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- 欧州委員会、Googleに制裁金-オンライン広告サービス市場での支配力濫用
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コラム
2025年09月18日
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2025年9月5日、欧州委員会はGoogleに対して29億5千万ユーロ(約5114億円)の制裁金を課すことを公表した。この制裁金はGoogleがアドテク市場(オンライン広告サービス全般を対象とする市場)における競争を阻害したことが欧州競争法違反であると認定したことに基づく。
本事案ではGoogleが自社のアドテク事業を優遇し、競合するアドテク提供者、広告主、媒体社(ウェブサイト運営者)の利益を害したとするものである。欧州委員会はGoogleに対して(1)自己優遇措置を取りやめること、(2)アドテク市場特有の利益相反を抑止するための方策をとることを命じた。Googleは60日間の猶予が与えられた。
Googleは自社ウェブサイト上の広告を販売するとともに、オンライン広告を行いたい広告主と、広告枠を販売する媒体社の間を仲介している。Googleの提供するアドテク事業はウェブサイト上の広告枠にリアルタイムで広告を表示できる技術に依拠している。
アドテクにかかるGoogleのツールとしては、以下の3種類がある。すなわち、まず、i)媒体社向け広告サーバー、具体的にDoubleClick for Publishers(DFP)がある。また、ii)広告主向け広告購入ツール、具体的にGoogle AdsとDV360がある。さらに、iii)入札によって媒体社と広告主をリアルタイムで結びつける広告取引所、具体的にAd Exchange(AdX)がある(図)。
本事案ではGoogleが自社のアドテク事業を優遇し、競合するアドテク提供者、広告主、媒体社(ウェブサイト運営者)の利益を害したとするものである。欧州委員会はGoogleに対して(1)自己優遇措置を取りやめること、(2)アドテク市場特有の利益相反を抑止するための方策をとることを命じた。Googleは60日間の猶予が与えられた。
Googleは自社ウェブサイト上の広告を販売するとともに、オンライン広告を行いたい広告主と、広告枠を販売する媒体社の間を仲介している。Googleの提供するアドテク事業はウェブサイト上の広告枠にリアルタイムで広告を表示できる技術に依拠している。
アドテクにかかるGoogleのツールとしては、以下の3種類がある。すなわち、まず、i)媒体社向け広告サーバー、具体的にDoubleClick for Publishers(DFP)がある。また、ii)広告主向け広告購入ツール、具体的にGoogle AdsとDV360がある。さらに、iii)入札によって媒体社と広告主をリアルタイムで結びつける広告取引所、具体的にAd Exchange(AdX)がある(図)。
欧州委員会は調査の結果、欧州地域において、上記i)とii)の存在する市場(媒体社向け広告サーバー市場、広告主向け購入ツール市場)でGoogleが支配的であると判断した。そして欧州委員会は2014年から現在までGoogleが以下の2点において支配的地位を濫用したとして欧州機能条約102条(競争法に該当)違反であると判断した。
(1)広告主向け購入ツールであるGoogle AdsとDV360を通じてAdXを優遇した。具体的には、Google Ads等からの発注先をAdXのみとすることで、AdXを魅力的にすることを通じて他の広告取引所を排除した。
(2)媒体社向け広告サーバーであるDFPによりAdXを優遇した。具体的に、AdXに競合する広告取引所で提示される最高価格をDFPがAdXに事前通知する1ことで他の広告取引所を排除した。
これらの行為の結果、故意にAdXに競争上の優位性を与え、競合する広告取引所の事業を排除したと欧州委員会は判断した。これを受け、上述の通り、欧州委員会はGoogleに是正措置を策定するよう求めた。なお、欧州委員会はGoogleによる一部サービスの分割(divestment by Google part of its services)が適当であると暫定的な見解を示したとのことである。
本事案で注目されるのは主に3点ある。
一つ目はGoogleのオンライン広告サービス全般を対象とする市場における独占を認めたところにある。米国では一般検索サービス市場と一般検索テキスト広告市場におけるGoogleの独占は認めたが、これらよりも広い市場であるオンライン広告サービス全般におけるGoogleの独占は認めなかった。この点、詳細は先のレポート2を参照願いたいが、たとえば一般検索テキスト広告と、オンライン広告の一種であるオンラインディスプレイ広告3とでは広告主にとって代替性がなく、同一市場ではないとの判断が示されている。欧州ではより幅広い市場として判断されているわけだが、米国の裁判例を踏まえれば争点となる可能性が高い。
二つ目は、本事案がデジタル市場法違反ではなく、欧州競争法違反とされたところである。デジタル市場法は欧州競争法の予防規定として制定されたが、オンライン広告サービスについては広告主に手数料開示を求めるとともに、媒体社に報酬開示を行うことを求めているにとどまる(5条9項、10項)4。オンライン広告サービスそのものの支配・排除行為を予防する条文は存在しないため、欧州競争法を適用したものと考えられる。
三つ目は欧州委員会がサービスの分割を暫定的見解としても求めている点である。同様にGoogleのサービス分割が議論となっていた米国の事例では、裁判所はサービスの分割まで求めることはせず、情報の外部提供を求めるにとどまった5。過去にマイクロソフトによるWindows(OS)とInternet Explorer(ウェブ閲覧ソフト)の抱き合わせが行われた時にも事業分離が訴訟上主張されたことがある。その際は事業分離に至らず、和解で決着した6。サービス分離あるいは事業分離は適用のハードルが高い。Googleにとっても受け入れは困難である。
上記注目点を鑑みるにGoogleの立場からすれば簡単に受諾することは想定しにくい。今後、訴訟に移行すると思われるが、引き続き動向を注目していきたい。
1 このことを通じて、AdXは他の広告取引所の入札価格よりわずかに高い入札価格を設定することで落札を独占することができた。詳細は注記2に掲げる基礎研レポート参照。
