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2025年08月07日

フィリピン経済:25年4-6月期の成長率は前年同期比5.5%増~インフレの緩和と利下げにより消費が好調

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2025年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比5.5%増1となり前期の同5.4%増から小幅に上昇し、市場予想2(同5.4%増)を僅かに上回った(図表1)。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に消費が好調だった。

まず民間消費は前年同期比5.5%増となり、前期の同5.3%増から上昇した。民間消費の内訳を見ると、交通(同11.2%増)や保健(同10.0%増)、教育(同9.7%増)、レストラン・ホテル(同7.4%増)、娯楽・文化(同6.6%増)、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同5.7%増)が堅調に拡大した一方、衣服・履物(同3.9%増)や通信(同4.7%増)が緩やかな伸びにとどまった。

政府消費は同8.7%増と、前期の同18.7%増から低下した。

総固定資本形成は同2.6%増(前期:同6.5%増)と低下した。設備投資が同10.6%増(前期:同8.3%増)が加速する一方、建設投資が同0.6%増(前期:同7.0%増)と停滞した。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の約半分を占める輸送用機器(同21.5%増)が大幅に増加した一方、一般工業機械(同9.7%減)が低迷、産業用機械(同4.1%増)は鈍化した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.1%ポイントとなり、前期の▲2.0%ポイントからプラスに転じた。まず財・サービス輸出は同4.4%増(前期:同7.1%増)と低下した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同13.6%増)が2四半期連続で加速したものの、サービス輸出(同4.2%減)が減少した。また財・サービス輸入も同2.9%増(前期:同10.3%増)と鈍化した。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、第一次産業と第三次産業の回復が成長率を押し上げた(図表2)。

第一次産業は前年同期比7.0%増(前期:同2.2%増)となり2四半期連続で加速した。サトウキビ(同307.2%増)やパライ(同14.2%増)、トウモロコシ(同29.8%増)などの農作物、家禽(同6.9%増)が増加した一方、林業(同17.5%減)と家畜(同5.8%減)、漁業・養殖業(同4.4%減)が減少した。

第二次産業は同2.1%増となり、前期の同4.6%増から鈍化した。製造業は同2.7%増(前期:同4.3%増)と鈍化した。製造業の内訳をみると、輸送用機器(同14.5%増)と食品加工(同9.3%増)は好調だったが、主力のコンピュータ・電子機器(同2.5%減)や基礎金属(同39.7%減)、石油製品(同12.2%減)、化学製品(同6.6%減)は低迷した。また鉱業・採石業(同2.9%減)は2四半期ぶりに減少したほか、建設業(同2.0%増)と電気・ガス・水道(同1.1%増)がそれぞれ鈍化した。

GDPの約6割を占める第三次産業は同6.9%増(前期:同6.2%増)と加速した。内訳をみると、行政・国防(同12.8%増)と教育(同11.8%増)が大幅に増加したほか、運輸・倉庫業(同8.3%増)や宿泊・飲食業(同7.4%増)、不動産業(同6.1%増)、専門・ビジネスサービス業(同5.8%増)、金融・保険業(同5.6%増)は堅調に推移した。一方、全体の約2割を占める卸売・小売(同5.1%増)、情報・通信業(同4.6%増)は相対的に緩やかな伸びとなった。
 
1 2025年8月7日、フィリピン統計庁(PSA)が2025年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は、昨年後半に台風被害の影響で景気が減速したが、今年は2四半期連続で改善しており、4-6月期は過去1年で最も高い成長率(前年同期比+5.5%)となった。フィリピン政府は6月に米国の関税政策など不確実性が増す外部環境を反映して通年の成長率目標を従来の6.0%~6.5%から5.5%~6.5%に下方修正しており、4-6月期は成長目標(変更後)の下限に届いた。

4-6月期は消費の好調が成長率上昇に繋がった。まず民間消費(同+5.5%)は9四半期ぶりの高い伸びとなった。インフレの緩和(図表3)や昨年からの利下げの継続、そして良好な雇用環境が消費の追い風となったとみられる。

政府消費(同+8.7%)は5月の中間選挙を控えて支出が大きく増加した1-3月期(同+18.7%)と比べて鈍化したものの、堅調な伸びが続いた。

投資(同+2.6%)は中間選挙に関連する公共支出の禁止期間があったため、建設投資(同+0.6%)が停滞した(図表4)。設備投資(同+10.6%)は大きく伸びたものの、建設投資の鈍化を相殺できなかった。

外需は、財貨輸出(同+13.6%)が1-3月期の同+8.1%から更に拡大した。トランプ米政権による関税強化を警戒した駆け込み需要が輸出を押し上げ、フィリピンの主要輸出品である電子部品(同+13.0%)の出荷が二桁増となった。一方でサービス輸出(同▲4.2%)は減少した。旅行サービスの減少(同▲18.7%)や業務支援サービスの鈍化(同+1.0%)が影響した。しかし、財・サービス輸入(同+2.9%)も鈍化したため、純輸出の成長率寄与度(+0.1%ポイント)は小幅ながらプラスとなった。
(図表3)フィリピンのインフレ率と政策金利/(図表4)建設部門の粗付加価値額(GVA)
フィリピン経済は消費が好調を維持するとともに、米国向けの駆け込み輸出が続いているため足元の景気が堅調に推移しているが、今年後半には駆け込み需要の反動や米国の追加関税発動の影響により外需が悪化することとなり、成長率の低下は避けられないだろう。なお、米国が8月7日に発動する相互関税はフィリピンが19%となった。約70カ国・地域の多くが10%または15%の税率にとどまったことを踏まえると、相対的に高い負担を強いられた印象が強いが、ASEAN主要国が横並びの税率であったことや、インド(25%)やバングラデシュ(20%)といった競合国との差は一定程度維持されたため、輸出競争力の大幅な低下は避けられたという見方もある。一方、内需は今後も落ち着いた物価動向が続くことや政府支出の拡大、そして金融緩和が下支えとなるため、大幅な景気後退は回避される可能性が高い。政府は2026年度国家予算案において歳出総額が前年度比7.4%増の6.8兆ペソを計画しており、インフラ整備やデジタルトランスフォーメーション(DX)への継続的な投資が見込まれる。またフィリピン中央銀行 (BSP) は今年6月に政策金利を2会合連続で0.25%引き下げて5.25%としている。8月5日に発表された7月の消費者物価上昇率は前年同月比+0.9%となり、5年9ヵ月ぶりの低水準だった。インフレ率の低下を受けて、フィリピン中銀は金融緩和の継続に前向きな姿勢を示している。8月28日の金融政策決定会合で追加利下げの期待が高まっている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月07日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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