2024年08月06日

インドネシア経済:24年4-6月期の成長率は前年同期比+5.05%~消費支出を中心に減速も、3期連続の5%成長

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

文字サイズ

インドネシアの2024年4-6月期の実質GDP成長率1は前年同期比(原系列)5.05%増(前期:同5.11%増)と低下したが、市場予想2(同+5.00%)とほぼ一致する結果となった。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、消費の鈍化が成長率低下に繋がった(図表1)。

民間消費(対家計民間非営利団体含む)は前年同期比5.05%増(前期:同5.53%増)と低下した。費目別に見ると、ホテル・レストラン(同6.80%増)と輸送・通信(同6.84%増)が堅調に拡大した一方、食料・飲料(同4.11%増)や保健・教育(同3.71%増)、住宅設備(同4.40%増)が伸び悩んだ。

政府消費は前年同期比1.42%増となり、前期の同19.90%増から大きく鈍化した。

総固定資本形成は前年同期比4.43%増(前期:同3.79%増)と上昇した。機械・設備投資(同6.08%増)が加速した一方、建設投資(同5.31%増)の増勢が鈍化した。

純輸出は成長率寄与度が+0.25%ポイント(前期:▲0.05%ポイント)となり3四半期ぶりのプラスとなった。まず財・サービス輸出は前年同期比8.28%増(前期:同1.37%増)と上昇した。輸出の内訳を見ると、財輸出(同7.73%増)が加速し、サービス輸出(同14.24%増)が二桁増を続けた。また財・サービス輸入も同8.57%増(前期:同1.94%増)と大きく伸びた。
(図表1)インドネシア実質GDP成長率(需要側)/(図表2)インドネシア 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、第三次産業と第三次産業がそれぞれ鈍化した(図表2)。

まず第三次産業は前年同期比6.29%増(前期:同7.40%増)と低下した。内訳を見ると、運輸・倉庫(同8.43%増)やビジネスサービス(同7.96%増)、情報・通信(同7.66%増)、行政・国防(同2.79%増)、教育(同2.38%増)が鈍化した。一方、ホテル・レストラン(同10.17%増)が二桁成長となったほか、構成割合の大きい卸売・小売(同5.87%増)と金融・不動産(同5.54%増)が回復した。

第二次産業は前年同期比4.64%増(前期:同5.99%増)と低下した。内訳を見ると、全体の2割を占める製造業(同3.95%増)や鉱業(同3.17%増)、建設業(同7.29%増)がそれぞれ鈍化した。一方、電気・ガス・水供給業(同5.39%増)が堅調な伸びを維持した。

第一次産業は前年同期比3.25%増(前期:同3.54%減)と増加に転じた。
 
1 2024年8月5日、インドネシア統計局(BPS)が2024年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

インドネシア経済は、2023年は一次産品輸出の減少に物価高と金利上昇が加わり景気が減速、通年の成長率は同+5.04%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により好調だった2022年の同+5.31%から低下した。今回発表された2024年1-3月期の成長率は前年同期比+5.05%と、1-3月期の+5.11%から低下したが、3四半期連続で5%以上の成長が続いており、景気は堅調さを保っているといえる。

4-6月期は消費が減速した。政府消費が前年同期比+1.42%(前期:同+19.90%)、非営利団体の消費支出は同+9.98%(前期:同+24.29%)となり、それぞれ選挙関連の支出拡大によって押し上げられていた1-3月期から鈍化した。

一方、GDPの半分以上を占める家計の消費支出は前期から横ばいの同+4.93%だった。家計消費は1-3月期がラマダンの季節要因により押し上げられていたため、4-6月期は鈍化するとみられたが、実際には+5%近い伸びを維持した。また投資(同4.43%増)は2期連続で+5%を割ったものの、機械・設備投資を中心に持ち直した。大統領選挙が終わり、先行きの不透明感が緩和されて企業の投資意欲が回復したものとみられる。

外需は改善した。世界的な需要の改善により石炭やニッケル、機械など主要輸出品の出荷が伸びて財貨輸出(前年同期比+8.02%)が加速した。また外国人観光客の流入によりサービス輸出(同+14.24%)の好調が続いた。なお4-6月期の外国人旅行者数は前年同月比+17.3%の338万人となり、コロナ禍前の9割近い水準まで回復している(図表3)。
(図表3)インドネシアの外国人観光客数/(図表4)インドネシアのインフレ率と政策金利
インドネシア経済は5%成長を維持しているが、4-6月期は政府消費の鈍化が輸出の回復を相殺したため、景気回復には至らなかった。今後は10月に就任するプラボウォ次期大統領の経済運営に注目が集まりそうだ。プラボウォ新政権下では、目玉政策の一つである給食の無償化や首都移転などに多額の費用がかかり、財政支出が拡大する計画である。金融市場は新政権で財政規律が守られるかどうか警戒する見方が広がっている。財政悪化懸念が強まれば、外国人投資家の資金流出が加速して通貨ルピアの下落基調が続き、輸入物価の上昇が警戒される。

インドネシア中銀は今年4月に利上げした後は3カ月連続で政策金利を据え置いている(図表4)。インフレ率は中銀の目標レンジ(+1.5~3.5%)内で推移しており、当面は需要サイドからのインフレ圧力が高まるとは考えにくい。今後、米国が利下げを開始し、また国内の物価上昇率が落ち着いて推移すると見込まれれば、インドネシア銀行も利下げが視野に入ってくることになるが、通貨ルピアの減価圧力が根強い状況が続くようであると、利下げが先送りされる展開も予想される。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年08月06日「経済・金融フラッシュ」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【インドネシア経済:24年4-6月期の成長率は前年同期比+5.05%~消費支出を中心に減速も、3期連続の5%成長】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

インドネシア経済:24年4-6月期の成長率は前年同期比+5.05%~消費支出を中心に減速も、3期連続の5%成長のレポート Topへ