コラム
2020年09月09日

20年を迎えた介護保険の再考(13)総合事業と「通いの場」-局所的な議論にとどめない工夫を

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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1――はじめに~総合事業や「通いの場」を考える~

加齢による要介護リスクをカバーするための社会保険制度として、介護保険制度が発足して4月で20年を迎えました。介護保険制度の論点や課題を考える連続コラムの第11回は認知症ケア、第12回は在宅医療と介護保険の関係を取り上げました。

第13回では、最近の制度改正で盛んに論じられる「介護予防・日常生活支援総合事業」(新しい総合事業、以下「総合事業」)、高齢者が気軽に体操などを楽しめる「通いの場」を論じます。いずれも高齢者が社会参加や地域活動に乗り出すことを通じて、介護予防に繋げたいという思惑が秘められており、厚生労働省は市町村に対して事業の拡大などを促しています。

しかし、介護保険制度の全体で見れば、いずれも局所的な話と言わざるを得ず、市町村としては「制度を上手く使う」という工夫が求められると思っています。今回は総合事業や「通いの場」の論点と課題を探りたいと思います。

2――総合事業とは何か

1|総合事業の概要
まず、総合事業から論じます。総合事業とは軽度な要支援1~2の人を対象とした介護予防給付のうち、デイサービス(通所介護)、訪問介護を切り離すとともに、介護保険の対象にならない高齢者を対象とする介護予防事業と統合した仕組みです。2015年度制度改正で実施が決まり、2017年4月までに全市町村が段階的に移行しました。

具体的には、訪問型にはA~Dの4類型、通所型にはA~Cの3類型があり、市町村の判断による報酬・基準の緩和を認めたことで、住民やボランティアなど多様な主体の参入が期待されています。そのイメージは図1の通りですが、「何か複雑だな」と思われたかもしれません。

しかも、昨年末にまとまった2021年度制度改正に向けた社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会の意見では、要介護者も総合事業を使えるようにする方向で、制度の「弾力化」を検討する旨が盛り込まれており、2021年4月の省令改正が想定されています1。このため、もっと制度は複雑になると思われますが、現時点の枠組みを大胆に要約すれば、要支援者を対象とした介護予防給付の一部(訪問介護、デイサービス)については、介護保険の給付対象とせず、市町村を中心とした事業に移管したわけです。これだけ複雑な仕組みなので、制度の概要を伝え切れない理由は私の筆力の問題だけではないと思うのですが、気になる方は図1、さらに厚生労働省ウエブサイトをご覧下さい。
図1:介護予防・日常生活支援総合事業のイメージ
 
1 2020年8月21日『週刊社会保障』No.2793。
2|総合事業の狙い
では、なぜ総合事業が生まれたのでしょうか。2015年6月に示された総合事業のガイドラインでは、下記のように書いています。
 
要支援者等については、掃除や買い物などの生活行為の一部が難しくなっているが、排せつ、食事摂取などの身の回りの生活行為は自立している者が多い。支援する側とされる側という画一的な関係性ではなく、地域とのつながりを維持しながら、有する能力に応じた柔軟な支援を受けていくことで、自立意欲の向上につなげていくことが期待される。

第10回で取り上げた「自立」という言葉が2回出ており、天邪鬼(あまのじゃく)な私は「自立」の意味が気になってしまうのですが……、要は「軽度な要支援者は身体的に元気な人が多いので、地域の支え合いで支援して行きましょう。要支援者が支援する側に回ることもあり得るような住民主体の支え合いが必要」と言っているように読み取れます。さらに、総合事業の狙いについては、ガイドラインで「背景・基本的な考え方」として挙げられた下記の2点に凝縮されていると考えています。
 
  • 住民主体の多様なサービスの充実を図り、要支援者等の選択できるサービス・支援を充実し、在宅生活の安心確保を図る。
     
  • 住民主体のサービス利用の拡充による低廉な単価のサービス・支援の充実・利用普及、高齢者の社会参加の促進や要支援状態となることを予防する事業の充実による要介護・要支援認定に至らない高齢者の増加、効果的な介護予防ケアマネジメントと自立支援に向けたサービス展開による要支援状態からの自立の促進や重度化予防の推進等により、結果として費用の効率化が図られることを目指す。

1番目は住民主体のサービスなどサービスを多様化することで、要支援者の生活を支援するとしています。2番目は色々と言葉を使っていますが、「低廉な単価」「費用の効率化」といった言葉遣いを見ると、「従来とは違う主体の参入拡大→報酬・単価の引き下げ→コスト縮減」「多様な主体の参入→介護予防の強化→コスト縮減」という経路が期待されている様子を見て取れます。つまり、(上)で述べた介護保険財源の逼迫に対応するため、軽度な要支援者向け給付を効率化しようという思惑です。

実際、この点は制度創設時、国会やメディアなどで「安上がりなケアに済ませようとしているのか」という批判が続出。当時の田村憲久厚生労働相が「要支援になる以前の方々が多様なサービスの担い手の一翼を担って頂く中で、それぞれ健康管理して頂く」「要支援になられた後も色々と活動すれば、そこから改善されて要支援から外れる方々もいる」と補足するに至りました2

しかし、社会保障費の抑制を目指す財務省は総合事業の対象拡大、つまり要介護1~2の人を対象とした訪問介護、デイサービスについても、総合事業に移管するよう主張しています。このため、総合事業が制度化された背景として、財政的な意図があるのは明白です。実際、厚生労働省OBからは総合事業について、給付の対象者を減らす制度改革であるとして、「年金の支給開始年齢を引き上げるに等しい」という指摘があります3。言い換えると、総合事業は「給付の抑制を図るとともに、介護保険給付の対象範囲を小さくした後の受け皿」としての側面を持っているわけです。

