コラム
2022年04月20日

監査等委員会設置会社とは何か-監督と監査の違い

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

日本生命が2022年7月に開催される定時総代会で議案が承認されることを条件として、監査等委員会設置会社となることを公表した1。現在の日本生命は監査役会設置会社であるが、どう違うのか。特定の会社の話としてではなく、一般論として考えていきたい。

前提として、保険会社は、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社または監査等委員会設置会社のいずれかの組織形態をとることが求められている(保険業法5条の2)が、本稿では指名委員会等設置会社には触れない。

監査役会設置会社では、株主総会(日本生命の場合は総代会、以下同じ)において取締役が選任され、取締役会を組織する(会社法329条1項、362条1項)。そして監査役は取締役とは別に選任され、監査役会を組織する(会社法390条1項)。監査役会設置会社では、業務方針の決定や取締役の業務執行に関する監督等を取締役会で行い(会社法362条2項)、監査役会で監査の方針や監査報告書の作成等を行う(会社法390条2項)。なお、監査自体は個々の監査役の権限とされていて、監査役会で制限することはできない(会社法390条2項柱書)(図表1)。
【図表1】監査役会設置会社
他方、監査等委員会設置会社においては、株主総会において、監査等委員である取締役を、取締役とは別に選任する(会社法329条2項)。監査等委員は取締役でなければならない(会社法399条の2第2項)。監査等委員会設置会社においても、取締役会で業務方針の決定や取締役の業務執行に関する監督等を行う(会社法399条の13第1項)。そして監査等委員によって組織される監査等委員会は、取締役の業務執行に関して監査を行い、監査報告を作成する(会社法399条の2第3)(図表2)。
【図表2】監査等委員会設置会社
つまり、監査役会設置会社においては監査と監督は別の役員が担当するが、監査等委員会設置会社においては、監査等委員は監査を行うと同時に、構成員として取締役会に参加することで監督にも参加するということである。そうすると「監督」と「監査」の相違が問題となる。この二つの相違について、会社法には明確な規定がない。

この点、学説では、監査役について説明されてきた監査とは、業務の「適法性」の監査にとどまるとされる一方で、取締役会の権限である監督とは、業務執行の「妥当性」にまで踏み込んだものであり、その適否については最終的には人事で決着をつけるものと考えられている2。仮のケースとして、たとえば、違法とは言えないものの、特定の企業を露骨にえこひいきし、経営にも影響が出てきているような会社運営を行っている経営者に対して、退任を迫る権限が監査等委員には認められている。

この点に関して若干補足すると、監査等委員会設置会社の取締役の任期は監査役等委員兼務の取締役が2年、それ以外の取締役が1年である(会社法332条1項、3項)3。そして監査等委員会が選定した監査等委員は、株主総会における監査等委員以外の取締役選任議案に対して、監査等委員会の意見を述べることができる(会社法342条の2第4項)。一年に一回とはいえ、定時株主総会の席で改選の機会があり、その際に取締役サイドから「再任は問題である」と言えるということである。

監査等委員会は、3名以上選任され、その過半数は社外取締役でなければならない(会社法331条6項)。もちろん、監査等委員にどのような人が就いているかによる部分は大きいが、このような統制を利かせることが可能な組織形態であると言える4

ただ、監査役会設置会社においても法律上の監査役の権限は強く、監査等委員会設置会社等との比較でガバナンスが劣っているとは立法者において認識されてはいない。監査役会設置会社でも、社外取締役を中心とした任意の委員会を設置している会社も多い。それぞれの制度の間で競争をしているのが現状であり、今後の組織形態ごとの実際の運営状況など動向を注視していく必要がある。
 
1 https://www.nissay.co.jp/news/2021/20220317a.pdf 
2 江頭憲治郎「株式会社法(第8版)」(有斐閣2021年)p554参照。
3 正確にはそれぞれ選任後2年、1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時までとされている。
4 東京証券取引所の調査ではすでに1106社となっている。 https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000003zc0h-att/nlsgeu000003zc32.pdf 参照。対して監査役会設置会社は2495社である。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2022年04月20日「研究員の眼」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【監査等委員会設置会社とは何か-監督と監査の違い】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

監査等委員会設置会社とは何か-監督と監査の違いのレポート Topへ