2022年09月28日

居宅介護支援費の有料化は是か非か-介護サービスの仲介だけではない点、利用控えの危険性に配慮を

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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1――はじめに~居宅介護支援費は有料化すべきか~

3年に一度の介護保険制度改正を巡り、介護保険サービスの調整などを担う居宅介護支援費、いわゆるケアマネジメントの有料化論議が浮上している。居宅介護支援費は現在、全額が介護保険財源で賄われており、2024年度にも施行される次期制度改正に向けて、年末に決着する論議では、訪問介護など他の介護サービスと同様、1~3割の利用者負担を徴収する是非が問われている。

しかし、ケアマネジメントは単なる介護保険サービスの仲介だけではない点にも留意する必要がある。具体的には、ケアマネジメントは本来、相談業務や利用者の状態を評価するアセスメントに加えて、「インフォーマルケア」と呼ばれる制度以外の地域資源の活用など、介護保険サービスの枠内にとどまらない点で、他の介護保険サービスにはない特殊性を有している。特にインフォーマルケアの活用は近年、現場レベルだけでなく、近年の制度改正でも重視されている。

こうした中で、有料化した場合のデメリットとして、ケアマネジメントの幅広い性格が軽視されるようになり、結果的にケアマネジメントが介護保険制度に閉じ込められてしまう危険性が懸念される。さらに、有料化に伴って低所得者や重度な人の利用控えなども予想され、少なくとも現時点での有料化はメリットよりもデメリットの方が大きいと考えている。

本稿は居宅介護支援費の有料化を巡る議論を総括することで、有料化の「利害得失」を考察することにしたい。

2――ケアマネジメントとは何か

2――ケアマネジメントとは何か

1|居宅介護支援費の費用構造
まず、有料化論議の対象となっている居宅介護支援費の費用構造を概観する。居宅介護支援費は介護保険サービスの一つとして、訪問介護やデイサービス(通所介護)など他の介護保険サービスの仲介などを専ら担っているが、制度創設時から利用者負担を徴収しておらず、図1の通り、保険給付で100%対応してきた。
図1:居宅介護支援に関する給付と自己負担のイメージ
これに対し、他のサービスは原則1割、高所得者は2~3割を利用者負担として徴収する仕組みであり、利用者負担を徴収しない居宅介護支援費は特例的な扱いとなっている。

このように特例的な取り扱いとなっている理由について、介護保険制度の創設に関わった厚生省(現厚生労働省)の元幹部による書籍では「従来の医療保険にはない事務的サービスの給付であり、利用者に費用負担の対価であるという認識を持ってもらうには時間を要するのではないかという配慮から、(略)利用者負担の対象外とされている」と説明されている1

さらに、1996年4月の老人保健福祉審議会(厚相の諮問機関)報告書でも「サービスを積極的に利用できるよう、利用者負担について十分配慮する必要がある」と記述されていた。つまり、当時は現在と異なり、サービスが普及しない事態(「保険あってサービスなし」)が懸念されていたため、利用者にとってサービス利用の「敷居」を低くするため、居宅介護支援費では利用者負担を徴収しない判断が下されたと言える。

しかし、介護保険は現在、財源と人材の制約条件に直面しており、制度の持続可能性が問われている2。そこで、事態を打開する方策の一つとして、居宅介護支援費の有料化の是非が焦点となっている。今後、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会を舞台に、本格的な議論が交わされた後、年末までに一定の結論が出る見通しだ。もし有料化される場合には2023年の通常国会で法律が改正され、2024年度から施行される段取りになりそうだ。

しかし、ケアマネジメントは本来、介護保険制度にとどまらない広がりを有しており、他の介護保険サービスと異なる特殊性を有する。このため、介護保険制度に組み込まれている居宅介護支援費との違いを整理して考える必要がある。以下、そもそも論として、「ケアマネジメントとは何か」という点を考えたい。

なお、本稿ではケアマネジメントと居宅介護支援費(ケアマネジメント費)の違いを強調するため、引用などのケースを除き、介護保険制度での位置付けや有料化の説明に際しては「居宅介護支援費」と原則として表記する。逆に「ケアマネジメント」と書いている場合には介護保険制度にとどまらない意味で用いているとご留意頂きたい3
 
