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- 所有者不明土地への諸対策 (2)-共有制度の見直し
2021年06月11日
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1――はじめに
Aは「共有物の全部」について利用ができるので、Aは共有物件に単独で居住し続けることができる。この場合、共有者Bはどの様な権利を主張することができるか(C,Dも同様だが、所在不明なのでここでは権利を主張しないものと考える)。Aが共有者としての権利をもって居住(法的には占有という)している以上、全部について利用できるのであるから、Bは明け渡しを請求することができないというのが判例である。明け渡しを求められないのであれば、Bの持分に応じた賃料相当額を請求することができるか。この点、請求できるとする判例もあるが、長期間にわたってAが無償で利用しているケースでは無償での利用(=使用貸借)という契約が成立しているとして、賃料相当額を請求できないケースもあるとされる。
所有者不明土地の中には、登記簿上共有のままで放置されているものもあり、また共有者が行方不明、あるいは共有者に相続が発生しており、相続人が特定できないものもある。このため土地の共有者がわからず(=誰かわからない、誰かわかっても連絡が取れない)1、管理や処分等に支障をきたす例が多く発生しているとのことである。そこで、共有者が所在不明などの状態にある共有の土地建物の利用、権利の集約、処分を行うことを容易にすることとした。これが今回解説する改正内容である。次項2では現行法の問題点を確認し、次々項3で改正法を解説する。
1 所在等不明とは登記簿や住民票などの公的記録を確認して権利者が誰か、あるいは権利者の所在や不明であるような場合とされる。
所有者不明土地の中には、登記簿上共有のままで放置されているものもあり、また共有者が行方不明、あるいは共有者に相続が発生しており、相続人が特定できないものもある。このため土地の共有者がわからず(=誰かわからない、誰かわかっても連絡が取れない)1、管理や処分等に支障をきたす例が多く発生しているとのことである。そこで、共有者が所在不明などの状態にある共有の土地建物の利用、権利の集約、処分を行うことを容易にすることとした。これが今回解説する改正内容である。次項2では現行法の問題点を確認し、次々項3で改正法を解説する。
1 所在等不明とは登記簿や住民票などの公的記録を確認して権利者が誰か、あるいは権利者の所在や不明であるような場合とされる。
2――問題の所在
2 なお、単なる修繕のような保存行為は各共有者が個々にできる(民法第25条但し書き)。
2|他の共有者の持分取得・共有物分割
Aが共有関係を終了させ、不動産の全部あるいは一部を所有したいと考えた場合には、どのような手段があるか。まず、Aが不動産の全部を所有したいときには、B、C、Dの持分をAが取得することとなる。Bとは持分取得の合意ができればよいというだけが、CとDは所在等不明であり、持分の譲渡を受けることは現行法ではできない(課題3)。
他方、Aは今使っている部分さえ自分に残ればよいと考えた場合には、共有物の分割という手段がある。各共有者はいつでも共有物の分割を請求できる(民法第256条)。この場合は他の共有者と協議し、協議が整わない場合には、裁判で分割を請求することができる(民法第258条第1項)。
共有物の分割において、法律上は、現物の分割(不動産を物理的に4分割するなど)、あるいは補完的に、競売を行って代金を分割することが認められている(民法第258条第2項)。ただし、共有物の分割訴訟は固有必要的共同訴訟とされ、共有者が全員参加した訴訟でなければ提起することができない。したがってケース1のように所在等不明共有者がいるときには、共有物の分割はできない(課題4)。
Aが共有関係を終了させ、不動産の全部あるいは一部を所有したいと考えた場合には、どのような手段があるか。まず、Aが不動産の全部を所有したいときには、B、C、Dの持分をAが取得することとなる。Bとは持分取得の合意ができればよいというだけが、CとDは所在等不明であり、持分の譲渡を受けることは現行法ではできない(課題3)。
他方、Aは今使っている部分さえ自分に残ればよいと考えた場合には、共有物の分割という手段がある。各共有者はいつでも共有物の分割を請求できる(民法第256条)。この場合は他の共有者と協議し、協議が整わない場合には、裁判で分割を請求することができる(民法第258条第1項)。
共有物の分割において、法律上は、現物の分割(不動産を物理的に4分割するなど)、あるいは補完的に、競売を行って代金を分割することが認められている(民法第258条第2項)。ただし、共有物の分割訴訟は固有必要的共同訴訟とされ、共有者が全員参加した訴訟でなければ提起することができない。したがってケース1のように所在等不明共有者がいるときには、共有物の分割はできない(課題4)。
また、共有物の分割は上述の通り現物の分割か競売による代金の分割に限定されているため、共有者が仮に全員判明していても、誰か(例えばB)が現物分割に反対した場合には競売になってしまう。その結果、Aが住み続けることはできない(課題5)。なお、判例によれば、特段の事情がある場合において、価格賠償による分割も許されるとするものがある。たとえばAが不動産を取得する代わりに、他の共有者に対してそれぞれの価格相当分を支払うとするものである(=全面的価格賠償による分割)。
3――新しい共有制度
なお、改正法では管理行為の範囲が明確化された。たとえば建物の賃貸借の場合は3年を超えないものは管理行為に該当することとされた(改正民法第252条第4項第3号)。これは、借地借家法により、建物の賃貸借を更新拒絶するには正当事由が必要となる場合があり、賃貸人からは容易に解約ができない。そのため、管理行為を超えて処分行為に該当するのではないかという疑問があったため、法律上明確にしたものである。
さらに、共有者は共有物の管理者を選任できるとの規定が設けられた(改正民法第252条の2)。管理者の選任は共有物の管理と同じルールである。すなわち、共有者の持分価格の過半数で共有者を選任できることとされ、所在等不明共有者がいる場合には、不明者以外の持分の過半数で決する裁判をすることができる。
3 例として、土埃の舞う土地の歩道を舗装するようなケースが挙げられている(2021年3月23日衆院議事録(山下委員発言)。
さらに、共有者は共有物の管理者を選任できるとの規定が設けられた(改正民法第252条の2)。管理者の選任は共有物の管理と同じルールである。すなわち、共有者の持分価格の過半数で共有者を選任できることとされ、所在等不明共有者がいる場合には、不明者以外の持分の過半数で決する裁判をすることができる。
3 例として、土埃の舞う土地の歩道を舗装するようなケースが挙げられている(2021年3月23日衆院議事録(山下委員発言)。
(2021年06月11日「基礎研レター」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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