2024年09月09日

米雇用統計(24年8月)-非農業部門雇用者数が市場予想を下回ったほか、過去2ヵ月分が大幅に下方修正

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を下回った一方、失業率は市場予想を下回る

9月6日、米国労働統計局(BLS)は8月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+14.2万人の増加1(前月改定値:+8.9万人)と+11.4万人から下方修正された前月を上回った一方、市場予想の+16.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は下回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.2%(前月:4.3%、市場予想:4.2%)と前月から▲0.1%ポイント低下、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.7%(前月:62.7%、市場予想:62.7%)と前月、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用増加ペースが鈍化する一方、賃金上昇率は加速

事業所調査の非農業部門雇用者数(前月比)は8月が前月を上回った一方、後述するように過去2ヵ月分が合計▲8.6万人の大幅下方修正された結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+11.6万人となり、24年上期の+20.7万人、23年通年の+25.1万人から大幅に伸びが鈍化した。

家計調査は失業率が8月は4.2%と5ヵ月ぶりに低下した。前月に大幅な増加を示した一時解雇が前月比▲16.2万人(前月:+31.4万人)と大幅な減少に転じたことが大きく、一時解雇の前月の増加がハリケーンの影響を受けていた可能性を示唆した。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月:+0.2%、市場予想:+0.3%)と3ヵ月ぶりに前月を上回ったほか、市場予想も上回った。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 前年同月比は+3.8%(前月:+3.6%、市場予想:+3.7%)と、こちらも3ヵ月ぶりに前月を上回ったほか、市場予想も上回った(図表1)。

このようにみると、8月の雇用統計は失業率が5ヵ月ぶりに低下したものの、非農業部門雇用者数の過去3ヵ月平均の伸びが顕著に鈍化するなど労働市場の減速を確認した。一方、時間当たり賃金上昇率が小幅ながら加速するなど、賃金上昇圧力の緩和が一服する結果となった。9月のFOMC会合では利下げが確実視されているが、雇用者数の伸びが市場予想を下回ったことを受けて金融市場では▲0.5%ポイントの利下げを50%織り込むなど、利下げ幅が拡大するとの見方が増加した。当研究所は雇用の伸びは鈍化したものの、景気後退が懸念される状況ではないことから利下げ幅は▲0.25%に留まると予想する。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊、建設業が増加

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+10.8万人(前月:+5.4万人)と前月から伸びが加速した(図表2)。

民間サービス部門の中では、小売業が前月比▲1.1万人(前月:▲0.3万人)と前月からマイナス幅が拡大したほか、情報サービスが▲0.7万人(前月:▲1.5万人)と前月からマイナス幅は縮小したものの、2ヵ月連続でマイナスとなった。また、医療・社会扶助サービスが+4.4万人(前月:+5.9万人)と堅調を維持しているものの、前月から伸びが鈍化した。一方、専門・ビジネスサービスが+0.8万人(前月:▲1.3万人)と前月からプラスに転じたほか、娯楽・宿泊が+4.6万人(前月:+2.4万人)、運輸・倉庫が+0.8万人(前月:+0.6万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+1.0万人(前月:+2.0万人)と前月から伸びが鈍化した。建設業が+3.4万人(前月:+1.3万人)と前月から伸びが加速した一方、製造業が▲2.4万人(前月:+0.6万人)と前月からマイナスに転じて財生産部門の雇用の足を引っ張った。

政府部門は前月比+2.4万人(前月:+1.5万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+0.1万人(前月:横這い)、州・地方政府が+2.3万人(前月:+1.5万人)といずれも前月から伸びが加速した。
前月(7月)と前々月(6月)の雇用増加数(改定値)は前月が+8.9万人(改定前:+11.4万人)と▲2.5万人下方修正されたほか、前々月が+11.8万人(改定前:+17.9万人)と▲6.1万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲8.6万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って9月5日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+9.9万人(前月改定値:+11.1万人、市場予想:+14.5万人)と+12.2万人から小幅下方修正された前月、市場予想を下回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが加速した雇用統計とは不整合な結果となった。
 
8月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が35.21ドル(前月:35.07ドル)となり、前月から+14セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.2時間)と前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,207.70ドル(前月:1,199.39ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:プライムエイジの労働参加率は5ヵ月ぶりに低下

家計調査のうち、8月の労働力人口は前月対比で+12.0万人(前月:+42.0万人)と前月から大幅に伸びが鈍化した。内訳を見ると、就業者数は+16.8万人(前月:+6.7万人)と前月から伸びが加速した一方、失業者数が▲4.8万人(前月:+35.2万人)と前月からマイナスに転じて労働力人口を押し下げた。非労働力人口は+9.1万人(前月:▲21.4万人)と3ヵ月ぶりにプラスに転じた。これらの結果、労働参加率は62.7%と前月から横這いとなった(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は8月が83.9%(前月:84.0%)と前月から▲0.1%ポイントと5ヵ月ぶりに低下した。男女の内訳は、女性が78.4%(前月:78.1%)と前月から+0.3%ポイント上昇した一方、男性が89.5%(前月:90.0%)と前月から▲0.5%ポイント低下して全体を押し下げた。

失業率は8月が4.2%と5ヵ月ぶりに低下した(図表6)。一方、サームルール指標は、7月に+0.53%ポイントと景気後退の開始を示すとされる+0.5%ポイントを上回った後、8月も+0.57%ポイントと抵触した状況が続いている。もっとも、労働市場では雇用増加が続いているほか、失業者数の内訳で新たに職探しを始めた「新規参入者」や職探しを再開した「再参入者」が4割近くを占めており、一時的や恒久的な解雇者が大宗を占める景気後退局面とは状況が異なっていることから、足元で景気後退が既に始まった、もしくは早期に景気後退が始まる可能性は依然低いとみられる。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
8月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は153.3万人(前月:153.5万人)と前月から▲0.2万人減少した。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは21.3%(前月:21.6%)と前月から▲0.3%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は21.0週(前月:20.6週)とこちらは前月から+0.4週長期化した。

最後に、周辺労働力人口(140.1万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(483.0万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、8月が7.9%(前月:7.8%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.7%ポイント(前月:+3.5%ポイント)と前月から+0.2%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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(2024年09月09日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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