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2025年07月09日

貸出・マネタリー統計(25年6月)~銀行貸出の伸びが回復、マネタリーベースは前年割れが定着

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:都銀貸出の伸びが急回復

(貸出残高)                                                                  
7月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、6月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.01%と前月(同2.55%)から大幅に上昇した(図表1)。伸び率の上昇は2カ月連続となる。

業態別では、都銀等の伸びが前年比2.17%(前月は1.25%)と急伸した。都銀の伸びはもともと大口貸出で振れやすいが、伸び率の前月からの上昇幅(0.92%ポイント)は2022年7月以来の大きさにあたる。0.92%の伸び率上昇は、金額にすると2兆円強となる。鉄鋼会社による大型M&Aに絡む大口融資が押し上げた可能性がある。また、地銀(第2地銀を含む)の伸びは前年比3.74%(前月は3.66%)と着実に上昇している(図表2)。

銀行貸出全体としては、円高による外貨建て貸出の目減りが重石となる一方、各種コスト増加に伴う運転資金需要、M&A・不動産向けの資金需要などが引き続き支援材料になっていると考えられる。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金
(貸出金利)
5月の新規短期貸出金利は0.783%と前月(0.872%)から低下し、2カ月連続の低下となった(図表5)。ただし、当統計は月々の振れが大きいため、移動平均で均してトレンドを見ると、昨年秋に始まった貸出金利の上昇基調が維持されている。日銀によるマイナス金利解除(昨年3月)・利上げ(昨年7月・今年1月)が、短期市場金利や短期プライムレートの上昇を通じて貸出金利に波及している。
 
5月の新規長期貸出金利は1.357%と前月(1.428%)からやや低下した(図表6)。ただし、変動を均した移動平均で見ると、緩やかな金利上昇トレンドが維持されている。変動金利型は利上げの浸透によって、固定金利型は主な基準となる10年などの国債利回りが上昇・高止まりしたことが、それぞれ貸出金利の上昇に繋がっていると考えられる。4月以降は10年国債利回りが一進一退の展開となっているものの、基本的に高止まっていることから、当面の新規長期貸出金利にも上昇余地があると考えられる。
(図表5)国内銀行の新規貸出平均金利(短期)/(図表6)国内銀行の新規貸出平均金利(長期)

2.マネタリーベース:前年割れが継続、今後も継続へ

7月2日に発表された6月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲3.5%と前月(同▲3.4%)からマイナス幅が拡大した。前年割れは10カ月連続となる(図表7)。

マイナス幅拡大の理由は、マネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金のマイナス幅拡大(前月▲3.7%→当月▲3.9%)である。金融政策正常化の一環として、日銀が昨年8月から資金供給要因である長期国債買入れの減額を開始し、減額幅を徐々に拡大していることが、引き続き、日銀当座預金の伸び率押し下げに働いている(図表8)。

一方、日銀券発行高の伸び率が前年比▲1.7%(前月は▲2.0%)とややマイナス幅を縮小したことは一定の支えとなった。なお、貨幣流通高の伸び率は同▲1.4%(前月も▲1.4%)と横ばい圏が続いている(図表7)。

季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ると、6月のマネタリーベースは前月比0.6兆円減と2カ月ぶりにマイナスに転じている(図表9)。今年上半期の累計では25.5兆円減となっている。

日銀は6月の金融政策決定会合において長期国債買入れの中間評価を行い、来年4月以降、再来年3月にかけても、減額ペースを半分に落としつつ買入れ減額を継続することを決定した(図表10)。今後も資金供給要因である長期国債買入れの減額が緩やかに進められることで、マネタリーベースはじわじわと減少幅を広げていくと見込まれる。
(図表7)マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の長期国債買入額と保有残高/(図表9)マネタリーベース残高と前月比の推移/(図表10)日銀による長期国債月間買入れ予定額

3.マネーストック:普通預金が3カ月連続で前年割れに

7月9日に発表された6月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比0.87%(前月は0.65%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同0.42%(前月は0.23%)と、ともにやや上昇した(図表11)。伸び率の上昇はともに2カ月連続だが、伸び率は0%台で低迷している。

財政赤字の縮小やリスク性資産等への資金シフトが通貨量の抑制に働いているとみられる。
 
M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月▲0.1%→当月▲0.1%)の伸びが3カ月連続の前年割れとなり、全体の伸び率を抑制した(図表12)。

一方、主に定期預金を意味する準通貨の伸びは前年比2.3%(前月は同1.8%)とプラス幅を拡大し、M3全体の伸び率上昇に寄与した。判明している5月までの内訳では、一般法人(企業)が前年比10.6%(前月は13.5%)と二桁の伸びを続けているほか(図表13)、個人の伸びも前年比▲1.1%(前月は▲1.5%)と、順調にマイナス幅を縮小している。日銀による金融政策正常化の進捗を受けて、多くの銀行が預金金利の段階的な引き上げに動いた結果(図表14)、定期預金金利の水準が上がったうえ、従来はほぼゼロであった普通預金との金利差も広がったことで、企業や一部家計において、普通預金から定期預金へ資金をシフトする動きが広がっていると見られる。

なお、現金通貨(前月▲2.4%→当月▲2.0%)の伸び率もマイナス幅を縮小している。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率/(図表13)法人・個人別預金の伸び/(図表14) 店頭表示預金金利(300万円未満)
広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比1.50%(前月は1.47%)とほぼ横ばいになった(図表11)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びはやや上昇し、投資信託(私募やREITなどを含み企業保有分も合わせた元本ベース、前月3.9%→当月5.8%)の伸びもプラス幅を拡大したものの、規模の大きい金銭の信託(前月3.3%→当月2.9%)、国債(前月39.3%→当月29.8%)等の伸びが低下したことが全体の伸びを抑制した。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月09日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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