2025年04月07日

トランプ関税と円相場の複雑な関係~今後の展開をどう見るか?

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. トランプ政権が自動車関税と相互関税を打ち出したことを受けて、円高に振れている。ただし、トランプ関税のドル円への波及経路は多岐にわたり、影響は複雑だ。トランプ関税の波及経路としては、米金融政策(円安要因or円高要因)、日銀金融政策(円安要因or円高要因)、市場のリスクオフ(円高要因)、日本の貿易収支(円安要因or円高要因)と対外直接投資(円安要因)が挙げられる。1月半ば以降は、トランプ大統領が関税実現に対する姿勢を維持し、想定を上回る関税が実行されたことで、過度のインフレに伴う米景気後退観測がFRBの利下げ加速観測を通じてドル安に繋がったうえ、リスクオフの円買いが発生した。一方で、日銀の利上げ観測後退などがドル円の下値を支えた。
     
  2. 今後の行方については不確実性が高いが、現時点の筆者のメインシナリオとしては、年末にかけて140円台を中心とするボックス圏での推移を想定している。当面はリスクオフ地合いの中でドル円の低迷が予想されるが、市場では既に米経済悪化に伴うFRBの積極的な利下げが織り込まれているうえ、投機筋の円買いも積み上がっている。関税の撤廃は考えにくいものの、ある程度引き下げられれば、米国の景気後退懸念が緩和し、一旦ドルが持ち直すだろう。ただし、その際には日銀が再び段階的な利上げを開始することになるため、秋以降は緩やかな円高基調になると予想している。
     
  3. メインシナリオに対するリスクバランスを考えると、円安よりも円高リスクの方が高い。トランプ大統領の最近の言動からは、貿易赤字是正に対する強い意欲を感じるためだ。現行以上の高い関税率が維持されるのであれば、米国の景気後退リスクが高まり、FRBの積極的な利下げとリスクオフの円買いが相まって、ドル円は140円を大きく割り込む展開が想定される。こちらのシナリオも可能性が高まりつつある。

 
ドル円レートと日米金利差
■目次

1.トピック:トランプ関税と円相場の複雑な関係
  ・ドル円は一時145円割れ
  ・トランプ関税のドル円への波及経路
  ・ドル円の直近の値動きは限定的
  ・ドル円の行方
2.日銀金融政策(3月)
  ・(日銀)現状維持
  ・今後の予想
3.金融市場(3月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート

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また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月07日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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