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米減税の実現で無保険者急増の可能性-減税・歳出法案(OBBBA)成立で無保険者が今後10年で1,090万人増加する見込み

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩
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トランプ大統領が実現を目指す減税・歳出法案(OBBBA)を下院が可決、上院で修正審議中
OBBBAでは減税や歳出増加の財源の1つとして、低所得層向けの公的医療保険制度であるメディケイドに対する歳出削減や医療費負担適正化法、所謂オバマケア(ACA)で定める医療保険取引所の規則改定が盛り込まれており、同法案が成立した場合に無保険者の大幅な増加を招くことが懸念されている。
医療費負担適正化法(ACA)で米国の無保険率は大幅に低下

さらに、20年に感染が拡大したコロナ禍への対応として、連邦政府からの資金提供と引き換えに州政府に対して公衆衛生上の緊急事態の間、メディケイドから加入者を脱退させることを禁止した。また、医療保険取引所を経由した医療保険加入者に対する保険料税額控除の対象を拡大(連邦貧困レベル400以上に拡大)したほか、税額控除の増額を実施したこともあって無保険者数は23年に2,530万人に減少し、無保険率は9.5%まで低下していた。
もっとも、コロナ禍の対応収束に伴い、メディケアの継続加入規定は23年3月で終了したほか、医療保険加入者に対する税額控除の拡充も25年末に終了することになっている。
議会予算局(CBO)はOBBBAの成立により今後10年間で無保険者数が1,090万人増加と試算
医療保険取引所の規則改定では、保険料税額控除を受けている個人の自動再登録を廃止し、税額控除の資格を毎年再確認することを義務付けることや、申請者が資格認定を待つ間、保険料税額控除の暫定的な資格を停止することなどが盛り込まれた。さらに、連邦政府が運営する医療保険取引所のオープン登録期間を従前の11月1日~1月15日を11月1日~12月15日に短縮するほか、低所得者向けに年間を通じて認めていた特別加入期間を廃止することも盛り込んだ。CBOは規則改定に伴い今後10年間で無保険者が310万人増加すると試算した。
これらの結果、OBBBAの成立に伴い今後10年間に無保険者が1,090万人増加することが見込まれており、2034年の無保険率は15.1%とCBOの現行法を基にしたベースライン予測の11.3%から+3.8%ポイント上振れすることが見込まれている。
さらに、CBOは前述の保険料控除の拡大が25年末に終了することに伴い無保険者が今後10年間で510万人増加するとしており、これらを合計すると無保険者は今後1,600万人増加すると推計している。このため、34年の無保険率は16.9%とベースライン予測から+5.6%ポイント上振れする可能性がある。これは概ねACA発効前の水準に逆戻りすることを意味する。
一方、6月16日に公表された上院財政委員会によるOBBBAの修正案ではメディケイドの受給資格の就労要件で除外対象者を14歳以下の子供の親としており、下院より厳格化された。さらに、上院案ではACAに基づいてメディケイドの受給資格を拡大した州に対して医療提供者税の上限を現在の6.0%から段階的に3.5%まで引下げることが追加された。医療提供者税は州政府が病院や介護施設などの医療提供者に課しており、メディケイドの財源に活用されている。医療提供者は課税されるものの、通常は州から支払い額の全額が払い戻されることになっており、実質的な負担がない。一方、州政府によるメディケイドに対する支出には一定の割合(25年度は50%~76.9%)で連邦政府から補助金を受けることができるため、医療提供者税を財源としてメディケイドの支出を増加させることで州政府には連邦政府からの補助金を多く受給できるメリットがあった。このため、上院案は医療提供者税の税率を下げることで連邦政府の補助金削減を目指している。これに対して、州政府は財源が減少することから、メディケイドの受給対象者を絞り込むことを余儀なくされるとみられており、無保険者の増加が懸念されている。
メディケイドの歳出削減の行方は不透明
現在、上院(100議席)のうち、共和党は53議席に留まっていることから、民主党議員が反対で一致している中、共和党議員が4名反対すると修正案を可決することは出来ない。このため、前述の4議員の意向を尊重して、メディケイドの削減幅の縮小や医療提供者税の上限が維持される可能性がある。
ただし、上院共和党議員の一部はOBBBAの歳出削減が不十分として反対しており、メディケイドの削減幅を縮小することでこれらの財政保守議員の反発を招く可能性がある。さらに、下院共和党の財政保守議員からも更なる財政赤字削減を求める声がでており、仮に上院で法案が可決した場合でも下院で再可決がスムーズにいくのか予断を許さない状況となっている。このため、上院共和党はメディケイドの歳出削減幅を巡って難しい舵取りが迫られている。OBBBAが最終どのような案に落ち着くのか、今後の無保険者数に大きく影響することからその動向が注目される。
(2025年06月27日「研究員の眼」)

03-3512-1824
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
窪谷 浩のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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