1 堤修三(2018)『社会保険の政策原理』国際商業出版p241を参照。
2 財源と人手の制約条件に直面している介護保険制度の概況については、2021年7月6日拙稿「20年を迎えた介護保険の足取りを振り返る」、2019年7月5日拙稿「介護保険制度が直面する『2つの不足』」(上下2回、リンク先は第1回)を参照。
3 なお、ケアマネジメントに関しては過去にも何度か論じている。例えば、前回の制度改正論議に関する2020年7月16日拙稿「ケアプラン有料化で質は向上するのか」を参照。介護保険制度20年を期したコラムの第4回第5回でもケアマネジメントを取り上げた。
2|ケアマネジメントは本来、介護保険だけではない
次に、「ケアマネジメントとは何か」という点から考察する。ケアマネジメントは1990年にイギリスで制度化され、日本でも介護保険制度の導入に際して「輸入」された経緯がある。その定義は「対象者の社会生活上での複数のニーズを充足させるため適切な社会資源と結びつける手続きの総体」4とされており、(1)地域生活を支援する「コミュニティ・ケア」の推進、(2)医療、心理、福祉など総合的なアプローチで利用者の地域生活を支援、(3)QOL(生活の質)の向上、(4)財源のコントロール――の4つを目標としているという5

さらに、ケアマネジメントの解説書6を読むと、障害者福祉や児童福祉、引きこもりの人の支援、刑期を終えた人の社会復帰などに関する言及が見られ、ケアマネジメントは別に高齢者福祉に限った手法ではない。
 
4 白澤政和(1992)『ケースマネージメントの理論と実際』中央法規出版p11を参照。
5 白澤政和編著(2013)『改訂 ケアマネジメント』全国社会福祉協議会pp12-13を参照。
6 白澤政和編著(2019)『ケアマネジメント論』ミネルヴァ書房を参照。
3|ケアマネジメントは介護保険サービスの仲介にとどまらない
本稿のメインテーマである高齢者介護に関しても、ケアマネジメントは介護保険制度にとどまらない広がりを有している。具体的には、図2のイメージの通り、相談業務や利用者の状態を把握するアセスメント、多職種の意見を取り入れるサービス担当者会議、介護保険サービスの調整を含めたケアプラン(介護サービス計画)の作成、給付管理、モニタリング評価と予後予測といった流れを辿り、その業務は介護保険サービスの仲介にとどまらない。
図2:ケアマネジメントの主な流れ
ケアプランの作成に際しても、介護保険サービスの仲介だけでなく、住民主体によるカフェや運動の場、公民館などを舞台にした趣味のサークルといった地域資源を組み込むことも期待される。いわゆる制度以外のインフォーマルケアであり、「ケアマネジメント=介護保険サービスの仲介」を意味しない点に留意する必要がある。

実際、これは筆者の意見だけでなく、例えば2021年度介護報酬改定では、専門性の高いケアマネジメントに従事する居宅介護支援事業所に対する「特定事業所加算」の要件として、「必要に応じて、多様な主体等が提供する生活支援のサービス(インフォーマルサービスを含む)が包括的に提供されるようなケアプランを作成していることを新たに求める」という要件が追加された7

さらに、次期制度改正を話し合っている介護保険部会に提出された厚生労働省の資料8でも、住民主体の支え合いなどを支援する「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」9の文脈で、インフォーマルケアの重要性が論じられている。ケアマネジメントに当たる専門職であるケアマネジャー(介護支援専門員)に対する研修でも、インフォーマルケアの活用が強調されているようだ。

こうしたインフォーマルケアを組み込む重要性については、「フォーマルな側に介護支援専門員を配置することにより、利用者に対してフォーマルセクター(筆者注:介護保険サービス)と、インフォーマルセクターとを連続させる支援を行うことが可能となる」というケアマネジメントの解説書の記述とも符合する10

利用者目線で考えると、インフォーマルケアの重要性は一層、浮き彫りになる。利用者のQOLを維持・向上させる際の手段は介護保険サービスに限らないし、インフォーマルケアは介護保険サービスの代替物ではない。

