- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 年金 >
- 年金資産運用 >
- NOMURA-BPI総合は年金にとって適切なインデックスなのか
2017年08月03日
株式や外国債券の世界においては、時価加重平均型インデックスに対する批判が強くなっている。株高などから利回りが確保できている状況では声が小さくなる傾向にあるものの、根本的には、大型株の動向にインデックスの動きが左右されることや、大きな債務を有する債務者の発行する債券ウェイトが大きくなることなど、時価加重平均インデックスに課題があるのは一目瞭然である。それと同時に、不必要に多数の銘柄をユニバースとするインデックスが不適切なことは言うまでもないだろう。東京証券取引所第一部上場等一定の基準を満たすインデックスについては、それが市場の実勢であるというファンタジーを伴っている。外国債券や外国株式のインデックスにおいて、特定のプロバイダーが銘柄数を絞ったインデックスを採用しているのに対し、国内債券や国内株式については、より多くを含むインデックスが市場実勢であると主張するのは、無理筋ではなかろうか。アメリカの投資の教科書を見るが良い。株式マーケットのリターンを算出するのに、S&P500を利用するのが通例である。
国内債券における分散と国内株式における分散とが、まったく異なる意味を有していることは各々の証券の特性と値動きを考えると容易に理解できよう1。東証一部に上場されている全銘柄を投資対象にするという意味で、株式市場の平均的な姿としてTOPIXを参照することがある。しかし、一定の基準を設け市場に現存する債券のほとんどを組入れたインデックスにおいては、信用力や流動性等の観点からの分散は可能なものの、最大の値動きを支配する主成分である金利は、国債であろうが、社債であろうが、ほぼ同一のものである。社債等一般債の利回りを“国債+α”と表現するではないか。しかも、日本の国内債券市場においては、全体に占める国債の時価比率は80%を超えている。国債には様々な残存年限があるものの、イールドカーブで示される年限と利回りの関係性が存在しており、満期償還が行われることもあって、債券の価格は株式の価格変動と異なりランダムウォークしないのである。
国内債券投資における一般的な指数として用いられるNOMURA-BPI総合は、残念ながら、上記の批判がいずれも当てはまる。しかも、銀行や生保の運用においてALMが強く意識される時代でも年金運用でALMやLDIが定着しない要因の一つに、未だにNOMURA-BPI総合に固執していることがある。実は、GPIFは被用者年金一元化以前においては、複数のインデックスからなるコンポジットを採用しており、現状は、他の公務員共済等との運用共通化において容易に理解できるようNOMURA-BPI総合を掲げているに過ぎないと考えられる。昨今のようなマイナス金利下において、公的年金は、国内債券のパッシブ運用をNOMURA-BPI総合に対するトラッキングエラーを押さえるよう愚直に実施してはいない。現環境下での単純なパッシブ運用は、フィデューシャリー・デューティーの観点から問題がある。
QUICKによる月次調査<債券>(2017年5月)のアンケート結果を見ると、この1年強に及ぶマイナス金利下での債券運用において、マイナス利回りの債券を“購入していない”という回答が48%と約半数を占める一方、主に年金運用担当者と考えられる“運用方針に基づき保有目的で購入した”とする回答が29%もあった。これは、NOMURA-BPI総合をベンチマークとする年金運用において、新たな取組みに躊躇しているという影響ではなかろうか。
これまでNOMURA-BPI総合を国内債券運用のベンチマークとして愚直に利用して来る中で、その弊害があまり意識されなかったのは、金利低下が続く中でNOMURA-BPI総合のデュレーションが長期化を続けて来たためと考えられる。図表は、2000年以降のNOMURA-BPI総合の修正デュレーションと10年国債利回りの推移をプロットしたものである。2003年に起きたVaRショックや2016年にBrexitを問う英国国民投票の結果を受けた後の反動期を除いて、デュレーションはほぼ継続的に長期化している。これは、すなわち、NOMURA-BPI総合において時価の8割以上を占める国債の残存年限が、継続的に長期化しているためである。金利低下が続く中でインデックスのデュレーションが長期化したため、年金はそれに単に追随することで金利低下の果実を享受して来たのである。
1 徳島勝幸『債券インデックスに関する実務的視点からの考察』証券アナリストジャーナル2005年10月号47頁
国内債券における分散と国内株式における分散とが、まったく異なる意味を有していることは各々の証券の特性と値動きを考えると容易に理解できよう1。東証一部に上場されている全銘柄を投資対象にするという意味で、株式市場の平均的な姿としてTOPIXを参照することがある。しかし、一定の基準を設け市場に現存する債券のほとんどを組入れたインデックスにおいては、信用力や流動性等の観点からの分散は可能なものの、最大の値動きを支配する主成分である金利は、国債であろうが、社債であろうが、ほぼ同一のものである。社債等一般債の利回りを“国債+α”と表現するではないか。しかも、日本の国内債券市場においては、全体に占める国債の時価比率は80%を超えている。国債には様々な残存年限があるものの、イールドカーブで示される年限と利回りの関係性が存在しており、満期償還が行われることもあって、債券の価格は株式の価格変動と異なりランダムウォークしないのである。
