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2025年07月07日

ベトナム経済:25年4-6月期の成長率は前年同期比7.96%増~駆け込み輸出により製造業が好調

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.結果の概要:11期ぶりの高成長、市場予想を上回る

(図表1)ベトナムの実質GDP成長率(供給側) 2025年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比7.96%増1(前期:同7.05%増)となり、市場予想2(同6.70%増)を上回る高成長を記録した(図表1)。
 
4-6月期の実質GDPを産業別にみると、主に製造業の加速が成長率上昇に繋がった。

まず鉱工業・建設業全体では前年同期比8.79%増(前期:同 7.30%増)と上昇した。主力の製造業が同10.75%増(前期:同9.40%増)、建設業が同9.83%増(前期:同9.34%増)となり、それぞれ加速した。一方、鉱業は同2.25%減(前期:同6.25%減)と低迷し、電気・ガス業は同4.11%増(前期:同4.30%増)と小幅に鈍化した。

GDPの4割強を占めるサービス業は同8.46%増(前期:同7.80%増)と堅調に拡大した。内訳では、政府サービス(同16.39%)や運輸・倉庫業(同9.37%増)や党関連活動(同15.50%増)、宿泊・飲食業(同10.70%増)、教育・訓練(同11.47%増)が高成長となった。また卸売・小売業(同6.73%増)や金融業(同6.74%増)や情報・通信業(同7.71%増)、専門・科学技術サービス(同6.77%増)についても堅調に推移した。一方、不動産業(同4.47%増)と保健・社会サービス(同4.99%増)は相対的に緩やかな伸びにとどまった。

農林水産業は前年同期比3.89%増(前期:同3.80%増)となり、安定した成長を維持した。
 
1 7月5日、ベトナム統計総局(GSO)が2025年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

2.ベトナム経済の現状と先行きのポイント

ベトナム経済は、輸出好調を背景に2024年の実質GDP成長率が前年比7.09%と高い伸びを記録したが、今年に入り米国の関税政策を巡る不確実性が高まっており、景気減速への懸念が強まっている。もっとも、2025年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+7.93%と、好調だった1-3月期(同7.05%増)を上回り、11四半期ぶりの高成長となった。四半期ベースでは、ベトナム政府が掲げる年間8%超の成長目標に近い水準を達成したといえる。

4-6月期は主に製造業の好調が続いたほか、サービス業も堅調に拡大した。まず製造業(同+10.75%)は相互関税上乗せ分の停止期間中の駆け込み輸出が追い風となり高い伸びを示した。通関ベースの貿易統計によれば、4-6月期の財貨輸出は同+17.7%(1-3月期:同+10.5%)と大幅に増加し、特に北米向けを中心にコンピュータ・電子部品の出荷が伸びた(図表2)。また建設業(同9.83%増)も、1-6月期の社会投資資本総額が同+10.6%となるなど投資プロジェクトの進展によって高水準で推移した。

サービス業(同+8.46%)は貿易や運輸、観光活動の活発化により、前期の同7.80%から更に加速した。政府による観光プロモーションの強化や国際直行便の増加、インフラ整備の進展により、4-6月期の外国人旅行者数は464万人となり大幅に増加(同+10.9%)した(図表3)。コロナ禍前の水準を回復した後も好調な推移が続いており、年間目標(2,200万~2,300万人)の達成も視野に入る。このため、運輸・倉庫業(同+9.37%)と宿泊・飲食業(同+10.70%)が全体の牽引役となった。また、地方行政区画の大規模な再編により、政府サービス(同16.39%)や党関連活動(同15.50%増)の支出も大きく拡大した。一方、不動産業(同+4.47%)は市場の回復が遅れており、相対的に緩やかな成長にとどまった。
(図表2)ベトナム輸出の伸び率(品目別)/(図表3)ベトナムの外国人旅行者数
2025年上期のベトナム経済は前年同期比+7.52%の高成長を遂げたが、7月9日には米国による相互関税上乗せ分の停止期間が終了する予定であり、今後は駆け込み需要の反動減や米国による輸入関税引上げ、そして世界経済の減速による輸出への悪影響が広がるものとみられるため、下期は景気が減速すると予想される。一方、公共投資は下期も活発化が見込まれ、内需が景気の下支え要因となるだろう。

7月2日、ベトナムが米国との貿易協定に合意した。ベトナムの米国向け輸出品には原則20%、ベトナム経由の積み替え品には40%の関税が課される一方、ベトナムの米国からの輸入品はゼロ関税となる。20%の税率は米国が当初計画していた46%の相互関税よりも大幅に低く、また米国の対中追加関税である30%を下回る結果となったため、株式市場ではベトナム経済の先行きに対する不透明感が後退したとポジティブに受け止められた。ただし、現行のベースライン関税の10%から更に+10%上乗せされることになるため、ベトナムの輸出への悪影響は避けられない。それでも深刻な影響は回避される見通しである。なお、40%の高関税が適用される「積み替え品」は、中国からの迂回輸出を念頭に置いた措置とみらえるが、現時点では詳細は不明である。

ベトナムにはサムスン電子をはじめとした多国籍企業が製造拠点を構えているが、中国企業の拠点も少なくない。また非中国企業であっても部品や原材料を中国に大きく依存している。今後、付加価値基準による定義付けがなされるなど詳細が明らかになれば、輸出への影響が再評価されるだろう。

米国の貿易協議の行方は依然として不明だが、今後はベトナムの周辺国との合意が予想される。特にインドやバングラデシュ、カンボジア、インドネシア、タイといった国々は履物や繊維製品、電子機器、木製品などの輸出でベトナムと競合する部分があるだけに、関税差が輸出競争力に与える影響を注視する必要がある。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月07日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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