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コラム
2025年06月10日
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いわゆる令和の米騒動は備蓄米5㎏2000円台での売却が始められたことにより、一時的に沈静化の兆しを見せた。しかし、先に高値で落札された備蓄米をどうするかなど残された課題は多い。
日本では、古来より米は国民生活に密接に結びついた主要な食糧であった。江戸時代末期までは、各地の大名の地位や負担すべき軍事力・役務は、石高を基準として定められていたのは周知のとおりである。米一石とは140㎏~150㎏であり1、大人一人が年間で消費する量とされている。加賀百万石は、石高に基づけば理論上は100万人分の年間食料に相当する計算となる。このように江戸時代は、幕藩体制の基盤として米本位制が取られており、他方、経済圏としては、東日本で銀本位制、西日本で金本位制が取られていた2。経済活動の活性化に伴い藩の支出が増加する一方、寒冷化による稲作不良で農村は疲弊し、結果として多くの藩が財政難に陥った。
さて、大名は諸々の出費のために米を貨幣に変える必要があり、地方から大都市、なかでも大阪に多くの米が集められていた。諸藩は、中之島周辺の蔵屋敷に納めた年貢米を入札制によって米仲買人に売却し、落札者には米切手という1枚当たり10石の米との交換を約束した証券を発行した。この米切手には、まだ蔵屋敷に到着していない米(未着米)や将来収穫される予定の米も含まれていた。つまり米在庫が存在する現物市場と、将来の米の代表的な銘柄を帳面上で売買する先物市場が存在した。堂島米市場は、わが国における取引所の起源とされるとともに、世界における組織的な先物取引所の先駆けとして広く知られている3。
堂島米市場は17世紀後半にも体制が整い、1697年に堂島に移転した。1730年、徳川8代将軍吉宗が米価引き立てのため、堂島米市場を公認した。1869年、明治政府は米価高騰を理由として堂島米市場での取引を禁止したが、翌々年には米取引の活性化のため、堂島米会所として再興した。1939年、米穀配給統制法により大阪堂島米穀取引所は廃止された4。
市場の存在は需給の実勢を反映した適正な時価を算出することに役立つが、時により投機筋の動きや思惑等で米価が実情以上に高騰などすることがある。明治政府が米市場の在り方について混乱した様子からも、米価安定の難しさがうかがえる。つまり江戸時代・明治時代の昔から米価安定に為政者は悩まされてきた。
ところで、先物取引とは、将来の定められた時点(たとえば今から3か月後)での売買についてあらかじめ現時点で約束をする取引のことである。定められた時点になったときは、現物で清算するか、現物価格と約束価格の差分を清算することとなる5。堂島米市場の先物市場では差分清算方式がとられていたとのことである6。
このような先物取引は価格変動リスクを回避できるという利点がある。たとえば将来に向けて米価が下がっては困る生産事業者は先物を売り、米価が上がっては困る販売事業者は先物を買うことが想定される。
ちなみに2024年8月から、大阪の堂島取引所で米の現物・先物商品が上場されており、SBI証券などが取り扱っている7。公開されているチャートからも、過去1年間で米価が大幅に上昇していることが確認できる8。
政府にとって米価の安定は、現代においても依然として重要な政策課題と言えるだろう。
1 https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?page=ref_view&id=1000076982 参照。
2 https://www.abura.gr.jp/contents/shiryoukan/rekishi/rekish16.html 参照。
3 https://www.jpx.co.jp/dojima/ja/index.html 参照。
4 前掲注3と同じ。
5 https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/deriv/deriv201.html 参照。
6 https://money-bu-jpx.com/basic/derivatives/school/rice-exchange/rice-exchange-05/ 参照。
7 https://go.sbisec.co.jp/lp/odex_rice.html 参照。
8 https://www.odex.co.jp/genbutsu-kome-shisu/index.html 参照。
日本では、古来より米は国民生活に密接に結びついた主要な食糧であった。江戸時代末期までは、各地の大名の地位や負担すべき軍事力・役務は、石高を基準として定められていたのは周知のとおりである。米一石とは140㎏~150㎏であり1、大人一人が年間で消費する量とされている。加賀百万石は、石高に基づけば理論上は100万人分の年間食料に相当する計算となる。このように江戸時代は、幕藩体制の基盤として米本位制が取られており、他方、経済圏としては、東日本で銀本位制、西日本で金本位制が取られていた2。経済活動の活性化に伴い藩の支出が増加する一方、寒冷化による稲作不良で農村は疲弊し、結果として多くの藩が財政難に陥った。
さて、大名は諸々の出費のために米を貨幣に変える必要があり、地方から大都市、なかでも大阪に多くの米が集められていた。諸藩は、中之島周辺の蔵屋敷に納めた年貢米を入札制によって米仲買人に売却し、落札者には米切手という1枚当たり10石の米との交換を約束した証券を発行した。この米切手には、まだ蔵屋敷に到着していない米(未着米)や将来収穫される予定の米も含まれていた。つまり米在庫が存在する現物市場と、将来の米の代表的な銘柄を帳面上で売買する先物市場が存在した。堂島米市場は、わが国における取引所の起源とされるとともに、世界における組織的な先物取引所の先駆けとして広く知られている3。
堂島米市場は17世紀後半にも体制が整い、1697年に堂島に移転した。1730年、徳川8代将軍吉宗が米価引き立てのため、堂島米市場を公認した。1869年、明治政府は米価高騰を理由として堂島米市場での取引を禁止したが、翌々年には米取引の活性化のため、堂島米会所として再興した。1939年、米穀配給統制法により大阪堂島米穀取引所は廃止された4。
市場の存在は需給の実勢を反映した適正な時価を算出することに役立つが、時により投機筋の動きや思惑等で米価が実情以上に高騰などすることがある。明治政府が米市場の在り方について混乱した様子からも、米価安定の難しさがうかがえる。つまり江戸時代・明治時代の昔から米価安定に為政者は悩まされてきた。
ところで、先物取引とは、将来の定められた時点(たとえば今から3か月後)での売買についてあらかじめ現時点で約束をする取引のことである。定められた時点になったときは、現物で清算するか、現物価格と約束価格の差分を清算することとなる5。堂島米市場の先物市場では差分清算方式がとられていたとのことである6。
このような先物取引は価格変動リスクを回避できるという利点がある。たとえば将来に向けて米価が下がっては困る生産事業者は先物を売り、米価が上がっては困る販売事業者は先物を買うことが想定される。
ちなみに2024年8月から、大阪の堂島取引所で米の現物・先物商品が上場されており、SBI証券などが取り扱っている7。公開されているチャートからも、過去1年間で米価が大幅に上昇していることが確認できる8。
政府にとって米価の安定は、現代においても依然として重要な政策課題と言えるだろう。
1 https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?page=ref_view&id=1000076982 参照。
2 https://www.abura.gr.jp/contents/shiryoukan/rekishi/rekish16.html 参照。
3 https://www.jpx.co.jp/dojima/ja/index.html 参照。
4 前掲注3と同じ。
5 https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/deriv/deriv201.html 参照。
6 https://money-bu-jpx.com/basic/derivatives/school/rice-exchange/rice-exchange-05/ 参照。
7 https://go.sbisec.co.jp/lp/odex_rice.html 参照。
8 https://www.odex.co.jp/genbutsu-kome-shisu/index.html 参照。
(2025年06月10日「研究員の眼」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
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