2023年08月03日

公共投資が大幅増、内需主導の底堅い成長続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

文字サイズ

インド経済はコロナ禍からの立ち直りが早く、概ね順調な成長が続いている。2022年度の成長率は前年度比+7.2%となり、高水準を維持した。四半期ベースでみると、2022年10-12月期は成長率(前年同期比+4.5%)が伸び悩んだが、2023年1-3月期の成長率は同+6.1%と再び上昇し、経済の力強さを印象付ける結果だった(図表1)。
 
図表1:インドの実質GDP成長率
1-3月期の景気回復は総固定資本形成の拡大と純輸出の改善による影響が大きい。まず総固定資本形成(同+8.9%)は好調だった。インド政府が景気回復を優先して2022年度国家予算の資本支出を前年度比+35.4%増の7.5兆ルピー(約12.6兆円)に拡充したため、公共投資が大幅に伸びた。また純輸出は財・サービス輸出(同+11.9%)と二桁成長を維持した。海外経済の減速により財輸出は鈍化しつつあるが、ITサービスや外国人観光客数の増加などサービス輸出の好調が牽引したとみられる。一方、民間消費(同+2.8%)は伸び悩んだ。対面型サービス業の回復により雇用環境は改善傾向にあるが、高インフレと積極的な利上げが消費を冷え込ませている。
図表2:インド国家予算の資本支出 インド経済は順調に推移しているが、今後はコロナ禍からの回復の勢いが弱まるなか、海外経済の減速による財輸出の鈍化や金融引き締め策の累積効果が逆風となり昨年度ほどの高成長は期待できないだろう。しかしながら、2023年度国家予算では資本支出が前年度比+37.4%の10兆ルピー(約16.8兆円)に大幅に増額されており(図表2)、公共部門を中心とした投資の堅調な拡大が見込まれるほか、高インフレの鈍化や乾期作の収穫増加による農村部の需要回復などによって民間消費の持ち直しが予想される。結果として、2023年度の成長率は前年度比+6.1%と、2022年度の同+7.2%から低下するが、内需主導の底堅い成長は続くと予想する。
 
図表3:主要項目別の歳出 今後の景気の牽引役である投資について少し掘り下げて見てみよう。2023年度のインド国家予算の歳出(経常支出、資本支出)を主要分野別にみると、最も金額の大きい「交通」が前年度比+32%と大幅に増額されている(図表3)。モディ首相は2021年8月に100兆ルピー(約168兆円)の国家インフラ計画「Gati Shakti」を発表しており、インフラ開発を加速させることにより数百万の雇用機会を創出する考えである。民間投資は輸出環境の悪化により輸出型製造業の投資が伸び悩むだろうが、政府主導のインフラ投資や生産連動型インセンティブ (PLI)スキームが民間企業の投資を喚起し、底堅い伸びを維持すると予想する。また、こうした投資の持続的な拡大は雇用創出にも繋がるため、民間消費にもプラスに働くであろう。
 
今後のリスクはインフレの再加速だ。当面インフレ率は商品市況の価格下落によりコストプッシュ型のインフレ圧力が緩和されることや金融引き締め策の影響により低下傾向が続くだろう。その後は内需の底堅い成長を背景にインフレ目標の中央値である4%を上回る水準で推移すると予想するが、インフレが上振れるリスクもある。今年は南西モンスーンの進行が平年より1週間前後遅れており、農作物の播種に混乱が生じている。6~9月のカリフ作(雨季作)の降雨量が減少して雨不足となれば、農作物の収穫量が伸び悩み、農村部の消費需要が減退すると共に食品価格が上昇する恐れがある。インドでは消費者物価指数に占める「食品」の構成比率が全体の4割を占めるだけに、食品インフレのリスクを軽視することはできない。また2023年後半は、新興国のなかではインフレ鈍化や米国の利上げ停止を受けて金融緩和に政策転換する国が出てくるだろうが、インドは食料インフレのリスクがくすぶるため金融政策を据え置くだろう。しかし、来年は米国の利下げ観測が高まるなか、インドも景気浮揚を目的に利下げを実施するものとみられる。
 
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年08月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【公共投資が大幅増、内需主導の底堅い成長続く】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

公共投資が大幅増、内需主導の底堅い成長続くのレポート Topへ