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「子ども・子育て拠出金」引き上げによって負担が増えるのは誰か~企業に期待される少子化対策の取り組みは(上)~
生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
4――子ども・子育て拠出金引き上げがもたらす影響
それでは、子ども・子育て拠出金が引き上げられれば、実際にはどのような影響が生じるのだろうか。恩恵を受けるのは、企業主導型保育事業の利用者や、0~2歳児を認可保育施設に預ける利用者である。
まず先に、0~2歳児を認可保育施設に預ける利用者の恩恵をみていきたい。財政制度等審議会によると、2017年度予算ベースでは、0歳児の保育にかかる費用は年平均約247万円、1~2歳児は年平均約154万円である16(図表3)。これに対し、利用者が負担する保育料は、2歳以下の場合は年平均約43万円である。保育費から保育料を差し引いた残りを公費で負担しているため、年間の公費負担は0歳児では約204万円、1~2歳児では約112万円となる。利用者は1年間にこれだけの恩恵を受けていることになる17。
16 財政制度等審議会(2017年5月25日)資料より算出。運営費のみで、施設整備費は含まれていない。
17 ただし、都心では賃料等が押し上げて保育費が高騰しており、東京都によると、区によっては0歳児の保育費が年間約486 万円、1歳児の保育費が年間約248万円に上る。このような区では、仮に保育料平均を全国と同じ金額で試算すると、0歳児を預けている利用者は年間約443万円、1歳児を預けている利用者は年間約205万円の恩恵を受けていることになる。保育料は国の基準で決まっているため、保育費が高いエリアに、より多額の公費が投入される構造となっている。
18 内閣府「子ども・子育て本部」ホームページ「企業主導型保育事業について」より。企業負担は、運営費のうち基本分単価に対する助成金と保育料、企業負担を合計した金額の5%とされている。中小企業については、2018年度から3%に軽減される。
19 平成29年度企業主導型保育事業費補助金実施要領より。合理的な理由があれば、企業の裁量によって異なる保育料を設定できる。
20 試算の基にした認可保育施設への公費負担には、基本分単価の他に加算分が含まれているが、内訳が不明であるため、すべてを基本分単価として試算に用いた。
21 (17)と同様に、東京都内の区によっては、企業主導型保育事業の利用者が受ける恩恵は0歳児で年間約417万円、1~2歳児で年間約192万円と試算される。
企業にとっては、状況や行動パターンによってメリットの有無が異なる(図表5)。まず拠出金の引き上げによって、徴収対象となっているすべての企業は、従業員数に比例して拠出金の支払い額が増える。
しかし、企業主導型保育事業を開設することができればメリットもある。育児休業中の従業員を早期に職場復帰させて代替人員を雇う費用を浮かせたり、採用の際に福利厚生としてアピールしたりと、人員確保に役立つ。また、土地建物を所有しているかどうかによってもメリットは大きく異なる。所有している場合は、新たに購入する費用はかからない上、開設後5年間は、固定資産税や都市計画税、事業所税の課税標準が下げられる。従って、都市部に遊休不動産を所有していて、これまで多額の固定資産税等を納めている企業にとっては、開設した方が、運営に伴う支出よりも税の減額の方が大きく、得だというケースが出てくる。預かる子どもの人数が多ければ運営費の支出は増えるが、国から支給される助成金額も増える。税制優遇を抜きにしても、経営努力によって実際の収支は左右される。
土地建物を所有していない場合は、整備費がかかるが、4分の3は助成金から支給される。その後5年間は税制優遇を受けられる。仮に土地建物を所有していない上、従業員の年齢構成が中高年主体で、子育て中の従業員が少ないという企業にとっては、人員確保のメリットが小さく、わざわざ整備費や運営費、手間隙をかけて開設することには、社内の理解を得るのが難しいだうう。地方の小規模企業も、もともと従業員数が少なく、子育て中の従業員も少ないため、このカテゴリーに入る22。
確実にメリットが無いのが、開設しないケースである。開設に伴う人員確保や税制優遇のメリットもなく、運営費支出も助成金収入もないが、拠出金の支払い額だけが増える。実際のところ、現時点で開設している企業は一部に限られているため、大部分の企業はこのカテゴリーに入っている23。
実際に、企業主導型保育事業の定員の全国分布をみると、北海道と東京都、大阪府、福岡県で3,000人分を超えているのに対し、福井県は100人分を下回った(図表7)26。地方と都市部ではバラツキがある。
22 国は2018年度から、中小企業が設置する場合には助成金を割り増しするなどの促進策を講じる。
23 公益財団法人児童育成協会によると、助成が決定した企業主導型保育事業は2018年1月31日時点で全国に2,190箇所。
24 厚生労働省が発表している最新の待機児童数は2017年4月1日時点のものだが、待機児童数は毎年、年度途中に増加する傾向があるため、2016年10月1日時点の調査結果を用いた。
25 2018年1月18日に開かれた内閣府と中小企業団体との話し合いの場でも、全国商工会連合会が「町村部にある商工会地区では、企業主導型保育施設の設置割合が低く、十分な恩恵を受けることが難しい状況であり、受益と負担のバランスが取れていないというジレンマがある」と意見を述べている。
26 北海道では2016年10月1日時点の待機児童数が1,000人未満だったのに、2018年1月31日時点の企業主導型保育事業の定員が3,000人分を超えた理由としては、その後待機児童数が増加したことと、「潜在待機児童」が多いことがあると考えられる。北海道の発表によると、2018年1月1日時点で、道内の待機児童数は1,515人に増えた上、親が求職活動を休止しているなどの事情で「待機児童」の定義には当てはまらないが、保育を必要としている「潜在待機児童」が2,746人いると推計している。
(2018年03月13日「基礎研レポート」)
03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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