果を示している。選択可能なオルタナティブ商品の数(掲載数)には極端な偏りはないが、資産規模は特定の分類に偏り、上位3分類だけで約60%を占める。そして、これらは全て従来とは異なる投資手法が特徴のオルタナティブ投資である。
図表1:オルタナティブ投資分類別の国内年金資産規模
資産規模の大きいオルタナティブ投資の特徴を踏まえると、企業年金はリスク抑制を目的としてオルタナティブ投資を実施していると考えられる。多くの企業年金に支持されるオルタナティブ投資の収益率は、市場環境よりも運用担当者の市場環境を見通したり、適切に価格を評価したりする能力に大きく依存する。従来の投資手法に付随するリスクの大部分を占める市場リスクと運用担当者の能力固有のリスクは無相関と考えられるため、高いリスク削減効果が期待できるからである。加えて、同じ分類の中でもよりリスク抑制的な運用を目指す商品を採用した傾向も確認できる。分類別に、過去5年間の運用実績に基づく標準偏差の単純平均と資産規模加重平均を比較すると、上位の分類では加重平均が単純平均を大きく下回っている(図表2)。
図表2:オルタナティブ投資分類別の標準偏差など
しかし、リスクの面で魅力的であっても運用担当者の収益獲得能力が期待できなければ、投資効率の改善も期待できないのだから、国内企業年金は収益獲得能力にも期待していたはずだ。そこで、過去5年間の運用実績を基に投資効率の代表的尺度であるシャープレシオを求め、同一分類内における最大値と最小値の差を確認したところ、上位2分類は1を超えていた。同時期の内外株式や外国債券のシャープレシオがおおむね1程度であることと比較すると、オルタナティブ商品の収益獲得能力には大きな差があることがわかる。従来とは異なる投資手法であるため市場リスクが小さく、個別商品の収益率のブレが小さくても、収益率が期待値や類似商品より見劣りするリスク(以下、個別リスク)は大きいのである。
 
伝統的資産であっても、アクティブファンドを採用する場合も個別リスクが問題となるが、リスクの大部分を市場リスクが占めるため、従来の投資手法と異なり運用担当者の収益獲得能力に大きく依存するタイプのオルタナティブ商品と比べるとシャープレシオの差は生じにくい。「年金運用年鑑2024(格付投資情報センター)」を参考に国内株コア、国内株グロース、国内株バリューのそれぞれのシャープレシオの差を算出した結果は、0.53~0.63であった。
 
一部の分類を除けば、オルタナティブ投資は総じて個別リスクが大きい。このため、アクティブファンド以上に丁寧な定性・定量評価、なかでも運用機関が掲げる目標収益率設定の根拠の妥当性に着目した慎重な商品選定が求められる。それ以前に、個別リスクを加味しても投資効率の改善が期待できるのかを確認し、個別リスクが顕在化しても、全体の資産運用に深刻な影響を及ぼさないようにコントロールすることが重要である。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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