2025年10月17日

「SDGs疲れ」のその先へ-2015年9月国連採択から10年、2030年に向け問われる「実装力」

生活研究部 准主任研究員 小口 裕

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■要旨
 
  • 国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択された2015年9月から、2025年9月で10年を迎えた。この10年の間に、日本社会のSDGsに対する温度感は大きく変化している。立ち上がり期の熱気はやや落ち着き、「社会貢献しなければならない」というプレッシャーや、その成果を生み出す難しさ・見えにくさから、「SDGs疲れ」という言葉も聞かれるようになった。
     
  • 本稿で取り上げるVNR(Voluntary National Review)とは、政府が自国のSDGs実施状況を総括し、進展と課題を整理して国連に提出する振り返り報告である。日本では、内閣官房と外務省が取りまとめを行い、6月の政府SDGs推進本部(本部長:内閣総理大臣)会合で決定・発表された後、2025年7月に国連で報告された。
     
  • 本稿の前半では、2025年のVNRに基づき、国内のSDGs政策における現状と課題を整理する。後半では、2019年と2025年に実施された2回の社会調査を比較し、生活者のSDGsへの理解や関心、行動がどのように変化したかをVNRの結果とあわせて検証する。
     
  • 結論から言えば、VNRと本稿の分析から、政策領域ごとにSDGsターゲットの「達成」「改善」「後退」に明確な差がみられた。とりわけ後半の分析では、政策と生活者の行動との間に持続性のギャップが生じている領域も確認された。
     
  • SDGsは法的拘束力を持たないソフト・ガバナンス(法的規制ではなく、情報公開や指標共有などを通じて行動を促す)に基づく仕組みであり、VNRを通じたフォローアップは、日本の取り組みを国際的なSDGsモニタリング体制に接続する重要なプロセスである。さらに、SDGsは国際的な合意であると同時に、国内政策の羅針盤でもある。VNRを通じたレビューは、国と地方をまたぐ統合的な持続可能性ガバナンスの強化や、官民・分野横断的な連携構築に向けた関係者間の相互理解を深める契機ともなっている。
     
  • SDGsの達成年限である2030年に向けては、制度や資金の拡充に加え、実装を担う官民のさらなる連携が求められる。同時に、実感できるかたちで成果を社会に還元する仕組みを再設計して、生活者が「SDGs疲れ」を越えて社会課題と繋がる「橋渡し」の機能をいかに強化できるかも今後の大きな焦点である。


■目次

1――はじめに~2015年9月の採択から10年が経過した「SDGs」
  1|日本のSDGsを振り返る
   ~SDGsに関する自発的国家レビュー/Voluntary National Reviewとは
  2|2030年へ向けて問われる「実装力」──岐路に立つ日本のSDGs
2――VNR報告書の内容―「SDGは根付いたが、まだ道半ば」の実態をどう読むか
  ■ウェルビーイング領域―人への投資が、社会の持続力をつくる
  ■レジリエンス領域―「想定外」を減らし、備えを価値に変える
  ■経済・雇用領域―成長と実感のギャップをどう埋めるか
  ■都市インフラ領域―まちの安全から、暮らしの豊かさへ
  ■資源・エネルギー・気候領域―「整備から持続へ」の転換期
  ■自然資本領域―自然の回復力を、経済の循環にどう組み込むか
  ■ガバナンス領域―ルールを活かし、信頼を積み重ねる仕組みへ
  ■国際協力領域―グローバル連携が支える「実装の後押し」
3――まとめ-VNRによるSDGsフォローアップの意義、2030年に向けた課題
  1|政策領域ごとに見えてきたSDGs進捗格差
  2|求められる官民の一層の連携と成果を実感する仕組みづくり

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月17日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

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