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オルタナティブ投資の見直しを
金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸
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年金運用におけるオルタナティブ投資は、日本銀行による人為的な低金利政策への対応として取り組まれるようになったとされるのが一般的であるが、同じような長期の特性を持つ資金を運用して来た生命保険会社においては、オルタナティブ投資への取り組みを尋ねられても、怪訝な顔をされる可能性がある。第二次世界大戦後の大手生命保険会社は、戦後復興や高度経済成長を支える観点から産業金融への貢献が期待され、現在に至るまで直接に企業等向けの融資を提供している。年金運用において同種のものを探せば、ダイレクトレンディングであろう。また、未公開株式に対する投資も古くから取り組んでおり、ベンチャーキャピタルファンドを組成するなどの取り組みは、年金運用でのプライベートエクイティ投資と大きく異なるものではない。つまり、生命保険会社の運用において、オルタナティブ投資は不動産を含め、それぞれが古くから資産運用の一部として継続的に取組まれて来たものであり、決して“オルタナティブ投資”とまとめての特別扱いは、されていないのである。
年金運用におけるオルタナティブ投資という区分は、そろそろ在り方を見直して良いのではなかろうか。生命保険会社の例にも見られるように、配分比率が小さい場合には、性質の近い他の資産クラスに含めて考えることが適切であろうし、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も一部では同様の管理を行っている。もしオルタナティブ投資への配分が大きい場合には、一括して「オルタナティブ投資」とするのではなく、少なくとも、ヘッジファンドのような「絶対収益追求資産」と、不動産やインフラ投資などの「低流動性資産」とは、明確に区分して考えるべきだろう。その他にも、各々の年金基金の状況に応じて、様々なバリエーションが考えられる。もし、成熟度が高く年金収支が流出超の年金において、「低流動性資産」という表現がステークホルダーから疑念を持たれるようであれば、「プライベート資産」といった表記にすることも考えられる。
日本の年金運用におけるオルタナティブ投資は、国内金利の低下への対応から、特にヘッジファンド投資を嚆矢として隆盛になったと見られるが、今後は、新たな転機を迎えることになると考えられる。海外を見ると、新型コロナ感染症の拡大に対応した抑制的な経済から、経済活動が再開したことで物価が上昇し、また、ウクライナ戦争が原油等エネルギーや小麦の価格にも影響を与えている。そのため、インフレを抑制する観点から海外の中央銀行は金融緩和を縮小しはじめており、利上げに向かう動きも見られる。日本銀行がすぐに追随するとは思えないが、日本のみが置いて行かれる状況は、為替相場の変動を考えると容認されないだろう。
本誌2017年8月号1では、“現在の国債発行計画のトレンドを考えると、引続き、NOMURA-BPI総合のデュレーションは長期化を続けるだろう。その状況下において、物価上昇や財政プレミアムの拡大により金利が上昇するならば、国内債券投資によって得られる利回りはマイナスになることが必至である。(中略)将来においては、金利上昇局面でのデュレーション長期化という極めて悲惨な状況の現出することが予想される。なるべく早い時期からNOMURA-BPI総合に基づく債券運用から脱却する準備をはじめておいた方が良いだろう。”と指摘した。まさに、その悪夢の実現が迫ろうとしている。金利上昇への備えとしては、国内債券投資の見直しとともに、様々なオルタナティブ投資の活用が欠かせないものになるのではなかろうか。
1 ニッセイ年金ストラテジー2017年8月号「NOMURA-BPI総合は年金にとって適切なインデックスなのか」(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/56275_ext_18_0.pdf?site=nli)
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(2022年07月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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