2025年01月30日

フィリピン経済:24年10-12月期の成長率は前年同期比5.2%増~台風被害が続き成長率目標を達成できず

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2024年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比5.2%増1となり、前期(7-9月期)から横ばいだった。市場予想2(同5.5%増)を下回る結果だった(図表1)。
10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、投資が鈍化した一方、純輸出が改善したことがわかる。

まず民間消費は前年同期比4.7%増となり、前期の同5.2%増からやや鈍化した。民間消費の内訳を見ると、保健(同11.5%増)や娯楽・文化(同10.4%増)、交通(同10.9%増)、教育(同5.2%増)が加速した一方、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同1.3%増)や衣服・履物(同5.1%増)、レストラン・ホテル(同5.3%増)が鈍化した。

政府消費は同9.7%増と、前期の同5.0%増から加速した。

総固定資本形成は同4.8%増(前期:同7.6%増)と鈍化した。設備投資が同0.1%増(前期:同7.9%増)、建設投資が同7.8%増(前期:同8.8%増)とそれぞれ低下した。なお、設備投資の内訳を見ると、産業用機械(同4.1%増)は増加したが、全体の約半分を占める輸送用機器(同1.3%減)と一般工業機械(同1.1%減)が減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲0.3%ポイントとなり、前期の▲3.0%ポイントからマイナス幅が縮小した。まず財・サービス輸出は同3.2%増(前期:同1.4%増)と増加した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同4.6%減)が2四半期連続で減少したが、サービス輸出(同13.5%増)が二桁増に加速した。一方、財・サービス輸入は同3.2%増(前期:同6.4%増)と鈍化した。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第一次産業の低迷や第二次産業の鈍化が低成長に繋がった(図表2)。

第一次産業は前年同期比1.8%減(前期:同2.7%減)となり台風の影響により3四半期連続のマイナス成長だった。家禽(同6.1%増)や林業(同4.3%増)は増加したものの、バナナ(同5.7%減)やサトウキビ(同22.9%減)、キャッサバ(同8.5%減)、ココナッツ(同3.5%減)などの農作物、家畜(同5.9%減)、漁業・養殖業(同2.0%減)が減少した。

第二次産業は同4.4%増(前期:同5.1%増)と鈍化した。製造業は同3.1%増となり、前期の同3.0%増に続いて低調だった。製造業の内訳をみると、化学製品(同6.9%増)と輸送用機器(同5.5%増)は相対的に高めの伸びとなったが、主力のコンピュータ・電子機器(同4.6%減)や石油製品(同8.4%減)、非鉄金属(同2.7%減)が低迷したほか、食品加工(同4.1%増)が伸び悩んだ。また鉱業・採石業(同3.4%減)が減少したが、建設業(同7.8%増)と電気・ガス・水道(同6.1%増)は堅調を維持した。

GDPの約6割を占める第三次産業は同6.7%増(前期:同6.3%増)と上昇した。内訳をみると、運輸・倉庫業(同9.5%増)や金融・保険業(同8.8%増)、専門・ビジネスサービス業(同8.3%増)、行政・国防(同7.0%増)、教育(同6.2%増)、宿泊・飲食業(同6.1%増)が相対的に高めの成長となったが、全体の約2割を占める卸売・小売(同5.5%増)や情報・通信業(同2.8%増)、不動産業(同3.0%増)は緩やかな伸びにとどまった。
 
1 2025年1月30日、フィリピン統計庁(PSA)が2024年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

10-12月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は輸出の回復や建設投資の拡大に支えらえて年前半の成長率が前年同期比6.1%と順調に推移したが、年後半は悪天候による影響を受けて景気が減速、今回発表された2024年10-12月期の成長率は前年同期比+5.2%となり、2四半期連続の低成長となった。

10-12月期は内需の伸び悩みと天候不順による農業部門の落ち込みにより低成長だった。10月から11月にかけて台風が立て続けに到来するなど悪天候が続いたため、農林水産業が前年同期比▲1.8%と低迷したほか、観光業も打撃を受けた。民間消費(同+4.7%)は2四半期ぶりに4%台に鈍化した。10-12月期の消費者物価上昇率が同+2.6%(前期:同+3.2%)と低下したほか(図表3)、11月の失業率が3.2%と低水準で推移するなど消費を巡る環境は良好にみられるが、度重なる台風の襲来により消費マインドが冷え込んだものとみられる。また投資は同+4.8%(前期:同+7.6%)と鈍化した。建設投資(同+7.8%)が民間部門を中心に堅調な伸びを維持したものの(図表4)、設備投資(同+0.1%)が失速した。一方、政府消費(同+9.7%)は加速して景気を下支えた。

外需は台風の影響で観光業が打撃を受けることとなったが、情報通信サービスやビジネスサービスなどを中心にサービス輸出(同+13.5%)が好調だった。財貨輸出(同▲4.6%)は主要輸出品である電子部品(同▲10.7%)の出荷が低迷し、2四半期連続で減少したが、国内需要の減速により輸入(同+3.2%)の伸びが鈍化したため、純輸出の成長率寄与度は7-9月期の▲2.9%から10-12月期が▲0.3%に赤字幅が縮小した。
(図表3)フィリピンのインフレ率と政策金利/(図表4)建設部門の粗付加価値額(GVA)
2024年後半は例年以上に台風被害が大きく、フィリピンの成長率が押し下げられることとなったため、2024年通年の成長率は前年比5.6%(2023年は同5.5%)と、当初の政府の成長率目標である6.0%~6.5%を下回った。フィリピン政府は2025年の成長率目標を従来の6.5%~7.5%から6.0%~8.0%へとレンジを拡げている。地政学的緊張、世界的な需要低迷など経済の先行き不透明感が高まっているためだ。12月の消費者物価指数は前年同月比2.9%上昇し、伸び率は3カ月連続で加速している。インフレは落ち着いているものの、依然として根強い。1月のCPI上昇率が落ち着いた水準にとどまれば、フィリピン中銀は国内経済を支えるために、2月の金融政策決定会合では0.25%の利下げを実施するものとみられる。
 
 

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(2025年01月30日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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