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- タイ経済:24年7-9月期の成長率は前年同期比3.0%増~輸出と政府支出が拡大、2年ぶりの+3%成長に加速
2024年11月18日
2024年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比3.0%増1(前期:同2.2%増)と上昇し、市場予想2(同2.4%増)を上回った(図表1)。前期比(季節調整後)の成長率は1.2%増だった。
7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に政府消費と投資の改善が成長率上昇に繋がったことが分かる。
まず民間消費は前年同期比3.4%増(前期:同4.9%増)とやや鈍化した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同19.3%増)の大幅な増加が続いたほか、衣類・靴(同4.7%増)、保健衛生(同4.1%増)、娯楽・文化(同3.4%増)、食料・飲料(同3.2%増)が順調に増加した。一方、交通(同2.7%減)は自動車の購入が落ち込み低迷したほか、家具、備品、メンテナンス(同2.3%増)、住宅・水道・電気・燃料(同1.0%増)が緩やかな増加にとどまった。
政府消費は同6.3%増(前期:同0.3%増)と加速した。現物社会給付(同36.9%増)が2年ぶりの急上昇、財・サービスの購入(同8.5%増)は増加に転じた。一方、雇用者報酬(同1.1%増)は小幅な増加が続いた。
総固定資本形成は同5.2%増(前期:同6.1%減)と増加に転じた。投資の内訳を見ると、公共投資は同25.9%増(前期:同4.0%減)と急増した一方、民間投資が同2.5%減(前期:同6.8%増)と低迷した。
純輸出は成長率寄与度が+1.0%ポイントとなり、前期の+2.5%ポイントから縮小した。まず財・サービス輸出は同10.5%増(前期:同4.7%増)と二桁成長だった。財貨輸出が同8.3%増(同1.9%増)と加速したほか、サービス輸出が同21.9%増と大幅な増加が続いた。一方、財・サービス輸入は同9.6%増(前期:同1.3%増)となり輸出を上回る伸びとなった。
供給項目別に見ると、主に第三次産業の改善が成長率上昇に繋がった(図表2)。
まず鉱工業は同1.2%増(前期:同1.9%増)と鈍化した。主力の製造業は同0.1%増(前期:同0.2%増)と停滞した。製造業の内訳を見ると、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同2.5%減)は前期の同1.7%減からマイナス幅が拡大したほか、食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同0.2%増)と石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同1.9%増)は小幅な増加にとどまった。また電気・ガス業が同2.3%増(前期:同5.3%増)と鈍化した。他方で鉱業は同11.7%増(前期:同12.9%増)となり、主要油田の生産量が改善して大幅な増加が続いた。
全体の6割を占めるサービス業は同4.1%増(前期:同3.0%増)と堅調に拡大した。サービス業の内訳を見ると、建設業(同15.5%増)は公共事業の加速により大幅に増加したほか、運輸・倉庫業(同9.0%増)と宿泊・飲食業(同8.4%増)、保健衛生・社会事業(同6.4%増)が好調だった。小売・卸売業(同3.5%増)と情報・通信業(同3.4%増)は順調に推移した。他方、金融・保険業(同1.8%増)や教育(同1.6%増)、国防・社会保障(同0.3%増)、不動産業(同0.7%増)、は比較的緩やかな伸びにとどまった。
農林水産業は前年同期比0.5%減(前期:同1.9%減)と4四半期連続で減少した。エルニーニョからラニーニャへと気候パターンが変化したことで、いくつかの地域で大雨が降り作物被害が生じており、主にコメやトウモロコシ、ゴムなどの主要作物の収量が減少したことが響いた。
1 11月18日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2024年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
まず鉱工業は同1.2%増(前期:同1.9%増)と鈍化した。主力の製造業は同0.1%増(前期:同0.2%増)と停滞した。製造業の内訳を見ると、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同2.5%減)は前期の同1.7%減からマイナス幅が拡大したほか、食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同0.2%増)と石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同1.9%増)は小幅な増加にとどまった。また電気・ガス業が同2.3%増(前期:同5.3%増)と鈍化した。他方で鉱業は同11.7%増(前期:同12.9%増)となり、主要油田の生産量が改善して大幅な増加が続いた。
全体の6割を占めるサービス業は同4.1%増(前期:同3.0%増)と堅調に拡大した。サービス業の内訳を見ると、建設業(同15.5%増)は公共事業の加速により大幅に増加したほか、運輸・倉庫業(同9.0%増)と宿泊・飲食業(同8.4%増)、保健衛生・社会事業(同6.4%増)が好調だった。小売・卸売業(同3.5%増)と情報・通信業(同3.4%増)は順調に推移した。他方、金融・保険業(同1.8%増)や教育(同1.6%増)、国防・社会保障(同0.3%増)、不動産業(同0.7%増)、は比較的緩やかな伸びにとどまった。
