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コラム
2025年06月13日
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フジメディア・ホールディングスの2025年3月期の定時株主総会(以下、本総会)は6月25日に東京都江東区の有明アリーナで開催される。本総会ではダルトン・インベストメントからの株主提案も付議されることとなっており、提案された取締役選任議案が招集通知に記載されている。フジメディア・ホールディングスの大株主は信託銀行を除けば、東宝株式会社の7.93%が最も多くの保有株式割合であり、いわゆる安定株主の保有株主割合は多くない1。ダルトン・インベストメントは委任状争奪戦を行わない意向を示しているとの報道があり2、株主提案の議案が通るかは不透明である。
ところで取締役選任議案は候補者ごとに1議案とされている3ことから、可能性としては会社提案取締役候補者のうち○名、株主提案取締役候補者のうち△名が選任されるということも考えうる4。
そこでまずフジメディア・ホールディングスの定款を見ると取締役の人数の上限は18名となっている5。そして、会社提案の取締役候補者は11名、株主提案の取締役候補者が12名である。仮に全員がそれぞれ過半数の賛成を得た場合には合計で23名と定款規程の18名を超える。この場合の取扱いについてはフジメディア・ホールディングスの株主総会招集通知に記載がある。これによるとまず監査等委員である取締役を3名選任した後、会社提案の取締役候補と株主提案の取締役候補のなかで議決権の個数の多い順に15名までを選任するとしている6。
さて、機関投資家は自社の基準または投資助言会社の提案する内容に従って議決権行使を行うものとしている。この点から見て会社提案はどうだろうか。フジメディア・ホールディングスの場合に問題となるのは、端的に言って昨年度発覚した不祥事案である。この点、日本生命の議決権行使精査要領では、不祥事が発生した場合に会社提案取締役選任議案に賛成する場合として「第三者による原因究明や社内処分等の責任明確化、再発防止策の策定・履行等といった適切な対策が講じられており、問題の根本的な解決が図られていると判断される場合」としている。また、投資助言会社のブラックロックのガイドラインによれば、不祥事等の発生に「責任があると考えられる取締役の再任に反対する。ただし、速やかかつ適切な社内対応や処分が公表され、社会的信用の回復が図られている場合は、必ずしもこの限りではない」としている。したがって2024年3月31日に公表された第三者委員会の報告を受けて実施、あるいはそれ以前から取り組んでいた責任者の処分や不祥事発生再発防止・再生のための取組が機関投資家においてどう判断されるかが焦点である。
他方、株主提案について機関投資家はどう判断するか。日本生命の議決権行使精査要領では「提案者以外の株主の利益や価値向上に資するかという観点から慎重に判断する」とし、また、ブラックロックのガイドラインでは「株主提案を評価する際は提案内容が長期的な価値創造に寄与するかどうか」に着目するとしている7。
この点について、フジメディア・ホールディングスの説明を見ると、株主提案の取締役候補のうち、一部の辞退した候補者を除き面談した結果、「それぞれ特有の知見と実績をお持ちの優れた方々であり、フジテレビの再生に関して強い想いをお持ちであることを確認できました」とした。ただし、「取締役のスキルマトリクスに照らして、会社提案の候補者が最適」であり、また「取締役の数を増やすことは適切ではない」と判断し、株主提案に反対するとした8。確かにダルトン・インベストメントの取締役候補の略歴を見るとそれぞれ十分な経歴を有していることが分かる。問題は各候補者がどのようにスキル発揮できるかであろう9。
株主提案については、平均年齢が高い、社業に専念できる社長候補が存在しないなどの批判がみられる。また公開情報の限りでは女性候補者が少ないようでもある。さらにダルトン・インベストメントも会社提案か株主提案かではなく「野球のオールスターチームを選ぶように、最適な取締役を選んでください」10と主張している。
そして、フジメディア・ホールディングスは監査等委員会設置会社であり、監査等委員である取締役を他の取締役と別に選任する(会社法329条2項)。株主提案では、この監査等委員である取締役の選任の議案がない11など株主提案だけに賛成することには困難な面がある。したがって機関投資家においては、増員の是非を考えたうえで、各候補者が同社でどのように貢献できるかという観点から評価を行い、賛否を判断するということになろう。
1 https://www.fujimediahd.co.jp/ir/s_information.html 参照。
2 テレ朝ニュースhttps://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000427550.html 参照。
