2025年04月08日

ベトナム経済:25年1-3月期の成長率は前年同期比6.93%増~順調なスタート切るも、トランプ関税ショックに直面

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.結果の概要:4期ぶりの成長鈍化、市場予想を下回る

2025年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比6.93%増1(前期:同7.55%増)と低下し、市場予想2(同7.1%増)を下回る結果となった(図表1)。

1-3月期の実質GDPを産業別にみると、製造業とサービス業の鈍化が成長率低下に繋がったことが分かる。

まず鉱工業・建設業は同7.42%増となり、前期の前年同期比8.35%増から低下した。主力の製造業が同9.28%増(前期:同9.97%増)、建設業が同7.99%増(前期:同8.33%増)、電気・ガス業が同4.60%増(前期:同6.48%増)となり、それぞれ増勢が鈍化した。また鉱業は同5.76%減(前期:同6.50%減)と低迷した。

GDPの4割強を占めるサービス業は同7.70%増(前期:同8.21%増)と低下した。サービス業の内訳を見ると、政府サービス(同12.57%)や運輸・倉庫業(同9.90%増)や党関連活動(同9.65%増)、宿泊・飲食業(同9.31%増)、教育・訓練(同9.28%増)、卸売・小売業(同7.47%増)が高成長だった。一方、金融業(同6.83%増)や情報・通信業(同6.66%増)、専門・科学技術サービス(同6.10%増)、不動産業(同3.66%増)、保健・社会サービス(同3.56%増)は相対的に緩やかな伸びにとどまった。

農林水産業は前年同期比3.74%増(前期:同2.99%増)と上昇した。
(図表1)ベトナムの実質GDP成長率(供給側)/(図表2)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
 
1 4月6日、ベトナム統計総局(GSO)が2025年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

2.結果の評価と先行きのポイント

ベトナム経済は、2024年は輸出の好調により実質GDP成長率が前年比+7.09%(2023年:同+5.07%)と好調が続くなか、今回発表された2025年1-3月期の成長率は前年同期比6.93%(10-12月期:同+7.55%)となり4四半期ぶりに低下した。もっとも、1-3月期の成長率としては2020年以降で最も高い。ベトナム経済は旧正月休暇などの影響から1-3月期がスロースタートになりやすいことを踏まえると、まずまずのスタートを切ったように見える。

1-3月期は主に製造業とサービス業がそれぞれ鈍化したが、それぞれ小幅な低下にとどまり、高い伸びを維持している。まず製造業(同+9.28%)は輸出拡大を追い風に力強く成長しており、引き続き景気の牽引役となった。通関ベースの貿易統計をみると、10-12月期の財貨輸出は同+10.6%(10-12月期:同+10.4%)の大幅な増加となり、北米向けを中心にコンピュータ・電子部品や衣料品の出荷が伸びた(図表2)。また社会投資資本総額が同+8.3%となるなど開発投資は順調で、建設業(同7.99%増)も高い伸びを保った。

サービス業(同+7.70%)は前期の同8.21%から低下したものの、貿易と観光の好調や旧正月期間中の消費者需要の増加により高成長を維持している。ベトナム政府による観光プロモーションの強化やビザ緩和政策に加え、低予算で楽しめる旅行先として評価されており、1-3月期の外国人観光客は同+29.6%の601万人だった(図表3)。コロナ禍前の水準を回復した後も大幅な増加が続いている。このため運輸・倉庫業(同+9.90%)と宿泊・飲食業(同+9.31%)が好調で、サービス業全体を牽引した。また1-3月期は雇用情勢の改善や付加価値税減税の延長などにより家計の購買力が向上しており、卸売・小売業(同7.47%増)は堅調な伸びを維持した。一方、市場の回復が遅れている不動産業(同+3.66%)は緩慢な成長にとどまった。

1-3月期のGDP統計は順調といえる結果だったベトナムだが、現在は貿易戦争による大きな下振れリスクに直面している。4月2日にトランプ米大統領が発表した相互関税は、ベトナムに対して世界でも最高水準の46%の税率を課す内容であった(図表4)。ベトナムにとって米国は最大の輸出相手国であり、2024年の対米輸出額1,194億ドルは名目GDP4,763億ドルの約25%に相当する。世界的なサプライチェーン再編の流れの中で、ベトナムはその恩恵を受ける形で対米輸出を拡大させてきただけに、相互関税が発動されればベトナム経済への甚大な影響が懸念される。主要輸出品である履物や繊維製品、電子機器、木製品などの出荷の大幅な落ち込みは避けられない。また米国や韓国、中国などからの外国直接投資が減少して、雇用と所得にも一定の悪影響が及ぶことが予想される。なお、ベトナム政府は関税引上げにより、対米輸出が10%減少し、GDP成長率が0.84%ポイント低下する予測している。
(図表3)ベトナムの外国人観光客数/(図表4)アジア諸国に対する米国の相互関税
ベトナム最高指導者のトー・ラム共産党書記長は4月4日にトランプ米大統領と電話会談を行い、ベトナム製品に対する追加関税について1~3カ月の一時停止を要請し、米国からの輸入品に対する関税撤廃に向けて協議を行うことで合意した。他の東南アジア諸国と同様に、報復関税を取って対立を激化させるよりも、米国と取引して事態を早期に収束したい考えだ。もっとも米国の対ベトナム貿易赤字は中国、メキシコに次いで3番目に大きい上、ベトナムからの輸出には中国製品の迂回輸出も含まれているだけに、交渉は難しいものとなりそうだ。米国による追加関税は、対米輸出に大きく依存しているベトナム経済の現在の成長モデルに大きな打撃となるだけに、今後の行方が注目される。

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(2025年04月08日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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