2023年02月22日

かかりつけ医を巡る議論とは何だったのか(下)-包括ケア強化と受療権確保で対立、「神学論争」を超えた視点を

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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■要旨

昨年末までの社会保障制度改革の論議では、身近な病気やケガに対応する「かかりつけ医」を巡る議論が活発に交わされた。

結局、昨年末に公表された社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)医療部会の意見書では、(上)で述べた通り、▽かかりつけ医機能の定義の法定化、▽かかりつけ医に期待される機能を公表する仕組みの創設、▽継続的な医学管理を要する患者が希望する場合、かかりつけの関係を示す書面を発行する仕組みの創設――などの内容で決着。関連法の改正案が23日召集の通常国会に提出された。

かかりつけ医を巡る議論を振り返る2回シリーズの(下)では、2021年10月から始まった関係者の議論を振り返る。具体的には、制度化論議に火を付けた財政制度等審議会による問題提起に始まり、日本医師会や健康保険組合連合会などの提案を取り上げる。

その結果、「医療の入口」を1つに絞る「包括ケアの強化」と、患者が自由に医療機関を選べる「受療権の確保」という二律背反の下、「神学論争」と呼んでも過言ではないほど、対立が先鋭化した点を振り返る。

その上で、神学論争を超える視座として、患者―医師の信頼関係から発想する重要性を強調し、一層の制度改革に向けた論点や選択肢を提示する。

■目次

1――「神学論争」と化した議論を振り返る
2――かかりつけ医がなぜ注目されたのか
  1|コロナ対応で注目されたかかりつけ医の曖昧さ
  2|オンライン診療
3――かかりつけ医を巡る論議の経緯
  1|財政審、諮問会議の動向
  2|2021年末に決まった「新経済・財政再生計画改革工程表」の記述
  3|2022年度診療報酬改定
  4|骨太方針に向けた政府・与党の動向
  5|骨太方針は「玉虫色」に
  6|日医の主張
  7|健保連の提案
  8|全世代会議、社会保障審議会などの議論
  9|決着した内容の総括
4――制度化賛成派の主張
  1|外来医療費の抑制
  2|医療機関の機能分化の下支えに
  3|全人的かつ継続的なケアが可能に
  4|新興感染症など有事対応も可能に
5――制度化反対派の主張
  1|受療の選択肢が狭くなる危険性
  2|診療報酬の変更に対する抵抗感
  3|医療の国家統制に対する嫌悪感
6――「神学論争」にも似た意見対立
7――「神学論争」を超えるための視座
  1|患者―医師の信頼関係をベースに制度を作る必要性
  2|自然に信頼関係は生まれるのか
  3|選択肢が多いことが満足度に繋がるのか
  4|信頼に足る能力を持つ医師を探せるのか
8――今後の制度改正に向けた選択肢(1)~患者―医師の関係性に関する制度設計~
  1|医療における「代理人」を明確にする必要性
  2|英仏両国との対比
  3|中小病院も含む必要性
  4|DX化、PHRの拡大
9――今後の制度改正に向けた選択肢(2)~エージェンジー問題を解消するための工夫~
10――今後の制度改正に向けた選択肢(3)~信頼できる医師を増やすのための工夫~
11――おわりに
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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