3 議決権行使書面において、必ずしも候補者ごとに賛否欄を設けなくとも、取締役の選任議案に対する賛否欄に「候補者のうち、○○を除く」として、株主が候補者ごとに賛否を表明できるような記載とすることも可能である。たとえば三浦法律事務所 https://note.com/miuraandpartners/n/n3bbed3fb0e7c 参照。
4 2024年ダイドーリミテッドの取締役選任において会社側6名中5名、株主側6名中3名が選任されたという事例がある。https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240627/20240627539411.pdf 参照。
5 https://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr/tdnetg3/20230301_archive/dzktp0/140120230227518452.pdf 参照。
6 https://www.fujimediahd.co.jp/ir/pdf/meeting/t84/ogms84.pdf 参照。
7 2024年4月~6月で日本生命が株主提案に賛成した件数は1件、ブラックロックは17件である。
8 フジメディア・ホールディングスのリリースhttps://www.fujimediahd.co.jp/ir/pdf/release20250516_2.pdf 参照。
9 なお、6月10日、投資助言会社であるISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は、「ファンド側は変化の必要性について説得力のある主張を展開できていない」として、会社提案に賛成し、株主提案に反対することをレポートとして公表した。NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250610/k10014831251000.html 参照。
10 https://www.daltoninvestments.co.jp/news/20250601 参照。
11 5月19日にダルトン・インベストメントから、一部の取締役候補を監査等委員である取締役候補にしたいとの申出があったが、株主提案の行使期限(株主総会8週前、会社法305条)を徒過してなされたものとして、不適法であり、応じないものとした。フジメディア・ホールディングスのリリースhttps://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr/tdnetg3/20250521/fc2e9c/140120250521559824.pdf 参照。
ところで取締役選任議案は候補者ごとに1議案とされている3ことから、可能性としては会社提案取締役候補者のうち○名、株主提案取締役候補者のうち△名が選任されるということも考えうる4。
そこでまずフジメディア・ホールディングスの定款を見ると取締役の人数の上限は18名となっている5。そして、会社提案の取締役候補者は11名、株主提案の取締役候補者が12名である。仮に全員がそれぞれ過半数の賛成を得た場合には合計で23名と定款規程の18名を超える。この場合の取扱いについてはフジメディア・ホールディングスの株主総会招集通知に記載がある。これによるとまず監査等委員である取締役を3名選任した後、会社提案の取締役候補と株主提案の取締役候補のなかで議決権の個数の多い順に15名までを選任するとしている6。
さて、機関投資家は自社の基準または投資助言会社の提案する内容に従って議決権行使を行うものとしている。この点から見て会社提案はどうだろうか。フジメディア・ホールディングスの場合に問題となるのは、端的に言って昨年度発覚した不祥事案である。この点、日本生命の議決権行使精査要領では、不祥事が発生した場合に会社提案取締役選任議案に賛成する場合として「第三者による原因究明や社内処分等の責任明確化、再発防止策の策定・履行等といった適切な対策が講じられており、問題の根本的な解決が図られていると判断される場合」としている。また、投資助言会社のブラックロックのガイドラインによれば、不祥事等の発生に「責任があると考えられる取締役の再任に反対する。ただし、速やかかつ適切な社内対応や処分が公表され、社会的信用の回復が図られている場合は、必ずしもこの限りではない」としている。したがって2024年3月31日に公表された第三者委員会の報告を受けて実施、あるいはそれ以前から取り組んでいた責任者の処分や不祥事発生再発防止・再生のための取組が機関投資家においてどう判断されるかが焦点である。
他方、株主提案について機関投資家はどう判断するか。日本生命の議決権行使精査要領では「提案者以外の株主の利益や価値向上に資するかという観点から慎重に判断する」とし、また、ブラックロックのガイドラインでは「株主提案を評価する際は提案内容が長期的な価値創造に寄与するかどうか」に着目するとしている7。
この点について、フジメディア・ホールディングスの説明を見ると、株主提案の取締役候補のうち、一部の辞退した候補者を除き面談した結果、「それぞれ特有の知見と実績をお持ちの優れた方々であり、フジテレビの再生に関して強い想いをお持ちであることを確認できました」とした。ただし、「取締役のスキルマトリクスに照らして、会社提案の候補者が最適」であり、また「取締役の数を増やすことは適切ではない」と判断し、株主提案に反対するとした8。確かにダルトン・インベストメントの取締役候補の略歴を見るとそれぞれ十分な経歴を有していることが分かる。問題は各候補者がどのようにスキル発揮できるかであろう9。