それでも疑問は幾つか残ります。第1に、「介護予防給付のうち、なぜ訪問介護とデイサービスだけが総合事業に移行したのか」という点です。現在の制度改正の流れを作った2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書では「介護予防給付の段階的な移行」が盛り込まれていたのですが、市町村との調整を経て、住民の支え合いに寄与するデイサービスと訪問介護が切り離されたと推察されます。

第2に、こんな複雑な仕組みになったのか、その理由を制度の原則から紐解きます。
 
2 2014年2月21日、第186回国会衆議院厚生労働委員会における答弁。発言は文意を変えない範囲で適宜、修正した。
3 日本経済新聞社編(2018)『社会保障砂上の安心網』日本経済新聞出版社p128における堤修三氏インタビュー。
3|総合事業が複雑になった理由
総合事業が複雑になった理由を一言で説明すると、「保険」「事業」をごちゃ混ぜにしたためです。介護保険は本来、要介護状態のリスクを社会全体でシェアするために作られました。その際、第2回で述べた要介護・要支援認定と、第3回で述べた区分支給限度基準額(以下、限度額)で保険給付の範囲を絞り込んでいます。このため、2つの仕組みは介護保険のキモに当たります。分かりやすく言えば、国民から強制的に保険料を徴収する際、「要介護・要支援状態になったら支援します。だから保険料を支払って下さい」と説明する根拠になっているわけです。

ただ、総合事業の対象者は要支援者だけでなく、要支援になる前の高齢者まで射程に入っています。これは介護を必要とする状態になるリスクをカバーするため、国民から徴収した保険料の目的外流用に映ります。言い換えると、「保険」の世界では負担と給付の関係が明確であり、国民は何らかの形で保険料に対して給付を期待できる(給付反対給付均等の原則)のに対し、総合事業は文字通りに「事業」なので、広く受益が行き渡ります。それにもかかわらず、要介護者向けサービスの特定財源である保険料を使うことにしたため、スッキリしない制度になったのです。
4|総合事業の目指す姿と現状
このように書くと、「制度的な理屈に問題があったとしても、上手く行っていればいいじゃないか?」と思われるかもしれませんが、必ずしも「総合事業が目指す姿」は実現していません。

先に触れた通り、総合事業は住民主体を含めてサービスの提供主体を多様化させることに力点を置いています。中でも、住民主体の支え合いを重視しており、政策の進捗を考える上では、「多様な主体がどこまで参入したか」「住民主体のサービスがどこまで拡大したか」といった点を見る必要があります。
表1:総合事業のサービス主体多様化の状況 しかも、同じタイミングの制度改正では、ボランティアによる生活支援の充実などを目指す「生活支援体制整備事業」という仕組みも介護保険の枠組みで創設されており、「住民主体の支え合い」は総合事業のキーワードです。

しかし、当初の目的は実現していません。総合事業の実施状況をまとめた表1の通り、訪問型、通所型ともに事業所数は1万3,000カ所程度に上りますが、基準を緩和した従来型のサービスAが全体の半分以上を占めています。逆にサービスを多様化したB~Dの新規参入者は僅かです。

つまり、主体の多様化は全く進んでいないことになります。これには後述する問題点が潜んでいると思っているのですが、2021年度制度改正で盛んに論じられた「通いの場」を先に見ることにします。

3――「通い」の場とは何か

「通いの場」とは、高齢者が気軽に体操などを楽しめる場を指します。具体的には、住民が自宅で開催する雑談会、公民館の一角などを間借りする認知症カフェ、公園で実施される体操教室などが該当します。これを介護保険のデイサービスと比べると、違いが浮き彫りになるかもしれません。

確かにデイサービスと「通いの場」は「高齢者が集まる」という点で共通しています。ただ、デイサービスは提供時間、人員・設置基準などに縛りがあり、どうしても窮屈になります。逆に制度に基づくので、簡単に事業所を廃止したり、サービス内容を変えたりできない点で、安定性があります。
図2:通いの場の個所数と参加率の実績、参加率の目標 これに対し、「通いの場」は住民同士の気軽な場であり、制度に基づかない緩さがあります。一方、緩い分だけ「主催者が入院した」といった理由で、場が消滅するとか、会合の趣旨が変わることは珍しくありません。こうした場を拡大するため、介護保険財源を使う流れになっており、厚生労働省は図2のような目標を掲げています。具体的には、総合事業に加えて、一般介護予防事業という財源を用いる想定になっています。さらに、通いの場を多く設定した市町村に対して、介護保険財源とは別の「保険者努力支援制度」で財政的なインセンティブを付与するとしています。

またまた別の制度を持ち出して恐縮ですが、一般介護予防事業とは介護保険財源を用いて要支援者・要介護者だけでなく、要介護・要支援認定を受けていない高齢者の予防や相談などに取り組む事業、保険者努力支援制度は介護予防に取り組む市町村を全額国費の財源で支援する制度を指しています。詳細には立ち入りませんが、要は市町村に財政インセンティブを付与し、高齢者が気軽に通える場を増やそうとしているわけです。

もちろん、目的は元気な高齢者を増やすこと。総合事業と同様、介護保険財源の逼迫に対応する目的が秘められています。ただ、「何が『通いの場』に該当するのか?」という線引きについて、国は特段の基準を定めておらず、最終的に市町村の判断に委ねられます。こうした曖昧な場の「数」「参加者」を政策の目標として掲げることが適当なのかどうか疑問が残りますが、2021年度制度改正では柱の一つに位置付けられました。

(2020年09月09日「研究員の眼」)

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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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