コラム
2023年11月30日

「地域の実情」に応じた医療・介護体制はどこまで可能か(4)-同時並行で進む提供体制改革、求められる都道府県の対応は?

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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1――はじめに~同時並行で進む提供体制改革、求められる都道府県の対応は?~

2024年度は医療・介護分野で多くの制度改正が予定されており、様々な見直し論議が進んでいます。こうした中、第1回で確認した通り、国の審議会資料などでは、医療・介護提供体制を整備する際の視座として、「地域の実情」という言葉が多用されています。さらに第1回では、「地域の実情」に沿った対応が必要な理由とか、「地域の実情」を踏まえないまま、事業や制度ありきで物を考えてしまう自治体サイドの「事業頭」「制度頭」の悪弊なども指摘し、第2回第3回ではデータによる実情把握(マクロ)と個別事例の収集・分析(ミクロ)の両面で「地域の実情」を把握する必要性とか、関係者との合意形成や庁内外のチーム形成の必要性などを指摘しました。

第4回以降は各論に入ることとし、今回は医療提供体制改革を取り上げます。医療提供体制改革に関しては、急性期病床の削減や在宅医療の充実などを目指す「地域医療構想」に加えて、医師の超過勤務削減などを目的とする「医師の働き方改革」など、都道府県を主な実施主体とした制度改正が同時並行で進められています。

そこで、今回は制度改正の動向を俯瞰しつつ、都道府県に求められる対応を考察します。中でも、医師の働き方改革や診療報酬改定などによる影響を緩和する役割が都道府県に求められる可能性を論じます。

2――同時並行で進む様々な医療提供体制改革

1|2019年で論じられた「三位一体改革」の必要性
(筆者注:地域医療構想を)医療従事者の働き方改革や医師偏在対策といった医療人材に関する施策と三位一体で推進をいたします――。2019年5月の経済財政諮問会議で、このように根本匠厚生労働相は述べました。さらに、この時に提出された資料では、「地域医療構想」「医師偏在」「医師の働き方改革」を同時に取り組むことで、40年をメドに「どこにいても質が高く安全で効率的な医療」を目指す考えが示されました1

この後、3つ以外でも制度改正が実施されたのですが、それぞれ異なる文脈で議論がスタートしている上、目標年次が微妙に違うなど、全体像が俯瞰されているとは言えない状況です。そこで、以下では本連載のメインテーマである「地域の実情」に関わる医療提供体制改革を列挙します。
 
1 2019年5月31日、経済財政諮問会議の議事録、根本厚生労働相提出資料を参照。以下、肩書は全て発言当時。
2|地域医療構想(2017年度~)
既述した三位一体改革のうち、地域医療構想は2017年3月までに都道府県が作成しました2。策定に際して、都道府県は人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上になる2025年の医療需要を病床数で推計。さらに、医療機関の機能について、救急患者を受け入れる「高度急性期」「急性期」、リハビリテーションなどを提供する「回復期」、長期療養の場である「慢性期」に区分し、それぞれの病床区分について、人口20~30万人単位で設定される2次医療圏(構想区域)ごとに病床数を将来推計しました。

その上で、自らが担っている病床機能を報告させる「病床機能報告」で明らかになった現状と対比させることで、需給ギャップを明らかにしました。その結果、図表1の通り、全国的な数字では、高度急性期、急性期、慢性期が余剰となる一方、回復期は不足するという結果が出ており、高度急性期や急性期病床の削減と回復期機能の充実、慢性期の削減と在宅医療の充実が必要と理解されています。
図表1:地域医療構想に盛り込まれた病床数
しかし、第2回第3回で論じた通り、都道府県は民間病院などに対し、病床削減を命令できる権限を持たないため、医療機関の経営者などを交えた「地域医療構想調整会議」(以下、調整会議)での議論を通じた合意形成と自主的な対応が想定されています。