例えば、「知り合いと一緒に会話を楽しみたい」「外出機会を作りたい」という高齢者の意向を聞く形で、デイサービスをケアプランに入れるケースが多く見られるが、知人と一緒に会話を楽しむ機会はデイサービスに限らない。むしろ、デイサービスでの集団ケアを嫌う人とか、多くの人と交わることが苦手な高齢者の場合、馴染みの人だけで集まる趣味の場の方が精神的に落ち着くかもしれない。ベンチを家の前に置くだけでも、地域の繋がりを維持できるかもしれない。

もちろん、介護保険サービスは専門職で提供される分、専門性を期待できるため、要介護度の重い人や重度な認知症の人に対するケアには介護保険サービスが欠かせない。さらに、報酬や人員基準などで裏付けを伴う分、介護保険サービスは安定しているが、インフォーマルケアは「主催者の住民が病気になった」などの理由で閉鎖、縮小されることも少なくなく、安定性を欠く面もある。

しかし、介護保険サービスだけが高齢者のQOLを高める手段ではない。このため、ケアマネジャーはケアプランを作る時、インフォーマルケアも選択肢の一つとして、意識することが期待される。

以上の記述を通じて、ケアマネジメントが本来、介護保険の枠内にとどまらない広がりを有していることがご理解頂けたであろう。

むしろ、ケアマネジメントは「個を地域で支える援助と、個を支える地域を作る援助を一体的に推進する手法」11と理解されているソーシャルワークの手法と位置付けられる必要がある。

例えば、要介護状態になって外出する意欲を失った高齢者に対し、介護保険サービスのリハビリテーションで体力の維持・向上を図る「個」への関与だけでなく、高齢者本人の生活歴や趣味などを踏まえつつ、高齢者が外出意欲を感じられるようなインフォーマルケアの場を「地域」で探し、必要に応じて場づくりに努めることも求められる。一例を挙げると、現役時代に職人として働いていた高齢者の社会参加機会を作るため、手先の器用さを生かせるように、壊れた玩具を有償ボランティアで修理できる場を地域に作るといった対応である。

つまり、個人のQOLを高める方法は介護保険サービスにとどまらないし、インフォーマルケアを組み込むことは非常に重要である。その結果、高齢者の暮らしを支えるためのケアマネジメントのターゲットも、ケアマネジメントに当たるケアマネジャーの業務も、介護保険サービスの仲介にとどまらないはずである。
 
7 2021年度介護報酬改定については、2021年5月14日「2021年度介護報酬改定を読み解く」を参照。
8 2022年9月12日、介護保険部会資料。
9 総合事業の仕組みは複雑怪奇だが、2015年度制度改正で創設された。要支援1~2の訪問介護、デイサービスを要支援給付から切り離した上で、介護予防事業と統合。さらに、市町村の判断で基準や報酬を変えられるようにして、住民主体の運動教室などにも介護保険財源を投入できるようにした。ただ、当初の想定よりも進展していない。総合事業の概要や論点については、介護保険制度20年を期したコラムの第13回も参照。
10 白澤政和(2018)『ケアマネジメントの本質』中央法規出版pp45-46を参照。
11 ソーシャルワークの考え方や事例に関しては、岩間伸之ほか(2019)『地域を基盤としたソーシャルワーク』中央法規出版を参照。
4|「ケアマネジメント=介護保険サービスの仲介」と理解されるようになった背景
一方、介護保険制度ではケアマネジメントは居宅介護支援費としてサービスの一つとして位置付けられているのも事実である。この結果、一般的に「ケアマネジメント=介護保険サービスの仲介」と理解されているし、現場のケアマネジメントも「介護保険サービスの代わりに、インフォーマルケアを充てる」という発想に傾いている面は否めない。

つまり、ケアマネジメントは介護保険制度にとどまらない広がりを有しているのに、居宅介護支援費として介護保険サービスに組み込まれている結果、専ら「介護保険サービスの仲介」だけと理解されている感がある。

では、こうした状況がなぜ生まれたのか。それは制度創設時の経緯に由来しており、ここでは2つの点を指摘する12

第1に、要介護認定とケアマネジメントを切り離す必要があった点である。上記で述べた通り、ケアマネジメントは本来、介護保険制度に枠内にとどまらない広がりを有しており、公共性が高い。このため、保険者(保険制度の運営者)である市町村が担う手もあったが、「介護保険が作られる以前の仕組みと変わらなくなる」という判断が働いた。

