2024年11月07日

フィリピン経済:24年7-9月期の成長率は前年同期比5.2%増~悪天候と輸出悪化により5四半期ぶりの低成長に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2024年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比5.2%増1(前期:同6.4%増)と低下した。市場予想2(同5.7%増)を下回る結果だった(図表1)。

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に輸出悪化により成長率が低下したことがわかる。

まず民間消費は前年同期比5.1%増となり、前期の同4.7%増からやや加速した。民間消費の内訳を見ると、娯楽・文化(同4.7%増)と交通(同6.8%増)、レストラン・ホテル(同9.8%増)が鈍化したものの、保健(同10.8%増)が二桁成長に加速したほか、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同3.2%増)や衣服・履物(同5.1%増)、家具・住宅設備(同2.9%増)、教育(同1.4%増)が改善した。

政府消費は同5.0%増と、前期の同11.9%増から鈍化した。

総固定資本形成は同7.5%増(前期:同9.7%増)と鈍化した。設備投資が同8.1%増(前期:同4.5%減)と回復したものの、建設投資が同8.9%増(前期:同16.2%増)と鈍化した。なお、設備投資の内訳を見ると、一般工業機械(同5.2%減)は減少したが、全体の約半分を占める輸送用機器(同12.0%増)と産業用機械(同11.0%増)が二桁成長となった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲2.9%ポイントとなり、前期の▲0.9%ポイントからマイナス幅が拡大した。まず財・サービス輸出は同1.0%減(前期:同4.2%増)と減少した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同1.0%減)が3四半期ぶりに減少すると共に、サービス輸出(同2.8%増)が緩やかな伸びにとどまった。一方、財・サービス輸入は同5.8%増(前期:同2.9%増)と加速した。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第一次産業の低迷や第二次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。

まず第二次産業は同5.0%増(前期:同7.9%増)と鈍化した。製造業は同2.8%増となり、前期の同3.9%増から減速した。製造業の内訳をみると、食品加工(同7.8%増)や石油製品(同6.8%増)、輸送用機器(同5.2%増)は順調だったが、主力のコンピュータ・電子機器(同1.6%増)や化学製品(同2.5%減)、非鉄金属(同9.2%減)などは低調だった。また鉱業・採石業(同1.0%増)が鈍化したが、建設業(同9.0%増)と電気・ガス・水道(同7.4%増)は堅調に拡大した。

GDPの約6割を占める第三次産業は同6.3%増(前期:同6.8%増)とやや減速した。内訳をみると、宿泊・飲食業(同10.7%増)が二桁成長を維持したほか、金融・保険業(同8.8%増)や専門・ビジネスサービス業(同8.3%増)、運輸・倉庫業(同6.3%増)が堅調に推移した。しかし、全体の約2割を占める卸売・小売(同5.2%増)や教育(同2.6%増)、行政・国防(同3.7%増)、情報・通信業(同4.3%増)、不動産業(同5.4%増)は相対的に緩やかな伸びにとどまった。

第一次産業は前年同期比2.8%減(前期:同2.3%減)となり大型台風など悪天候の影響により低迷した。家禽(同5.6%増)やトウモロコシ(同1.3%増)は増加したものの、コメ(同12.0%減)やバナナ(同1.1%減)、ココナッツ(同0.5%減)などの農作物、家畜(同6.3%減)、漁業・養殖業(同5.4%減)が減少した。
 
1 2024年11月7日、フィリピン統計庁(PSA)が2024年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

7-9月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は輸出の回復や建設投資の拡大に支えらえて年前半の成長率が前年同期比6.1%と順調に推移したが、今回発表された2024年7-9月期の成長率は前年同期比+5.2%となり、5四半期ぶりの低成長となった。

7-9月期は悪天候により農業部門が2期連続のマイナス成長となり、製造業やサービス業にも悪影響が広がり成長率が低下した。フィリピンでは7月と9月に大型台風が相次ぎ到来するなど7-9月期は悪天候が続いた。農業部門では農作物被害が生じたほか、畜産業ではアフリカ豚熱の流行したため、農林水産業は前年同期比▲2.8%のマイナス成長となった。また豪雨により都市機能が一部まひして行政の遅れやサプライチェーンの混乱が生じたため鉱工業(同+5.0%)やサービス業(同+6.3%)の生産活動に支障をきたし成長が鈍化した。

需要側をみると、外需は財貨輸出(同▲3.5%)が3四半期ぶりに減少した。主要輸出品である電子部品(同▲10.4%)の出荷が落ち込むと共に、悪天候で国内の移動が制限されたため観光業が打撃を受けることとなりサービス輸出(同+2.0%)も低調だった。一方、国内需要の増加により輸入(同+6.4%)は堅調に増加したため、貿易赤字が拡大して純輸出の成長率寄与度が▲2.9%と大幅なマイナスとなった。

民間部門は底堅さがみられた。まず民間消費(同+5.1%)は5四半期ぶりの5%成長に加速した。今年7月以降、全国的な最低賃金の引き上げが始まったほか、7-9月期の消費者物価上昇率が同+3.2%(前期:同+3.8%)と低下して実質所得が増加したこと、9月の失業率が3.7%と低水準で推移するなど良好な雇用環境が続いていることが消費の追い風となったとみられる(図表3)。また投資は同+7.5%(前期:同+9.7%)と鈍化したものの、高めの成長を維持した。設備投資(同+8.1%)はプラス成長に回復し、建設投資(同+8.9%)は民間部門を中心に堅調に拡大した(図表4)。

フィリピン政府は通年の成長率目標を+6.0%~7.0%としている。7-9月期の成長鈍化により1-9月累計の成長率が+5.8%となったため、成長率目標を達成するには10-12月期は最低でも6.5%成長となる必要がある。7-9月期のGDPを押し下げた悪天候の影響は一時的なものであり、消費の回復など国内需要には明るさもみられるため成長目標の達成は不可能ではないだろう。インフレの鈍化により、フィリピン中銀は今年これまでに政策金利を累計0.5%ポイント引き下げているが、今回のGDP統計で成長率の低下が確認されたため、12月にはさらに0.25%ポイントの追加利下げが実施されると予想する。
(図表3)フィリピンのインフレ率と政策金利/(図表4)建設部門の粗付加価値額(GVA)
 
 

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(2024年11月07日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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