株主提案については、平均年齢が高い、社業に専念できる社長候補が存在しないなどの批判がみられる。また公開情報の限りでは女性候補者が少ないようでもある。さらにダルトン・インベストメントも会社提案か株主提案かではなく「野球のオールスターチームを選ぶように、最適な取締役を選んでください」10と主張している。
そして、フジメディア・ホールディングスは監査等委員会設置会社であり、監査等委員である取締役を他の取締役と別に選任する(会社法329条2項)。株主提案では、この監査等委員である取締役の選任の議案がない11など株主提案だけに賛成することには困難な面がある。したがって機関投資家においては、増員の是非を考えたうえで、各候補者が同社でどのように貢献できるかという観点から評価を行い、賛否を判断するということになろう。
1 https://www.fujimediahd.co.jp/ir/s_information.html 参照。
2 テレ朝ニュースhttps://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000427550.html 参照。
3 議決権行使書面において、必ずしも候補者ごとに賛否欄を設けなくとも、取締役の選任議案に対する賛否欄に「候補者のうち、○○を除く」として、株主が候補者ごとに賛否を表明できるような記載とすることも可能である。たとえば三浦法律事務所 https://note.com/miuraandpartners/n/n3bbed3fb0e7c 参照。
4 2024年ダイドーリミテッドの取締役選任において会社側6名中5名、株主側6名中3名が選任されたという事例がある。https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20240627/20240627539411.pdf 参照。
5 https://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr/tdnetg3/20230301_archive/dzktp0/140120230227518452.pdf 参照。
6 https://www.fujimediahd.co.jp/ir/pdf/meeting/t84/ogms84.pdf 参照。
7 2024年4月~6月で日本生命が株主提案に賛成した件数は1件、ブラックロックは17件である。
8 フジメディア・ホールディングスのリリースhttps://www.fujimediahd.co.jp/ir/pdf/release20250516_2.pdf 参照。
9 なお、6月10日、投資助言会社であるISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は、「ファンド側は変化の必要性について説得力のある主張を展開できていない」として、会社提案に賛成し、株主提案に反対することをレポートとして公表した。NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250610/k10014831251000.html 参照。
10 https://www.daltoninvestments.co.jp/news/20250601 参照。
11 5月19日にダルトン・インベストメントから、一部の取締役候補を監査等委員である取締役候補にしたいとの申出があったが、株主提案の行使期限(株主総会8週前、会社法305条)を徒過してなされたものとして、不適法であり、応じないものとした。フジメディア・ホールディングスのリリースhttps://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr/tdnetg3/20250521/fc2e9c/140120250521559824.pdf 参照。
(2025年06月13日「研究員の眼」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/06/13 | 株主提案による役員選任議案-フジメディア・ホールディングス | 松澤 登 | 研究員の眼 |
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2025/06/02 | 同意なき買収への対応策-ニデックによる牧野フライス買収提案 | 松澤 登 | 研究員の眼 |
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【株主提案による役員選任議案-フジメディア・ホールディングス】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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