具体的には、介護保険制度が作られる以前は税財源を用いた措置制度の下、市町村が一方的に支援の内容を決めており、高齢者の自己決定権が担保されていなかった。そこで、介護保険制度では高齢者の自己決定(自立)を重視する形に変わったが、今度は「サービス利用を誰が調整、決定するのか」という点がポイントとなった。

つまり、市町村が高齢者の要介護度を判定した際、同時にケアの内容を決めてしまうと、従来の措置制度と変わらなくなる。そこで、要介護認定とケアマネジメントを分離させ、前者が市町村の事務、後者が居宅介護支援費として介護保険サービスの一つに位置付けられることで、「ケアマネジメン=介護サービスの仲介」と専ら見なされるようになった。

第2の理由として、実際のケアマネジメントでインフォーマルケアが配慮されにくい構造も指摘できる。本来、ケアマネジメントを担うケアマネジャーがインフォーマルケアをケアプランに組み込めば、ケアマネジメントは介護保険の枠内にとどまらない広がりを持てるようになったが、ケアマネジャーの多くがソーシャルワークとしての支援よりも、介護保険サービスの仲介を重視している傾向があることは否めない。

これには介護保険サービスの給付管理が絡む。先に触れた通り、介護保険制度では高齢者の権利性が強調された結果、複数の事業所のサービスを同時に利用することが認められるとともに、要介護認定ごとに設定されている区分支給限度基準額(以下、限度額)の枠内に入っていれば1割負担(現在、高所得者は2~3割負担)、限度額を超えれば全額自己負担とされた。このため、「利用額が限度額を超えているかどうか、誰がチェックするのか」という点が問題となった。

例えば、高齢者がデイサービスA、訪問介護B、福祉用具Cを同時に利用した場合、3つの事業所から介護報酬の請求が保険者である市町村(内実は国民健康保険連合会)に寄せられるが、当時の紙ベースの請求書だと、市町村は高齢者の利用額が限度額を超えているのか、判断できなかった。いわゆる「名寄せ」の問題である。

そこで、サービス利用の合計が限度額の枠内に入っているどうか、ケアマネジャーが点検する体制が採用され、介護保険サービスをケアプランに組み込まないと報酬を受け取れなくなった。その結果、居宅介護支援費の報酬は実質的に給付管理を評価している状態になり、ケアマネジャーがインフォーマルケアだけを組み込むケアプランを作っても、居宅介護支援費として一銭も受け取れなくなった。

こうした判断と経緯を踏まえ、ケアマネジメントは介護保険制度にとどまらない広がりを有しているのに「介護保険サービスの仲介」と見なされるようになったと言える。さらに、ケアマネジャーが「介護保険サービスの代わりにインフォーマルケアを入れる」といった形で、介護保険サービスを中心に考える傾向が作り上げられた。

つまり、ケアマネジメントが居宅介護支援費として介護保険サービスの一つとして組み込まれたことで、介護保険サービスにとどまらない広がりを有するケアマネジメントの特殊性が認識されにくくなった上、ケアマネジャーの意識も介護保険にとどまりやすくなったと言える。

こうしたマイナス面に関しては、制度創設時に必ずしも意識されていたとは言えないが、▽ケアマネジメントは公共性が強く、保険制度のサービスとして馴染みにくい、▽社会資源を含めて、介護保険サービスを超えた多様なサービスを結び付けることが求められている以上、介護保険制度の枠内に位置付けることが難しい――といった理由の下、ケアマネジメントの専門家の書籍では、本来は介護保険制度の枠内にとどまらないケアマネジメントを介護保険制度に取り込むことに強い躊躇感を持ったとの記述も見受けられる13

さらに、近年は居宅介護支援費の有料化の是非が加わり、論点が見えにくくなっている。次に、政策文書の記述などを通じて、今年末に決着する見通しの有料化論議の内容や論点を考察する。
 
12 介護保険制度史研究会編(2019)『介護保険制度史』東洋経済新報社、堤修三(2010)『介護保険の意味論』中央法規出版を主に参照。
13 白澤政和(2011)『「介護保険制度」のあるべき姿』筒井書房p33、p168を参照。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

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