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これからの年金運用を展望する
金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 德島 勝幸
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幸いなことに、証券投資理論の基礎に立ち返るならば、相対的にリスクの高い資産への投資は、相対的に高いリターンで報いられるはずである。効率的市場仮説まで持ち出さなくても、リスクの大きさにそぐわないリターンが得られるならば、裁定機会に対する投資が集まることによって価格の歪みが是正されると期待する。株式や外国証券への投資は、過去の累積で見ると、実現利回りが高かったのと同時に、収益率の変動性も大きなものとなっている。単年度の市場見通しでなく中長期的な環境を考えるならば、今後も株式や外国証券への投資継続によって、中長期的に国内債券に対する投資から得られるよりも高い利回りを得られると期待できる。
こうした前提こそが、年金運用において分散効果を実現するため、資産ポートフォリオを作成する理由である。もし国内債券や短期資金、生保一般勘定といった安定収益の獲得を約束される資産のみで、想定運用利回りや予定利率を達成することができるならば、それらの安定収益型資産だけで年金運用を完結することができるだろう。その場合、年金運用の担当者は、アロケーター以外わずかな人員で十分であろうし、外部機関への運用委託もかなり減らすことができる。ただし、給付額の物価連動性や終身給付といった古い制度を残していなければであるが。
しかし、私たち年金運用の担当者は安心して良い。これから短期的に金利が上昇することはあっても、過去の金利変化を考えると、金利上昇は一時的なものに留まる可能性が高い。また、日本の少子高齢化と人口減少が続く以上、スタグフレーションのような悪い物価上昇にならない限り、金利の大幅かつ継続的な上昇は期待できない。運用担当者のみならず、エコノミストやストラテジスト、コンサンルタントも、将来の見通しを尋ねると、一様に明るい未来が返って来る。「足元は踊り場で調整局面に入る可能性が高いが、その後は業績回復に牽引され、後半には堅調になる。」といったもので、基本的に“将来は明るい”のである。
こうした傾向は、人類全般が持つ一般的な心理バイアスである。将来が明るくなる、良くなると期待しなければ、日常の苦難を我慢できない。つまり、人間が将来に対して行う予測は常に楽観を含み、金利は上昇し、株価は堅調で、為替は円安になると考えがちである。年金運用に人工知能が導入されたら異なる予測を導き出すかもしれないが、その結果を人間が受け入れることは難しい。株式や外国証券への投資によってリスクを負うものの、高い利回りの獲得を期待することは、妥当な判断になる。その結果、株式や外国証券への投資が廃れることはない。
オルタナティブへの投資拡大を、この文脈で考えてみよう。そもそも「オルタナティブ資産は、リスクが高い」などと主張するのは、誤りである。少し正しく表現するなら、“オルタナティブの範疇に含まれる投資対象には、リスク・リターンのプロファイルが伝統資産と異なるものがあり、その中に伝統資産よりリスクの高いものもある。”といったところだろう。安定収益資産への投資よりもリスクの低い対象のみを選ぶことは不可能でない。ところが、それでは期待リターンが低くなり、オルタナティブに投資する意味合いが薄れてしまう。だから、オルタナティブ投資では、想定リスクが高く期待リターンの高い対象が重点的に選ばれる。
中長期的な前提に基づく基本ポートフォリオ運営と、保有資産に対する時価評価という現在の年金運用の組み合わせは、必ずしも相性が良くない。資産・負債ともが短中期である銀行ならともかく、負債が長期から超長期に及ぶ年金や生命保険にとっては、何らかの取組みを考えるべきである。ALMの観点から保険会社が満期保有債券や責任準備金対応債券といった区分を活用して、保有債券の時価評価を回避しているのは、短期と長期との時間軸の違いを認識しているからである。実は、時間軸の差こそが保険や年金におけるビジネスの本質である。年金の場合、保有資産の時価評価を回避することは難しく、ダイナミックアロケーションを全面的に採用し資産構成を大きく変化させることも、外部委託での運用を前提にすると容易でない。中長期的な視点からのリスク管理を徹底し、時価評価との折り合いを付ける必要があるだろう。
将来に向けた年金運用を展望するとやや八方塞がりの感もあるが、同時に運用担当者などによる工夫のチャンスである。負債や制度の見直しによって、想定運用利回りを引下げることも考えられる。しかし、それ以前にも資産運用で工夫できることが存在する。国内債券での利回り獲得が期待できないとしても、それは一般的にベンチマークとして用いられているNOMURA-BPI総合だけの話なのかもしれない。時価総額の8割以上を占める国債の代わりに、社債や財投機関債を入れることは検討したのか。厳密なパッシブ運用に拘り、ベンチマーク外である証券化商品や私募債投資など、委託者に投資対象の工夫を求める余地はないだろうか。実は既に、外国債券への投資では、ベンチマークとしてシティ世界国債インデックスを利用していながらソブリン以外の社債、更には新興国債券に投資しているかもしれない。マイナス金利状態の国内債券であっても、他の資産クラスで実施している利回り向上に向けた取組みを参考に取り組む余地はまだまだ大きい。そもそも国内債券の枠でヘッジ付き外債投資を実施すること自体が、既にベンチマーク外の投資になっているのである。海外の事例を見ると、運用で取り組める手段はまだある。今こそ運用担当者の創意工夫が求められる時代である。
業種別監査委員会報告第21号「保険業における「責任準備金対応債券」に関する当面の会計上及び監査上の取扱い」日本公認会計士協会(平成12年11月16日)
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(2018年02月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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