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気候変動と紛争の相関-環境悪化が紛争につながる経路とは...
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
1――はじめに
気候変動は、人々にさまざまな影響を与えている。その大きなものの1つが、紛争の勃発だ。例えば、干ばつに見舞われて水資源を巡る争いが起きる、といったケースが世界各地で発生している。
国連をはじめ、国際赤十字や各国の研究機関が、こうした紛争の発生に警鐘を鳴らしている。本稿では、気候変動と紛争の関係について、見ていくこととしよう。
2――紛争の定義と起こりやすい状況
まず、紛争とはどういうものか。独立行政法人国際協力機構(JICA)の報告書では、スウェーデンの政治学者ウォーレンスティーン氏の著書に記載の「少なくとも2つ以上の主体が、希少な資源(富や権力など)を同時に獲得しようとして相争う社会状況」という定義を採用している。1 民間・非営利の国際組織セーブ・ザ・チルドレンは、「政府軍や武装勢力などの2つ以上の勢力が、武力を用いて争い、戦闘により年間25人以上の犠牲者が出た場合」を紛争と定義している。2
紛争の主体は国家とは限らず、暴力を伴う形態ばかりとも限らない。宗教紛争、民族紛争、国境紛争、民衆の政権に対する不満から発展する紛争、軍のクーデターを起因に生じる紛争などがある。他にも、水、農耕地、レアメタル等の資源をめぐる紛争や、移民が原因で発生する紛争などがある。
1 「紛争終結国の平和構築に資するインフラ整備に関する研究」吉田恒昭氏 (独立行政法人国際協力機構 国際協力総合研修所, 平成18年度 独立行政法人国際協力機構 客員研究員報告書, 平成19年3月)
2 「紛争とは?その原因や子どもたちへの影響」大野容子氏 (公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)
紛争には、起こりやすい状況がある。先ほどのJICAの報告書によると、紛争が起こりやすい国の特徴として、安全保障、行政能力、正統性の3つのギャップがあげられるという。
(1) 安全保障のギャップ
政府が、国民の安全保障を確立できていない状況。このような状況では、国民は、武装勢力や他国などから、さまざまなリスクにさらされる。
(2) 行政能力のギャップ
政府が、国民に行政サービスを提供する能力を保持していない状況。このような状況では、国民の生活が悪化する。その結果、国家に対する不信、政権に対する不満が生じる可能性がある。
(3) 正統性のギャップ
正統で責任能力を保持するとみなされる制度が欠如している状況。このような状況では、異なる集団の利害関係の調整や、紛争が発生した場合の調停が困難となる。
これらのギャップは、連動したり、連鎖したりすることがあり、紛争の発生や拡大へと悪循環をもたらす場合がある。
3――気候変動と紛争
気候変動により生活環境が悪化することで、限られた資源の奪い合いが発生し、紛争に発展する。
人々が、より暮らしやすい環境を求めて、移住・移動をすることで、環境の悪化が進んでいない場所でも、移住者と受け入れ先コミュニティの間で紛争が起こる。つまり、紛争地域が拡大していく。
そして、困窮した人々は、武装勢力の戦闘員の採用対象として目を付けられる。戦闘員となって、戦闘に加われば、その点でも紛争拡大に寄与してしまう。
さらに、国のエリート層が資源を詐取したり、不当に処理したりすることで、紛争による混乱の収拾は見通せなくなる…。
紛争が起こることで、既存の気候変動の問題が悪化することもある。PRIOのブハウグ特任教授によれば、気候から紛争への関係は穏当だが、紛争から気候脆弱性への関係は非常に強いという。3
具体的には、紛争は人々の経済活動や生活を破壊する。それは気候変動で既に生じていた食料安全保障を脅かす。紛争が、市場と公共財の供給を妨害し、重要なインフラに損害を与え、人々の強制移住を引き起こす。その結果、環境災害に対処、適応するための地域の能力が損なわれる。
3 “Armed conflict and climate change: how these two threats play out in Africa”Halvard Buhaug (Peace Research Institute Oslo (PRIO)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
公式SNSアカウント
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