なお、地域医療構想については、都道府県が6年周期で策定している「医療計画」の一部として作成されており、2018年度から始まった現計画に包摂されました。さらに、現計画が2023年度に期限切れを迎えるため、2022年12月に公表された厚生労働省の「第8次医療計画等に関する検討会」(以下、検討会)の報告書では、次期医療計画に向けた考え方として、「基本的な枠組み(病床の必要量の推計・考え方など)を維持しつつ、着実に取組を進めていく」と定められています。

このほか、地域医療構想の目標年次が2年後に迫っているため、検討会報告は「2025年以降も地域医療構想の取組を継続していく」との考えを強調。厚生労働省幹部も「新たな地域医療構想の策定に向けて検討を始めていきたい」3と述べており、2024年から見直し論議が本格化すると思われます。
 
2 地域医療構想の概要や論点、経緯については、2017年11~12月の拙稿「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(1)」(全4回、リンク先は第1回)、2019年5~6月の拙稿「策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える」(全2回、リンク先は第1回)、2019年10月31日拙稿「公立病院の具体名公表で医療提供体制改革は進むのか」を参照。併せて、三原岳(2020)『地域医療は再生するか』医薬経済社も参照。
3 2023年10月21日『社会保険旬報』No.2907における浅沼一成医政局長のインタビューから引用。
3|医師偏在是正(2020年度~)
都会への医師偏在や地方での医師不足を解消する医師偏在是正も三位一体改革に位置付けられています。こちらに関しては、各都道府県が2020年3月までに策定した「医師確保計画」「外来医療計画」という2つの制度で進められており、「地域の実情」に沿った対応策が期待されています。

このうち、前者の医師確保計画では、奨学金の返済を免除する代わりに9年間の地方勤務を義務付ける「地域枠」を通じて、若手医師に地方で働いてもらうことが想定されています4

具体的には、医療の需要や医師の年齢などを勘案した全国共通の「医師偏在指標」を基に、上位3分の1の都道府県や2次医療圏を「医師多数都道府県」「医師多数区域」、下位3分の1を「医師少数都道府県」「医師少数区域」に設定。都道府県は2020年3月までに「医師確保計画」を策定し、地域枠を通じて、若手医師を医師少数区域に誘導することが重視されています。

一方、後者の外来医療計画とは、医師が過剰な地域で新規開業する医師に対し、在宅医療や公衆衛生など、地域で不足する医療機能を実施するように求める仕組み。そのための場として、都道府県が運営する調整会議が主に想定されています。
 
4 医師確保計画と外来医療計画に関しては、2020年2月17日拙稿「医師偏在是正に向けた2つの計画はどこまで有効か(上)」、2020年3月2日「医師偏在是正に向けた2つの計画はどこまで有効か(下)」を参照。なお、2つの計画は2024年度から始まる医療計画に包摂される。
4|外来機能分化(2022年度~)
医療提供体制を効率的にするため、大病院は診療所や中小病院からの紹介患者を中心に受け入れるなど、外来に関する医療機関の役割分担を明確にすることが想定されています。この関係では、いくつかの制度改正が絡んでおり、2016年度の診療報酬改定で、紹介状なしに大病院を受診した場合、追加負担を徴収する制度が創設され、「大病院」の対象は200床以上まで段階的に拡大されました5

一方、「地域の実情」に沿った体制整備も期待されています6。具体的には、2021年通常国会で成立した改正医療法で制度化された「外来機能報告制度」を通じて、各医療機関が担っている外来機能を各都道府県に報告させ、都道府県を中心とした調整会議における合意形成と自主的な対応を通じて、紹介された患者を中心に受け入れる「紹介受診重点医療機関」を各地域で明確にすることが想定されています。つまり、現状の可視化と合意形成に力点を置いている点は地域医療構想と共通しており、言わば「地域医療構想の外来版」と言えます。
 