国内債券投資における一般的な指数として用いられるNOMURA-BPI総合は、残念ながら、上記の批判がいずれも当てはまる。しかも、銀行や生保の運用においてALMが強く意識される時代でも年金運用でALMやLDIが定着しない要因の一つに、未だにNOMURA-BPI総合に固執していることがある。実は、GPIFは被用者年金一元化以前においては、複数のインデックスからなるコンポジットを採用しており、現状は、他の公務員共済等との運用共通化において容易に理解できるようNOMURA-BPI総合を掲げているに過ぎないと考えられる。昨今のようなマイナス金利下において、公的年金は、国内債券のパッシブ運用をNOMURA-BPI総合に対するトラッキングエラーを押さえるよう愚直に実施してはいない。現環境下での単純なパッシブ運用は、フィデューシャリー・デューティーの観点から問題がある。
QUICKによる月次調査<債券>(2017年5月)のアンケート結果を見ると、この1年強に及ぶマイナス金利下での債券運用において、マイナス利回りの債券を“購入していない”という回答が48%と約半数を占める一方、主に年金運用担当者と考えられる“運用方針に基づき保有目的で購入した”とする回答が29%もあった。これは、NOMURA-BPI総合をベンチマークとする年金運用において、新たな取組みに躊躇しているという影響ではなかろうか。
これまでNOMURA-BPI総合を国内債券運用のベンチマークとして愚直に利用して来る中で、その弊害があまり意識されなかったのは、金利低下が続く中でNOMURA-BPI総合のデュレーションが長期化を続けて来たためと考えられる。図表は、2000年以降のNOMURA-BPI総合の修正デュレーションと10年国債利回りの推移をプロットしたものである。2003年に起きたVaRショックや2016年にBrexitを問う英国国民投票の結果を受けた後の反動期を除いて、デュレーションはほぼ継続的に長期化している。これは、すなわち、NOMURA-BPI総合において時価の8割以上を占める国債の残存年限が、継続的に長期化しているためである。金利低下が続く中でインデックスのデュレーションが長期化したため、年金はそれに単に追随することで金利低下の果実を享受して来たのである。
1 徳島勝幸『債券インデックスに関する実務的視点からの考察』証券アナリストジャーナル2005年10月号47頁
少子高齢化による日本経済の停滞を考えると、今後も簡単に金利が上昇するような状況にはないと見られるが、更なる金利の低下を期待するのは難しい。現在の国債発行計画のトレンドを考えると、引続き、NOMURA-BPI総合のデュレーションは長期化を続けるだろう。その状況下において、物価上昇や財政プレミアムの拡大により金利が上昇するならば、国内債券投資によって得られる利回りはマイナスになることが必至である。金利低下期のデュレーション長期化は、年金運用者にとっては僥倖であった。しかし、将来においては、金利上昇局面でのデュレーション長期化という極めて悲惨な状況の現出することが予想される。なるべく早い時期にNOMURA-BPI総合に基づく債券運用から脱却する準備をはじめておいた方が良いだろう。
(2017年08月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)
このレポートの関連カテゴリ
03-3512-1845
経歴
- 【職歴】
・1986年 日本生命保険相互会社入社
・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
・2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・日本ファイナンス学会
・証券経済学会
・日本金融学会
・日本経営財務研究学会
德島 勝幸のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/07/03 | 見直しを迫られる国内債券パッシブ運用 | 德島 勝幸 | ニッセイ年金ストラテジー |
2024/06/07 | アセットオーナー・プリンシプルへの期待-資産運用高度化の要 | 德島 勝幸 | 基礎研マンスリー |
2024/05/27 | アセットオーナー・プリンシプルへの期待-資産運用高度化の要 | 德島 勝幸 | 研究員の眼 |
2023/07/05 | 公的年金の「100年安心」は制度について | 德島 勝幸 | ニッセイ年金ストラテジー |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年12月12日
ロシアの物価状況(24年11月)-足もとのインフレ圧力はかなり強い -
2024年12月12日
Metaに対する欧州競争法違反による制裁金賦課決定-欧州委員会決定とMetaの反論 -
2024年12月11日
貸出・マネタリー統計(24年11月)~企業の定期預金シフトが顕著に、個人の動きはまだ鈍い -
2024年12月11日
Investors Trading Trends in Japanese Stock Market:An Analysis for November 2024 -
2024年12月11日
ノンメディカルな卵子凍結-東京都では計4千5百人が卵子凍結を実施済、現在パートナーがいない健康な30歳~40歳代が将来に備える傾向-
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【NOMURA-BPI総合は年金にとって適切なインデックスなのか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
NOMURA-BPI総合は年金にとって適切なインデックスなのかのレポート Topへ