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- タイ経済:25年1-3月期の成長率は前年同期比3.1%増~消費鈍化も輸出拡大で+3%台の成長維持
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2025年05月19日
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2025年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比3.1%増1(前期:同3.3%増)と低下したが、市場予想2(同2.9%増)を上回った(図表1)。なお前期比(季節調整後)の成長率は0.7%増だった。
1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に消費の鈍化が成長率低下に繋がったことが分かる。
まず民間消費は前年同期比2.6%増(前期:同3.4%増)と低下した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同15.8%増)の大幅な増加が続いたほか、衣類・靴(同4.5%増)、娯楽・文化(同3.9%増)、食料・飲料(同2.8%増)が順調に増加した。一方、住宅・水道・電気・燃料(同1.1%減)と家具、備品、メンテナンス(同0.1%減)が減少したほか、輸送(同1.1%増)や保健衛生(同2.4%増)が緩やかな増加にとどまった。
政府消費は同3.4%増(前期:同5.4%増)と低下した。財・サービスの購入(同9.8%増)と現物社会給付(同6.0%増)が堅調に拡大したが、雇用者報酬(同0.9%増)は小幅な増加にとどまった。
総固定資本形成は同4.7%増(前期:同5.1%増)と低下した。投資の内訳を見ると、公共投資は同26.3%増(前期:同39.4%増)と大幅な伸びが続いた一方、民間投資が同0.9%減(前期:同2.1%減)と低迷した。
純輸出の成長率寄与度は+7.0%ポイントとなり、前期の+2.4%ポイントから拡大した。まず財・サービス輸出は同12.3%増(前期:同11.5%増)と二桁成長が続いた。サービス輸出は同7.0%増(前期:同22.9%増)と鈍化したが、財貨輸出が同13.8%増(同8.9%増)と加速した。一方、財・サービス輸入は同2.1%増(前期:同8.2%増)と鈍化した。
供給項目別に見ると、主に三次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。
全体の6割を占めるサービス業は同4.2%増(前期:同4.7%増)と低下した。サービス業の内訳を見ると、建設業(同16.2%増)が公共事業の加速により大幅に増加したほか、宿泊・飲食業(同7.2%増)と保健衛生・社会事業(同6.7%増)、運輸・倉庫業(同5.4%増)、情報・通信業(同4.9%増)、小売・卸売業(同4.7%増)も順調だった。他方、教育(同0.3%増)や国防・社会保障(同0.6%増)、不動産業(同1.1%増)、金融・保険業(同3.1%増)は相対的に緩やかな伸びにとどまった。
鉱工業は同0.2%増(前期:同1.1%増)と低下した。主力の製造業は同0.6%増(前期:同0.3%増)と小幅の上昇にとどまった。製造業の内訳を見ると、食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同1.5%増)、石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同1.3%増)は小幅に増加した。一方、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同2.0%減)は自動車生産の減少が続いて低迷した。また鉱業が同2.5%増(前期:同9.6%増)となり主要油田の採掘量が減少して鈍化したほか、電気・ガス業が同4.9%減(前期:同3.1%増)と減少した。
一方、農林水産業は前年同期比5.7%増となり、前期の同1.1%増から大きく上昇した。良好な気象条件に恵まれ、主にコメや果物、サトウキビ、ゴムなどの主要作物や家禽の生産が増加した。一方で漁業は減少した。
1 5月19日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2025年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
全体の6割を占めるサービス業は同4.2%増(前期:同4.7%増)と低下した。サービス業の内訳を見ると、建設業(同16.2%増)が公共事業の加速により大幅に増加したほか、宿泊・飲食業(同7.2%増)と保健衛生・社会事業(同6.7%増)、運輸・倉庫業(同5.4%増)、情報・通信業(同4.9%増)、小売・卸売業(同4.7%増)も順調だった。他方、教育(同0.3%増)や国防・社会保障(同0.6%増)、不動産業(同1.1%増)、金融・保険業(同3.1%増)は相対的に緩やかな伸びにとどまった。
鉱工業は同0.2%増(前期:同1.1%増)と低下した。主力の製造業は同0.6%増(前期:同0.3%増)と小幅の上昇にとどまった。製造業の内訳を見ると、食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同1.5%増)、石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同1.3%増)は小幅に増加した。一方、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同2.0%減)は自動車生産の減少が続いて低迷した。また鉱業が同2.5%増(前期:同9.6%増)となり主要油田の採掘量が減少して鈍化したほか、電気・ガス業が同4.9%減(前期:同3.1%増)と減少した。
