2025年02月14日

マレーシア経済:24年10-12月期の成長率は前年同期比+5.0%~内需が好調で堅調な成長ペースを維持

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2024年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比5.0%増1(前期:同5.4%増)と低下し、市場予想2(同4.8%増)を上回り、今年1月にマレーシア統計局が発表した暫定値(同5.1%)と一致する結果となった(図表1)。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に在庫投資の減少が押し下げ要因となった。

民間消費は前年同期比4.9%増となり、前期の同4.8%増から小幅に上昇した。他方、政府消費は前年同期比3.3%増(前期:同4.9%増)と低下した。   

総固定資本形成は同11.7%増(前期:同15.3%増)と二桁成長だったものの、増勢は鈍化した。建設投資が同19.5%増(前期:同18.6%増)と好調に推移したが、設備投資が同4.1%増(前期:同12.3%増)と鈍化した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けてみると、全体の4分の3を占める民間部門が同12.7%増(前期:同15.5%増)、公共部門が同10.0%増(前期:同14.4%増)と鈍化した。また在庫投資は▲2.7%ポイントのマイナス寄与となった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+2.0%ポイント(前期:▲0.4%ポイント)と大幅に改善した。まず財・サービス輸出は同8.5%増(前期:同11.8%増)と低下した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同6.3%増)とサービス輸出(同19.9%増)がそれぞれ鈍化した。また財・サービス輸入も同5.7%増(前期:同13.5%増)と低下して輸出を下回る伸びとなった。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
供給側を見ると、主に農業と鉱業の減少、製造業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。

まずGDPの6割弱を占める第三次産は前年同期比5.5%増(前期:同5.2%増)と上昇した。宿泊業(同14.5%増)をはじめとして運輸・倉庫(同10.7%増)や不動産・ビジネスサービス(同9.6%増)、金融・保険(同5.3%増)、政府サービス(同5.2%増)が堅調に推移した。一方、情報・通信(同4.1%増)、卸売・小売(同4.4%増)、食料・飲料(同4.8%増)は相対的に低い伸びとなった。

第二次産業は前年同期比4.2%増(前期:同5.7%増)と低下した。まず製造業は同4.4%増(前期:同5.6%増)と鈍化した。内訳を見ると、ゴム製品(同10.8%増)が好調だったほか、主力の電子機器(同7.6%増)や動植物性油脂(同7.5%増)、食品加工(同6.0%増)、金属製品(同5.8%増)が堅調に推移したが、輸送用機器(同4.2%減)や石油製品(同1.1%増)、化学製品(同2.0%増)は低調だった。また建設業が同20.7%増となり、前期の同19.9%増から更に上昇した。他方、鉱業は同0.9%減(前期:同3.9%減)と低迷下。天然ガス(同2.4%増)の改善を原油(同6.2%減)の減少が相殺した。

第一次産業は同0.5%減(前期:同4.0%増)となり1年半ぶりのマイナス成長だった。漁業・養殖業(同3.1%増)と畜産(同3.0%増)が順調に増加板ものの、パーム油(同5.3%減)が急減、その他農作物が低調だった。
 
1 2025年2月14日、マレーシア中央銀行が2024年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

10-12月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は内外需の改善により2024年は回復、成長率が前年同期比+5.1%となり、2023年の同3.6%から上昇した。今回発表された10-12月期の成長率は前年同期比+5.0%となり、前期の同5.4%から鈍化したものの、堅調な成長ペースを維持していることが明らかとなった。

10-12月期は在庫の減少と設備投資の鈍化が成長率低下に繋がった。まず総固定資本形成は同+11.7%と二桁成長だったが、前期の同+15.3%から鈍化した。好調だったのは建設投資(同+19.5%)だ。長期にわたるインフラ事業の進展や政府のマスタープランに盛り込まれた基幹事業の実行などにより高成長を続けている。しかし、設備投資(同+4.1%)は鈍化した。米中貿易摩擦を背景に中国に代わる生産拠点としてマレーシアは欧米や中国の半導体企業からの注目を集めて、前期まで設備投資も好調だったが10-12月期は増勢が鈍化した。米トランプ政権による貿易制限の脅威が高まり、商品生産が弱まる中、企業の設備投資意欲が陰り始めた可能性もある。このことは生産調整により在庫投資が減少して10-12月期の成長率を大きく押し下げたことにも繋がる。

GDPの6割を占める民間消費が同+4.9%となり、労働市場の改善とインフレ圧力の鈍化を受けて堅調に拡大した。雇用の増加により昨年12月の失業率は10年ぶりに3.1%まで低下している(図表3)。また消費者物価上昇率は前年同月比+1.7%と低水準で安定しているほか、政府の低所得層向け現金給付制度「スンバンガン・トゥナイ・ラフマー」の給付により家計の購買意欲が改善したことも消費の拡大に繋がったとみられる。

外需は半導体サイクルの継続的な回復により電子機器の海外需要が拡大しており、財輸出(同+6.3%)が堅調だったが、7-9月期の同9.2%増から鈍化した。またサービス輸出(同+19.9%)もインバウンド需要の回復により大幅な伸びが続いたが、7-9月期の同+27.3%から鈍化している。もっとも資本財や中間財の国内需要が落ち着いて、輸入(同+5.7%)の増勢が鈍化したため、純輸出は大幅なプラス寄与(+2.0%ポイント)だった。

このように10-12月期は投資と財輸出の勢いが鈍化して成長率は7-9月期から低下したものの、堅調な成長ペースを維持している。今年は米トランプ政権による関税政策のリスクの高まりなどから主要貿易相手国が景気減速する恐れがあり依然不透明であるものの、世界的な金融緩和とインフレ圧力の緩和により世界貿易が僅かに上向いてマレーシアの輸出は増加傾向を保つとみられる。また民間消費は労働市場の改善と政府の継続的な支援措置の恩恵を受けて安定成長を維持するだろう。投資の増勢は二桁成長を記録した昨年からの鈍化は避けられないが、マレーシア経済は2025年も堅調を維持するだろう。マレーシア政府と中銀は2025年の経済成長率を+4.5~5.5%になると予測しているが、十分に達成可能な水準であるようにみえる。インフレも管理可能な水準で推移するとみられ、マレーシア中銀は年内までは現行の金融政策を維持すると予想する。
(図表3)マレーシア雇用統計/(図表4)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
 
 

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(2025年02月14日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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