2024年09月19日

米FOMC(24年9月)-政策金利▲0.5%引き下げを決定。20年以来となる利下げを開始

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:政策金利を▲0.5%引き下げ。年内2回の利下げを見込む

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が9月17-18日(現地時間)に開催された。FRBは政策金利を▲0.5%ポイント引き下げ4.75-5.0%とすることを決定した。量的引締め政策の変更は無かった。

今回発表された声明文では、景気判断部分で雇用の評価を下方修正した。一方、経済見通し部分で「インフレ率が持続的に2%に向かいつつあることに自信を深めている」との表現が追加されたほか、雇用とインフレの目標達成に対するリスクがほぼ均衡しているとの判断が示された。これを受けて、フォワードガイダンス部分では従前のインフレに加え、「最大限の雇用を支える」ことに強くコミットすることが追加された。

今回の金融政策決定ではボウマン理事が0.25%の利下げを主張して反対票を投じた。全会一致とならなかったのは22年6月以来、とくにFRB理事が反対したのは05年9月以来となった。

FOMC参加者の経済見通し(SEP)は前回(6月)から、成長率見通しが概ね据え置かれた一方、当面の失業率が上方修正されたほか、コアPCE価格指数が下方修正された(後掲図表1)。

注目された政策金利見通し(中央値)は24年が4.4%と前回から▲0.75%ポイント下方修正され、年内は1回0.25%で2回の追加利下げを見込むほか、25年は前回同様4回の利下げが見込まれている。長期見通しは前回の2.8%から2.9%に小幅上方修正された。

2.金融政策の評価:労働市場重視の姿勢を明確化

当研究所は利下げ幅を0.25%と予想していたため、本日の利下げ幅は予想外であった。ただし、12日のウォールストリートジャーナルの記事などで0.5%の利下げ幅について言及され、金融市場も0.5%の利下げを6割程度織り込んでいたことから、サプライズは無かった。

パウエル議長の記者会見では、FRBが景気後退を予想していないにも関わらず、利下げ幅が通常の0.25%ではなく、0.5%に拡大した理由として、労働市場の健全性を維持するためと説明された。また、同議長からはインフレの目標達成に対する自信が示された一方、労働市場が足元で冷え込んでいることが言及され、今後はデュアル・マンデートの内、労働市場の動向を注視していく方針を明確に示した。一方、今後も0.5%の利下げ幅を基本にする可能性については否定した。

当研究所は本日の結果を踏まえて、FRBは11月と12月会合で0.25%の利下げを実施するとの見方を維持する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを5.25-5.5%に維持することを決定(今回削除)
  • インフレの進展とリスクのバランスを考慮し、委員会はFF金利を0.5%ポイント引き下げ、目標レンジを4.75-5.0%とすることを決定(今回追加)
  • 財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • 委員会はインフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が深まるまで、目標レンジを引き下げることは適切でないと考えている(今回削除)
  • FF金利の目標レンジの追加的な調整を検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する(目標レンジの調整について「追加的な」”additional”が追加)
  • 委員会は最大限の雇用を支え、インフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(「最大限の雇用を支え」”supporting maximum employment”を 追加)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆している(変更なし)
  • 雇用の増加は鈍化し、失業率は上昇したが低水準を維持している(雇用の増加に関して前回の「緩やか」”moderated”から「鈍化」”slowed”に下方修正)
  • インフレ率はこの1年で緩和したが、依然としてやや高い水準にある(今回削除)
  • インフレは委員会の物価目標2%に向けて一段と進展したが、依然としてやや高止まりしている(今回追加)
 
