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2025年10月30日

米FOMC(25年10月)-市場予想通り、政策金利を▲0.25%引き下げ。バランスシート縮小を12月1日で終了することも決定

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:▲0.25%引き下げ。バランスシート縮小を12月1日で終了することも決定

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が10月28日-29日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利を2会合連続となる▲0.25%引き下げて4-4.25%にすることを決定した。量的引締め政策ではバランスシートの縮小を12月1日で終了することを決定した。今回の金融政策決定ではミラン理事が▲0.5%の利下げを主張して反対したほか、カンザスシティ地区連銀のシュミッド総裁が政策金利の据え置きを主張して反対した。大幅利下げと据え置きを主張して複数の反対者がでるのは19年9月会合以来である。

今回発表された声明文では、景気判断部分で政府閉鎖に伴う政府統計の発表が見送られていることを踏まえて経済指標に関して「最近の」から「入手可能な」に表現変更されたほか、労働市場に関しても9月の雇用統計が発表されていない状況を踏まえて「8月まで」の評価と、代替指標などを踏まえた「より直近の指標」からの評価が併記された。景気見通し部分では雇用リスクに関する小幅な表現変更に留まった。金融政策ガイダンス部分の変更は無かった。

2.金融政策の評価:市場の12月利下げ観測の後退を促すタカ派的な内容

政策金利の据え置きは予想通り。10月14日のパウエル議長の講演で言及されていたこともあり、バランスシートの縮小を終了することが決定されたことも予想通りだった。一方、FOMC会合後の記者会見でパウエル議長が冒頭発言で12月会合での対応方針で意見が大きく分かれたことに触れて、市場が織り込む12月利下げ観測の後退を促す発言をしたことは予想外でタカ派的な発言が目立った。

パウエル議長の記者会見では、政府閉鎖により政府統計は確認できないものの、入手可能な官民データ(代替指標)に基づき、インフレリスクの上振れ、雇用リスクの下振れの状況が続く中、雇用とインフレの見通しが9月会合からあまり変化していないとの評価を示した。また、政府統計の不足により、これまでのように経済の詳細を把握することができないものの、経済に重大な変化が生じた場合には代替指標で把握できるとの見方を示した。一方、政府閉鎖が12月会合での金融政策決定に影響する可能性については、「霧の中を運転する場合に速度を落とすのが適切から知れない」とし、利下げに慎重になる可能性を示唆した。

当研究所は本日の結果を受けて、金融市場が織り込むほど12月利下げは確実ではないと考えており、政府閉鎖や政府統計の動向次第では政策金利が据え置かれる可能性もあると予想する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • これらの目標達成を支え、また、リスクバランスの変化を踏まえて委員会はFF金利の誘導目標水準を0.25%ポイント引き下げ、4.0-4.25%とすることを決定(今回削除)
  • これらの目標達成を支え、また、リスクバランスの変化を踏まえて委員会はFF金利の誘導目標水準を0.25%ポイント引き下げ、3.75-4.0%とすることを決定(今回追加)
  • 委員会は財務省証券、政府機関債、政府機関の住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(今回削除)
  • 委員会は12月1日をもって証券保有総額の縮小を終了する(今回追加)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • FF金利の目標レンジの追加的な調整を検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する(今回変更なし)
  • 委員会は最大限の雇用を支え、インフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 入手可能な指標は経済活動が緩やかなペースで拡大していることを示唆している(前回の「最近の指標は」”Recent indicators”から「入手可能な」“Available indicators”に修正されたほか、経済活動に関して前回の「上半期に伸びが鈍化」“growth of economic activity moderated in the first half of the year”から「緩やかなペースで拡大」“has been expanding at moderate pace”に表現変更)
  • 雇用増加は今年に入り鈍化し、失業率は上昇したものの、8月までは低水準を維持した(今回「今年に入り」”this year”の表現が追加したほか、「8月までは」”through August”の表現が追加)
  • より直近の指標もこうした動向と一致している(今回追加)
  • インフレ率は年初から上昇し、やや高めの水準で推移している(今回「年初から」”since earlier in the year”の表現を追加)
 
(景気見通し)
  • 経済見通しの不確実性は依然として高い(変更なし)
  • 委員会はデュアル・マンデートの両サイドのリスクに高い注意を払っており、雇用に対する下方リスクがここ数か月で高まったと判断している(雇用に対する下方リスクに関して、前回の「高まった」”have risen”から「ここ数か月で高まった」“rose in recent months”に表現変更)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 入手可能な公的・民間セクターのデータは、雇用とインフレの見通しが9月会合以降大きく変わっていないことを示唆している。目標達成を支援し、雇用とインフレに対するリスクのバランスを考慮して、政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した。
    • 政府機関閉鎖前のデータは主に堅調な個人消費を反映し、経済活動の成長が予想よりやや堅調な軌道にある可能性を示している。連邦政府の閉鎖が継続する間、経済活動に重石となるが、閉鎖終了後にこれらの影響は逆転する見込みである。
    • 雇用増加は年初から大幅に鈍化している。この減速の相当部分は移民減少と労働参加率の低下による労働供給の減速を反映している可能性が高いが、労働需要が明らかに軟化していることも要因である。
    • インフレ率は長期目標である2%と比較すると依然としてやや高い水準にある。高関税は一部商品の価格を押し上げ、総合的なインフレ率上昇をもたらしている。合理的な基本シナリオではインフレへの影響は一時的に留まるだろう。しかし、インフレがより持続的なものとなる可能性もあり、これは評価・管理すべきリスクだ。
    • 短期的にインフレリスクは上方へ、雇用リスクは下方へ偏っており、困難な状況にある。雇用目標とインフレ目標の間の緊張関係を調整する中、政策にリスクのない道筋は存在しない。
    • 今回の会合における委員会の議論では、12月の対応方針について意見が大きく分かれた。12月の会合で政策金利をさらに引き下げることは、決して決まったことではない。むしろ逆である。
 
  • 主な質疑応答
    • (市場の12月利下げの織り込みについて)12月会合での利下げは決して確定した事実ではない。雇用とインフレの2つの目標の間に緊張が生じている状況下では委員会全体で強い意見の対立が生じる。
    • (政府閉鎖でデータが入手できない場合に労働市場の評価や政策判断にどの程度影響するか)労働市場、インフレに関する代替指標の入手が可能で概観は把握できる。経済に重大な変化が生じた場合、こうした情報を通じて察知できる。12月会合での政策決定への影響については現時点で判断は難しい。
    • (今回の利下げは僅差の判断か)反対意見が2名でたが、今回の利下げは強固な賛成多数で決定された。意見が大きく分かれたのは12月の利下げに関する議論だ。
    • (政府閉鎖により、民間データなどに依存する度合いを強めるため、慎重な姿勢を招くか)これは一時的な状況だ。入手可能なあらゆるデータを収集し、評価し、慎重に検討する。12月会合に影響する可能性はある。霧の中を運転する場合には速度を落として運転するのが適切かも知れない。慎重になる可能性はある。
    • (12月利下げが確実でない理由)多くの中立金利予測が3~4%となる中、現在の政策金利はこの範囲に到達している。このため、一部の委員には一旦停止しようという感覚があり、利下げ継続を望む委員と強い意見の相違がある。
    • (関税により今年のインフレは継続的に上昇すると予想しているのか)インフレがさらに上昇する余地がある。数か月前に導入された関税の影響は既に確認されている。しかし、2月から5月にかけて段階的に発行しており、影響は来春まで続くだろう。予測では関税によってインフレ率が0.2%~0.4%ポイント引き上げられる可能性。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月30日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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