5 紹介状なし大病院受診の追加負担に関しては、2022年10月25日拙稿「紹介状なし大病院受診追加負担の狙いと今後の論点を考える」を参照。
6 外来機>能報告と紹介受診重点医療機関の選定に関しては、 2021年7月6日拙稿「コロナ禍で成立した改正医療法で何が変わるか」を参照。
5|医師の働き方改革(2024年度~)
2024年4月から本格施行される制度であり、地域医療構想と医師偏在是正と並ぶ「三位一体改革」の一つに位置付けられていました。この制度では、医師の超過勤務を原則として年960時間、最大でも年1,860時間まで制限することに主眼が置かれており、上限が年1,860時間に設定される特例的な医療機関(B水準、C水準)については、都道府県の指定を受けることになっています7

さらに、これらの医療機関における健康確保措置の確認などに関して、都道府県が現場で制度運用を担うことになっており、やはり「地域の実情」に応じた対応が都道府県に期待されています。
 
7 医師の働き方改革の詳細については、2023年9月29日拙稿「施行まで半年、医師の働き方改革は定着するのか」、2021年6月22日拙稿「医師の働き方改革は医療制度にどんな影響を与えるか」も参照。
6|新興感染症への対応(2024年度~)
新型コロナウイルスへの対応を通じて、新興感染症への脆弱性が浮き彫りになったことで、2022年臨時国会で成立した改正感染症法に基づく対応が都道府県に求められています8。具体的には、都道府県が医療機関と協定を事前に結ぶことで、新興感染症が発生した際の対応を義務付けることに力点が置かれています。

さらに、正当な理由がないにもかかわらず、医療機関が協定に基づいて行動しない場合、都道府県は医療機関の名称を公表するほか、「地域医療支援病院」(かかりつけ医の支援などを担う医療機関)などを取り消すことができるようになりました。地域医療支援病院などの取り消しは医療機関にとって、診療報酬の減収に繋がるため、一種の「罰則」の要素を持っています。

こうした内容を含む改正法の施行は2024年4月であり、ここでも「地域の実情」に沿った対応が都道府県に期待されています。実際、新興感染症対策を特出しするような形で、2023年3月に公表された検討会報告書では「地域の実情」という言葉が11回も使われています。
7|かかりつけ医機能の強化(2025年度~?)
2023年通常国会での法改正を通じて、身近な病気やケガに対応する「かかりつけ医」の機能強化も都道府県が担うことになりました9。具体的には、病床、外来に次ぐ第3の報告制度として、「かかりつけ医機能報告制度」が創設され、診療所や中小病院による夜間・外来の対応や在宅医療の提供などの状況を可視化。その上で、不足分の充実策に関して、都道府県が地域の医師会などと協議することが意識されています。

詳細については、新設された「国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会」を中心に議論される見通しで、早ければ2025年度から新制度が始動します。
 
9 2023年8月26日拙稿「かかりつけ医強化に向けた新たな制度は有効に機能するのか」、同年2月13日拙稿「かかりつけ医を巡る議論とは何だったのか」(上下2回、リンク先は第1回)をそれぞれ参照。
8|一層、大きくなっている都道府県の役割
以上の記述を通じて、様々な医療提供体制改革が同時並行で進んでいる点に加えて、都道府県の役割が大きくなっていることをご理解頂けたと思います。しかも元々、都道府県が6年周期で策定している医療計画では、がんや災害、へき地など5事業5疾病と在宅医療10に関して、施策の方向性を示すことになっており、都道府県の主体性発揮が一層、期待されていると言えます11
 
10 5事業5疾病とは、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患、救急、災害、へき地、周産期、小児医療を指す。2024年度改定から始まる医療計画では、新興感染症対応も追加される。この時の法改正に関しては、 2021年7月6日拙稿「コロナ禍で成立した改正医療法で何が変わるか」を参照。
11 ここでは詳しく触れないが、平均在院日数の削減などを目指す6年周期の「医療費適正化計画」も少しずつ強化されている。詳細については、2023年8月25日拙稿「全世代社会保障法の成立で何が変わるのか(下)」を参照。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

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