2023年09月05日

パッシブ運用のエンゲージメントを再考する

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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2014年に、「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」によりスチュワードシップ・コードが策定されて以来、機関投資家と企業のサステナビリティの考慮に基づく対話「エンゲージメント」が推進されている。
 
その後、2017年には同コードは実効性の向上を目指して改訂が行われた。2017 年の改訂のポイントの一つとして、パッシブ運用におけるスチュワードシップ活動が挙げられる(図表1)。改訂後の指針4-3において、「パッシブ運用は、投資先企業の株式を売却する選択肢が限られ、中長期的な企業価値の向上を促す必要性が高いことから、機関投資家は、パッシブ運用を行うに当たって、より積極的に中長期的視点に立った対話や議決権行使に取り組むべきである」とし、パッシブ運用での中長期的な企業価値の向上に向けた取り組みを求めている。
 
アクティブ運用では投資先企業に改善が見られない場合、株式を売却することができる。一方で、パッシブ運用は運用の性質上、株式を保有し続ける必要があるため、個々の投資先企業に対し中長期的視点に立った価値向上を目指すエンゲージメントや議決権行使に取り組むこととなる。
 
このような長期的な視点に立った投資は、企業が長期的な計画の下で経営を行う上でも有益であり、企業にとってパッシブ運用を行う投資家は協力し合って価値向上を目指す相手となる。
近年では企業は統合報告書やコーポレートガバナンス報告書などでの情報開示を充実させており、これらの開示資料を活用したエンゲージメントが進められている。GPIFが行った調査によれば、機関投資家によるこれらの開示資料の活用が増加していることが示されている(図表1)。
図表1:機関投資家の統合報告書・コーポレートガバナンス報告書の活用状況
このように、パッシブ運用のエンゲージメントが注目されているが課題点もある。パッシブ運用は一般的に市場全体の多数の企業に投資を行っており、運用サイドの人員にも限界があることから、効率的かつ効果的にエンゲージメントを行っていく必要がある。近年では、エンゲージメント件数の増加により、投資家、企業の負担が増加している。
 
また、エンゲージメントにおいて投資家と企業の間には目線の違いも生じている。生命保険協会が企業と投資家を対象に行った企業価値向上に向けた取り組みに関する調査によれば、企業は「ESG・SDGsへの取組み」や「経営計画・経営戦略」が重要としている一方で、投資家はこれらに加えて「投資家との対話方針」等を強化することを求めている(図表2)。
 
近年のエンゲージメントに関する取り組みとしては、国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)のプラットフォームやClimate Action 100+など国際イニシアチブなどによる要請により「共同エンゲージメント」が行われている。
 
エンゲージメントを投資家が共同で行うことは、コスト節約になるだけでなく、対象となる企業は共通であることを考えれば合理的である。加えて、年金基金などの投資家は共同でエンゲージメントを行うことで、単独でのエンゲージメントよりも自らの働きかけや発言の影響力を高めることもできる。
 
アクティブ運用が銘柄選択を通じて優良な企業の選別を行う一方で、パッシブ運用ではこうした長期的なエンゲージメントの強化が進められている。アクティブ運用、パッシブ運用それぞれが取り組みの改善を続けていくことでの株式市場全体の価値向上に期待したい。
 
図表2:企業価値向上に向けて今後取組みを強化する事項(企業) 
/強化を期待する事項(投資家)
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

(2023年09月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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