農林水産業は前年同期比0.5%減(前期:同1.9%減)と4四半期連続で減少した。エルニーニョからラニーニャへと気候パターンが変化したことで、いくつかの地域で大雨が降り作物被害が生じており、主にコメやトウモロコシ、ゴムなどの主要作物の収量が減少したことが響いた。
1 11月18日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2024年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
7-9月期GDPの評価と先行きのポイント
タイ経済は、2023年は輸出低迷や政府支出の停滞により+1.9%成長と伸び悩んだが、直近2四半期は政府支出が加速し始めたことにより成長率が加速している。
7-9月期の成長率上昇は政府支出の加速や輸出回復による影響が大きい。まず財貨輸出(同+8.3%)は製造業と農産物の出荷拡大により2四半期連続で加速した。品目別にみると、コンピュータ(同+146.5%)やコンピュータ部品・付属品(同+46.5%)、通信機器(同+33.2%)などの工業製品に加えて、米(同+25.2%)やゴム(同+55.9%)といった農産物の輸出が増加した。もっとも原材料・中間財の需要増により財輸入(同+9.6%)が財輸出を上回る伸びとなったため、純輸出の成長率寄与度は縮小することとなった。
またサービス輸出(前年同期比+21.9%)は大幅な伸びが続いた。タイでは新型コロナ対策の入国規制を緩和した2022年から外国人観光客数の増加傾向が続いており、今年3月には中国との間で観光ビザの相互免除を開始している。7-9月期の外国人観光客数は前年同期比+21.1%の858万人(コロナ禍前の約9割の水準)となり回復傾向が続いている。
また7-9月期は政府支出の大幅な増加により政府消費(同+6.3%)と公共投資(同+25.9%)が加速した。タイでは執行が遅れていた24年度(23年10月~24年9月)国家予算が4月に成立したことで年金や公務員の医療費などの経常支出やインフラ開発などの資本支出が大幅に増加している(図表3)。
一方、民間消費は同+3.4%となり、前期の同4.9%から鈍化した。観光業の持続的な回復により失業率は1%程度の低水準が続いているものの、タイ政府が昨年実施したエネルギー価格の引下げ政策の影響が一巡してインフレ率が上昇したことなどが消費の重石になったとみられる。実際、7-9月期の消費者信頼感指数は景気回復の遅れや生活費の上昇を反映して低下傾向にある(図表4)。また民間投資(同▲2.5%)は自動車販売の低迷や、金融機関による与信基準の厳格化、引き締め的な金融政策等により低調だった。
7-9月期の成長率上昇は政府支出の加速や輸出回復による影響が大きい。まず財貨輸出(同+8.3%)は製造業と農産物の出荷拡大により2四半期連続で加速した。品目別にみると、コンピュータ(同+146.5%)やコンピュータ部品・付属品(同+46.5%)、通信機器(同+33.2%)などの工業製品に加えて、米(同+25.2%)やゴム(同+55.9%)といった農産物の輸出が増加した。もっとも原材料・中間財の需要増により財輸入(同+9.6%)が財輸出を上回る伸びとなったため、純輸出の成長率寄与度は縮小することとなった。
またサービス輸出(前年同期比+21.9%)は大幅な伸びが続いた。タイでは新型コロナ対策の入国規制を緩和した2022年から外国人観光客数の増加傾向が続いており、今年3月には中国との間で観光ビザの相互免除を開始している。7-9月期の外国人観光客数は前年同期比+21.1%の858万人(コロナ禍前の約9割の水準)となり回復傾向が続いている。
また7-9月期は政府支出の大幅な増加により政府消費(同+6.3%)と公共投資(同+25.9%)が加速した。タイでは執行が遅れていた24年度(23年10月~24年9月)国家予算が4月に成立したことで年金や公務員の医療費などの経常支出やインフラ開発などの資本支出が大幅に増加している(図表3)。
一方、民間消費は同+3.4%となり、前期の同4.9%から鈍化した。観光業の持続的な回復により失業率は1%程度の低水準が続いているものの、タイ政府が昨年実施したエネルギー価格の引下げ政策の影響が一巡してインフレ率が上昇したことなどが消費の重石になったとみられる。実際、7-9月期の消費者信頼感指数は景気回復の遅れや生活費の上昇を反映して低下傾向にある(図表4)。また民間投資(同▲2.5%)は自動車販売の低迷や、金融機関による与信基準の厳格化、引き締め的な金融政策等により低調だった。
先行きのタイ経済は2024年度政府予算の執行により国内需要が押し上げられて成長率が3%台の高めの成長が続くとみられる。世界貿易や観光業の緩やかな回復が続くほか、国内では10月にタイ中銀が金融緩和に踏み切り景気の追い風となりそうだ。タイ政府は今年の成長率が+2.6%、来年が2.3~3.3%と順調に拡大すると予測している。来年には米新政権発足により米中の貿易摩擦が激化すると予想され、輸出を巡る環境が大きく変わる可能性がある。経済の貿易依存度の高いタイ経済が現在の高めの成長ペースを維持すること容易ではないだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年11月18日「経済・金融フラッシュ」)
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経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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