2 基礎研レポート「米国連邦地裁におけるGoogleの競争法敗訴判決~一般検索サービス市場と検索テキスト広告市場」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=80571?pno=6&site=nli
3 ウェブサイト上で、閲覧者の属性や閲覧履歴に基づいて掲出される広告を指す。検索広告はオンラインディスプレイ広告よりも販売行動により近い場面での広告であることから、両者は異なると米国では判断された。
4 基礎研レポート「EUのデジタルサービス法施行-欧州における違法コンテンツへの対応」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74016?site=nli 参照。
5 https://cases.justia.com/federal/district-courts/district-of-columbia/dcdce/1:2020cv03010/223205/1436/0.pdf?ts=1756893273
6 詳細は柳川 隆・長谷川 雄哉「抱き合わせへのエンフォースメントと消費者の利便
性 マイクロソフト,グーグル,アップル」https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/D1006820/D1006820.pdf 参照。
(1)広告主向け購入ツールであるGoogle AdsとDV360を通じてAdXを優遇した。具体的には、Google Ads等からの発注先をAdXのみとすることで、AdXを魅力的にすることを通じて他の広告取引所を排除した。
(2)媒体社向け広告サーバーであるDFPによりAdXを優遇した。具体的に、AdXに競合する広告取引所で提示される最高価格をDFPがAdXに事前通知する1ことで他の広告取引所を排除した。
これらの行為の結果、故意にAdXに競争上の優位性を与え、競合する広告取引所の事業を排除したと欧州委員会は判断した。これを受け、上述の通り、欧州委員会はGoogleに是正措置を策定するよう求めた。なお、欧州委員会はGoogleによる一部サービスの分割(divestment by Google part of its services)が適当であると暫定的な見解を示したとのことである。
本事案で注目されるのは主に3点ある。
一つ目はGoogleのオンライン広告サービス全般を対象とする市場における独占を認めたところにある。米国では一般検索サービス市場と一般検索テキスト広告市場におけるGoogleの独占は認めたが、これらよりも広い市場であるオンライン広告サービス全般におけるGoogleの独占は認めなかった。この点、詳細は先のレポート2を参照願いたいが、たとえば一般検索テキスト広告と、オンライン広告の一種であるオンラインディスプレイ広告3とでは広告主にとって代替性がなく、同一市場ではないとの判断が示されている。欧州ではより幅広い市場として判断されているわけだが、米国の裁判例を踏まえれば争点となる可能性が高い。
二つ目は、本事案がデジタル市場法違反ではなく、欧州競争法違反とされたところである。デジタル市場法は欧州競争法の予防規定として制定されたが、オンライン広告サービスについては広告主に手数料開示を求めるとともに、媒体社に報酬開示を行うことを求めているにとどまる(5条9項、10項)4。オンライン広告サービスそのものの支配・排除行為を予防する条文は存在しないため、欧州競争法を適用したものと考えられる。
三つ目は欧州委員会がサービスの分割を暫定的見解としても求めている点である。同様にGoogleのサービス分割が議論となっていた米国の事例では、裁判所はサービスの分割まで求めることはせず、情報の外部提供を求めるにとどまった5。過去にマイクロソフトによるWindows(OS)とInternet Explorer(ウェブ閲覧ソフト)の抱き合わせが行われた時にも事業分離が訴訟上主張されたことがある。その際は事業分離に至らず、和解で決着した6。サービス分離あるいは事業分離は適用のハードルが高い。Googleにとっても受け入れは困難である。
上記注目点を鑑みるにGoogleの立場からすれば簡単に受諾することは想定しにくい。今後、訴訟に移行すると思われるが、引き続き動向を注目していきたい。
1 このことを通じて、AdXは他の広告取引所の入札価格よりわずかに高い入札価格を設定することで落札を独占することができた。詳細は注記2に掲げる基礎研レポート参照。
2 基礎研レポート「米国連邦地裁におけるGoogleの競争法敗訴判決~一般検索サービス市場と検索テキスト広告市場」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=80571?pno=6&site=nli
3 ウェブサイト上で、閲覧者の属性や閲覧履歴に基づいて掲出される広告を指す。検索広告はオンラインディスプレイ広告よりも販売行動により近い場面での広告であることから、両者は異なると米国では判断された。
4 基礎研レポート「EUのデジタルサービス法施行-欧州における違法コンテンツへの対応」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74016?site=nli 参照。
5 https://cases.justia.com/federal/district-courts/district-of-columbia/dcdce/1:2020cv03010/223205/1436/0.pdf?ts=1756893273
6 詳細は柳川 隆・長谷川 雄哉「抱き合わせへのエンフォースメントと消費者の利便
性 マイクロソフト,グーグル,アップル」https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/D1006820/D1006820.pdf 参照。
(2025年09月18日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/09/18 | 欧州委員会、Googleに制裁金-オンライン広告サービス市場での支配力濫用 | 松澤 登 | 研究員の眼 |
2025/09/12 | スマホ競争促進法の指針-Digital Markets Actとの比較 | 松澤 登 | 基礎研レポート |
2025/09/08 | TEMUのオンライン仲介サービス-欧州委員会がDigital Services Act違反とする暫定的見解 | 松澤 登 | 研究員の眼 |
2025/09/01 | EUデジタル市場法の施行状況-2024年運営状況報告 | 松澤 登 | 基礎研レポート |
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