2024年08月08日

フィリピン経済:24年4-6月期の成長率は前年同期比6.3%増~建設投資の拡大により2四半期連続で成長加速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2024年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比6.3%増1(前期:同5.8%増)と上昇した。市場予想2(同6.3%増)と一致する結果だった(図表1)。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、投資と政府消費の回復が成長率上昇に繋がった。

まず民間消費は前年同期比4.6%増となり、前期から横ばいで推移した。民間消費の内訳を見ると、娯楽・文化(同18.7%増)と交通(同11.8%増)が二桁成長し、またレストラン・ホテル(同9.6%増)や保健(同9.5%増)が堅調に推移した。一方、衣服・履物(同4.8%減)が減少、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同0.5%増)や教育(同0.4%増)、家具・住宅設備(同1.9%増)が低調だった。

政府消費は同10.7%増(前期:同1.7%増)となり、二桁成長まで拡大した。

総固定資本形成は同9.5%増(前期:同2.1%増)と拡大した。設備投資が同4.7%減(前期:同5.5%減)と低迷したものの、建設投資が同16.1%増(前期:同6.9%増)と拡大した。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の約半分を占める輸送用機器(同12.9%減)が落ち込んだものの、一般工業機械(同10.2%増)と産業用機械(同3.2%増)が回復した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲0.9%ポイントとなり、前期の+1.5%ポイントから減少した。まず財・サービス輸出は同4.2%増(前期:同8.4%増)と鈍化した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同8.0%増)は堅調な伸びを維持したが、財貨輸出(同0.5%増)が再び鈍化した。一方、財・サービス輸入は同5.2%増(前期:同2.2%増)と拡大した。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第二次産業の回復が成長率上昇に繋がった(図表2)。

まず第二次産業は同7.7%増(前期:同5.1%増)と加速した。製造業は同3.6%増(前期:同4.4%増)と鈍化した。製造業の内訳をみると、石油製品(同27.8%増)や化学製品(同9.3%増)は好調だったが、主力のコンピュータ・電子機器(同0.4%減)や輸送用機器(同0.6%増)、食品加工(同1.9%増)などは低調だった。一方、建設業(同16.0%増)と電気・ガス・水道(同9.1%増)、鉱業・採石業(同4.8%増)はそれぞれ加速した。

他方でGDPの約6割を占める第三次産業は同6.8%増(前期:同6.9%増)と小幅に鈍化した。内訳をみると、運輸・倉庫業(同14.8%増)と宿泊・飲食業(同10.4%増)が二桁成長となったほか、金融・保険業(同8.2%増)や専門・ビジネスサービス業(同7.6%増)、不動産業(同7.2%増)、情報・通信業(同6.8%増)、全体の約2割を占める卸売・小売(同5.8%増)が堅調に推移した。しかし、教育(同2.1%増)、行政・国防(同1.8%増)は相対的に緩やかな伸びにとどまった。

第一次産業は前年同期比2.3%減(前期:同0.5%増)となり、エルニーニョ現象による干ばつの影響が長期化して減少した。家禽(同5.8%増)が増加したものの、コメ(同9.5%減)やトウモロシ(同19.2%減)、ココナッツ(同4.0%減)、バナナ(同3.3%減)などの農作物、家畜(同0.2%減)が減少した。一方、家禽(同8.7%増)や漁業・養殖業(同2.6%増)は増加した。
 
1 2024年8月8日、フィリピン統計庁(PSA)が2024年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は、2023年は物価高と金利上昇を受けて景気の減速傾向が続いて通年の成長率が同+5.5%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により好調だった2022年の同+7.6%から低下した。しかし、今回発表された2024年4-6月期の成長率は前年同期比+6.3%となり、昨年10-12月期の同+5.5%から2四半期連続で加速するなど、景気の順調さがうかがわれる。

4-6月期はインフレにより民間消費が伸び悩んだものの、建設投資の回復が成長率の上昇に繋がった。まず総固定資本形成が同+9.5%となり、前期の同+2.1%から加速した。フィリピン中銀の積極的な金融引き締め策に伴う借入コストの高騰により設備投資(同▲4.7%)が低迷したものの、建設投資(同+16.1%)は大きく増加した。マルコス政権の大規模インフラ整備計画「Build Better More」が加速しており、今年4~5月のインフラ支出額は前年同期比+33.6%と大きく伸びている。このため4-6月期は公共建設が同21.8%となり、好調だった前期の同12.1%から更に加速した(図表3)。民間建設も同様に同+5.3%から同+9.9%に加速している。またインフラプロジェクト以外にも社会保障や教育など様々なプログラムを通じて政府支出が進んだため、政府消費も同+10.7%(前期:同+1.7%)と回復した。

他方、民間消費は前期から横ばいの同+4.6%だった。4-6月期の消費者物価上昇率は前年同期比+3.8%(前期:同+3.3%)と上昇しており、インフレ圧力の高まりが消費の重石となった(図表4)。しかしながら、6月の失業率は3.1%と、昨年末以来の最低水準となるなど雇用環境に改善の動きがみられ、消費の落ち込みは回避されたようだ。

また外需は、財貨輸出(同+0.5%)が2四半期連続でプラス成長となったものの、増勢は前期の同+15.9%から大きく鈍化、電子部品(同▲2.4%)や農産品(同▲0.4%)、金属部品(同▲17.1%)などの輸出品の出荷が低調だった。一方、輸出全体の5割弱を占めるサービス輸出(同+8.0%)はインバウンド需要の回復により堅調な伸びを維持した。

フィリピン政府は通年の成長率目標を+6.0%~7.0%としている。4-6月期は建設投資の回復により成長率が同6.3%に加速したことで今年上半期の成長率が+6.0%となった。成長目標は達成可能な水準にある。フィリピンでは政策金利が17年ぶりの高水準である6.5%まで引き上げられているが、7月の消費者物価上昇率は前年同月比+4.4%(前月:同+3.7%)と上昇、フィリピン中銀のインフレ目標の+2.0~4.0%を上回るなどインフレに粘着性がみられる。インフレの高止まりは内需の重石となるほか、今後のフィリピン中銀の利下げ時期が遠のくことにも繋がりかねない。4-6月期も家計消費は伸び悩んでおり、今年末にかけて高インフレ・高金利が続く展開となれば、政府の成長目標の達成が危ぶまれる展開も考えられる。
(図表3)建設部門の粗付加価値額(GVA)(図表4)フィリピンのインフレ率と政策金利
 
 

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(2024年08月08日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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