2025年07月08日

ドル円の膠着はいつまで?~ドル安でも円安是正は足踏み

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. ドル円は4月下旬にかけて急速な円高ドル安が進行したが、以降は約2カ月半にわたって、145円を中心とする膠着した推移が続いており、円安ドル高の是正は足踏み状態にある。
     
  2. 実効為替レートを見ると、ドルは関税による景気減速懸念や財政懸念等を背景に年初以降ほぼ一貫してドル安基調にある。一方で、円は日銀利上げ観測等を追い風に春まで上昇を見せた後、4月下旬に下落に転じた。トランプ関税によって利上げ観測が後退したことが主因と考えられる。つまり、ドルが下落する中で円も4月以降に下落に転じたため、ドル円が膠着したと整理できる。
     
  3. 今後の注目材料として、ドルサイドではトランプ関税の行方が特に注目される。関税が大幅に拡大されれば、米経済の失速懸念が高まり、ドル安に繋がる可能性が高い。一方、円サイドで最も注目されるのは日本に対する関税の行方だ。関税が大幅に引き上げられれば、日銀利上げ観測の後退と貿易赤字の拡大観測を通じて円安圧力が高まるだろう。また、参議院選挙の行方も注目だ。与党の議席数が50議席を割り込めば、政策運営が厳しくなり、財政拡張的な野党の意向が取り込まれることで国債利回りに上昇圧力が加わる可能性が高い。日銀としては、利回りの上昇に拍車をかけることになる利上げが難しくなるため、利上げ観測の後退が円安を促しそうだ。
     
  4. ドル円の今後の中心的な見通しとしては、当面は関税を巡って流動的な状況が続き、一進一退の展開が続くと予想される。その後は日本に対する関税の大幅な引き上げが回避され、かつ影響が限定的に留まることが明らかになるにつれ、日銀の利上げ観測が高まり、円高圧力が高まると見ている。秋以降には円高ドル安が進み、年末は140円前後で着地すると予想している。
     
  5. ただし、上記は米政府が日本に対する関税が大きく上がらないことを前提としており、不透明感が強い点も否めない。仮に関税が大きく引き上げられ、かつ容易に取り下げられないなら、日銀の利上げ観測後退と貿易赤字拡大観測等により、150円突破を試す展開になると想定している。

 
ドル円レートと日米金利差
■目次

1.トピック:ドル円の膠着はいつまで?
  (ドルはほぼ一貫して下落基調にある)
  (円も下落基調に転換)
  (ドル円の注目材料)
  (ドル円の見通し・・・円安是正は進むか?)
2.日銀金融政策(6月)
  (日銀)現状維持+国債買入れ減額の継続を決定
  (今後の予想)
3.金融市場(6月)の振り返りと予測表
  (10年国債利回り)
  (ドル円レート)
  (ユーロドルレート)

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(2025年07月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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