(景気見通し)
  • 委員会はインフレが持続的に2%に向かいつつあることに自信を深めている(今回追加)
  • 雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡していると判断している(今回追加)
  • 委員会は雇用とインフレの目標達成に向けたリスクのバランスは、引き続き改善に向かっていると判断している(今回削除)
  • 経済見通しは不透明であり、委員会はデュアル・マンデートの両サイドのリスクに高い注意を払っている(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 本日、FOMCは政策金利を0.5%ポイント引き下げることにより、政策抑制の程度を軽減することを決定した。この決定は、政策スタンスを適切に調整すれば、緩やかな成長とインフレ率が持続的に2%まで低下する中で、労働市場の力強さを維持できるとの確信が強まったことを反映している。
    • 全体として、広範な指標は労働市場の状況が19年のパンデミック直前よりもタイトでなくなっていることを示唆している。労働市場はインフレ圧力を高める要因にはなっていない。
    • 過去3年間、インフレ率は目標である2%を大幅に上回り、労働市場の状況は極めて逼迫していた。我々はインフレ率を下げることに主眼を置いたが、それは適切であった。過去1年間の忍耐強いアプローチが実を結んだ。現在、インフレ率は目標にかなり近づいており、インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信が強まっている。
    • インフレ率が低下し、労働市場が冷え込むにつれて、インフレの上振れリスクは軽減し、雇用の下振れリスクは増加した。我々は現在、雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡しているとみており、我々のデュアル・マンデートの両側面に対するリスクに注意を払っている。
    • 経済が発展するにつれて、金融政策は最大限の雇用と物価安定の目標を最良に推進するために調整される。
 
  • 主な質疑応答
    • (0.5%の利下げ幅となった理由、今後も0.5%幅の利下げは増えるのか)前回の会合以降、多くのデータが発表された。我々はそれらのデータを踏まえて0.5%の利下げが正しいことだと判断した。今後もデータ次第で利下げ幅が変わる。会合毎に意思決定をしていく。
    • (来年末まで政策金利が長期見通しを上回ることが予想されているが、この期間金融政策は引締め的となるのか)中立金利の推定には幅がある。我々は今後、経済が見通し通りであれば、引締め的な政策を解除する必要があると考えている。インフレ率や雇用がより持続可能な水準に移行していることを考えると、我々は政策をより適切なものに再調整する時期に来ていると考えている。
    • (0.5%の利下げは最近の雇用統計の大幅な改定を考慮したキャッチアップなのか、名目の政策金利の高さを考慮すれば、今後も同様のペースになるのか)時期を逸したとは考えておらず、時宣を得た決定だと考えている。ただし、今回の利下げ幅が新しいペースだと考えないで欲しい。時間をかけて政策金利をより中立的なレベルまで引下げるつもりだ。
    • (選挙前に利下げを強化することは政治的な動機があるとの批判についてどう考えるか)FRBで4回目の大統領選挙に臨むことになるが、これまでと同じことをするだけだ。金融政策決定で政治的なことについては議論されない。
    • (もし市場が0.5%の利下げの可能性を低く見積もっていたら、0.5%の利下げを実施していたか)我々は常にその時の経済にとって正しいと思うことをしようと努めている。それが今日の我々の行動だ。

5.FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の19名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(6月)見通しとの比較では、実質GDP成長率は24年が小幅に下方修正されたものの、概ね据え置かれた。失業率は24年から26年にかけて上方修正された。コアPCE価格指数は24年と25年が下方修正された。今回は27年の見通しが新たに示された。
(図表1)FOMC参加者の経済見通し(9月会合)
(図表2)政策金利見通し(年末時点) 政策金利の見通し(中央値)は、24年が4.4%(前回:5.1%)と前回から▲0.75%ポイント下方修正され、利下げ回数が1回0.25%とすると年内2回となることが示された(図表2)。

ドットチャートでは年内利下げ無しが19人中2名、1回が7名、2回が9名、3回が1名と年内残り2会合にもかかわらず、見通しが分かれている。これはFRB内でも今後の金融政策方針が不透明であることを示していると言えよう。

一方、25年は3.4%(前回:4.1%)と前回から▲0.75%ポイント下方修正され、利下げ回数は4回(前回:4回)と前回から維持された。

26年は2.9%(前回:3.1%)と前回から▲0.25%ポイント下方修正され、利下げ回数は2回(前回:4回)とこちらは下方修正された。

今回新たに提示された27年は2.9%となり、26年に利下げが打ち止めとなることが示された。

最後に長期見通しは2.9%(前回:2.8%)と前回から+0.125%ポイント上方修正された。
 
 

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(2024年09月19日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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