一方、農林水産業は前年同期比5.7%増となり、前期の同1.1%増から大きく上昇した。良好な気象条件に恵まれ、主にコメや果物、サトウキビ、ゴムなどの主要作物や家禽の生産が増加した。一方で漁業は減少した。
1 5月19日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2025年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
1-3月期GDPの評価と先行きのポイント
タイ経済は、昨年前半は+2.0%成長で伸び悩んでいたが、年後半は輸出の回復と政府支出の加速により+3.1%成長に加速した。今回発表された2025年1-3月期の成長率は前年同期比+3.1%となり、前期の同+3.3%から小幅に減速したものの、高めの成長が続いていることが明らかとなった。
1-3月期の成長率低下は消費の鈍化による影響が大きい。まず民間消費(同+2.6%)は前期の同3.4%から鈍化した。1-3月期は国民向けの給付金事業第2弾(高齢者約300万人を対象に1万バーツ支給)や買い物振興策「イージーE―レシート2.0」といった政府の景気刺激策が実施されたものの、生活費の高騰や米トランプ政権の関税政策による貿易戦争への懸念により消費者信頼感指数が低下したほか(図表3)、高水準の家計債務が消費の重石となった。また政府消費は同+3.4%と、前期の同+5.4%から鈍化した。
民間投資は同▲0.9%と低迷した。世界経済の不透明感の高まりや金融機関の与信の厳格化が響いた。一方、公共投資は同+26.3%となり、3四半期連続の二桁成長だった。政府プロジェクトの進展により政府投資(同+72.2%)が増加した一方、国有企業の投資(同▲8.5%)は13四半期ぶりに減少した。
外需は大きく改善した。まず財貨輸出(同+13.8%)は工業製品の輸出が好調で二桁成長だった。米国による高関税を見越した前倒し注文により米国向け輸出が高水準だった。品目別にみると、ゴム(同+32.4%)、コンピュータ(同+130.8%)、コンピュータ部品・付属品(同+50.4%)、電子機器(同+28.6%)などが高い伸びを示した(図表4)。またサービス輸出(前年同期比+7.0%)は増勢が鈍化した。1-3月期の外国人訪問者数は前年同期比+1.9%の954万人(コロナ禍前の約94%の水準)となりコロナ禍後の回復の勢いが落ち着きつつあるようだ。一方、財・サービス輸入(同+2.1%)は資本財輸入の減少により増勢が鈍化しており、純輸出は大幅なプラス寄与(+7.0%ポイント)となった。
1-3月期の成長率低下は消費の鈍化による影響が大きい。まず民間消費(同+2.6%)は前期の同3.4%から鈍化した。1-3月期は国民向けの給付金事業第2弾(高齢者約300万人を対象に1万バーツ支給)や買い物振興策「イージーE―レシート2.0」といった政府の景気刺激策が実施されたものの、生活費の高騰や米トランプ政権の関税政策による貿易戦争への懸念により消費者信頼感指数が低下したほか(図表3)、高水準の家計債務が消費の重石となった。また政府消費は同+3.4%と、前期の同+5.4%から鈍化した。
民間投資は同▲0.9%と低迷した。世界経済の不透明感の高まりや金融機関の与信の厳格化が響いた。一方、公共投資は同+26.3%となり、3四半期連続の二桁成長だった。政府プロジェクトの進展により政府投資(同+72.2%)が増加した一方、国有企業の投資(同▲8.5%)は13四半期ぶりに減少した。
外需は大きく改善した。まず財貨輸出(同+13.8%)は工業製品の輸出が好調で二桁成長だった。米国による高関税を見越した前倒し注文により米国向け輸出が高水準だった。品目別にみると、ゴム(同+32.4%)、コンピュータ(同+130.8%)、コンピュータ部品・付属品(同+50.4%)、電子機器(同+28.6%)などが高い伸びを示した(図表4)。またサービス輸出(前年同期比+7.0%)は増勢が鈍化した。1-3月期の外国人訪問者数は前年同期比+1.9%の954万人(コロナ禍前の約94%の水準)となりコロナ禍後の回復の勢いが落ち着きつつあるようだ。一方、財・サービス輸入(同+2.1%)は資本財輸入の減少により増勢が鈍化しており、純輸出は大幅なプラス寄与(+7.0%ポイント)となった。
このようにタイ経済は1-3月期も+3%台の成長率を維持したものの、好調だった輸出は米国による高関税を警戒した前倒し注文により押し上げられた。また景気の牽引役である観光関連産業の回復が一服したほか、政府の現金給付策にもかかわらず消費が鈍化するなど、内需の勢いは弱まりつつある。そして、今年後半には米国の貿易政策の影響が本格的に現れ、タイ経済をさらに悪化させる恐れがある。全世界に対し10%の一律関税は4月9日に発動し、残る上乗せ分の相互関税は36%となっており、ASEAN主要国のなかではベトナム(46%)に次ぐ高水準だ。今後の協議により競合国と比べて税率がどこまで下がるかが焦点となっている。タイはGDPに占める貿易依存度が高い国であり、輸出低迷の悪影響の雇用や設備投資への波及は避けられない。タイ政府は今年の成長率予測について+1.3%~2.3%と予測しており、従来予測の+2.3%~3.3%から1%ポイント下方修正している。経済の先行き不透明感の高まりを受けて、タイ政府とタイ中央銀行は景気下支えに動くだろう。タイ中銀は昨年から既に3度の利下げを実施しているが、今後も追加利下げを行う可能性が高い。またタイ政府は5月に実施予定だった国民向けの給付金第3弾を見直す意向を示しており、相互関税対策に予算を振り向けるものとみられる。
(2025年05月19日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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