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コラム
2025年07月15日

「SDGs疲れ」の空気から考える、本当のサステナビリティ-「検索データ」から見る、日・米・欧のSDGsギャップ

生活研究部 准主任研究員 小口 裕

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1――「SDGsは、今は流行らない」という声に立ち止まる理由

「最近、SDGsって聞かなくなったよね」「ちょっと流行りすぎたんじゃない?」——そんな声がビジネスの現場からも聞こえてくる。かつては企業も自治体もこぞってバッジをつけ、テレビや教材でも目にする機会が多かったこの言葉に、少し冷めた空気が漂っているのは否めない。

だが、この「飽き」のような反応は、果たして実態に即したものなのだろうか。Googleトレンドによる検索行動のデータをもとに、日本のSDGsとの向き合い方を改めて考えてみたい。

2――「突出した関心」は「過熱」ではなく「集中的普及」の結果?

Googleトレンドのデータ1を見ると、日本におけるSDGsの検索数は、2021年にかけて急上昇し、ついには検索人気の最大値「100」に到達している(数表1)。
数表1 日本におけるGoogle Trendの検索ワード人気度の時系列推移(SDGs など)
後述するが、対照的に同時期の米国やドイツでは20~30台にとどまり、明らかに日本だけが異例の盛り上がりを見せていた。

この現象の背景には、東京オリンピックの開催準備をはじめ、政府による全国的な推進、教育現場への急速な導入、企業による一斉対応といった、トップダウン型の広報活動も一因としてあるだろう。言い換えれば、日本では「SDGs」という枠組みが、わかりやすく、かつ一気に社会へ浸透しやすい形で提供されたということでもある。
 
1 このデータはGoogleトレンドに基づき、各国で検索されたサステナビリティ関連キーワードの人気度(相対的な検索量の推移)を示す。0~100の指数で表示され、検索数の絶対値ではなく、地域・期間内での関心の強さを相対比較できる。Google社が提供している。
なお、本解析ではドイツ・フィンランドについて、SDGs以外の表現は現地の主要言語に翻訳してデータ収集・集計をしている。

3――ESGとSustainabilityに注目する世界。SDGsに集中する日本

視点を世界に広げると、各国で注目されているキーワードに違いがあることがわかる。たとえば、米国では「Sustainability」や「ESG」が長期的に高い検索水準を維持しており、特にESGは2023年に人気度が上限の100を記録している。これはESG投資をめぐる政治的議論や州法の制定などが影響していると考えられる(数表2)。
数表2 米国におけるGoogle Trendの検索ワード人気度の時系列推移
また、ドイツやフィンランドなど欧州では、「Greenwashing」への関心がわずかながらも動きを見せており、企業の環境主張に対する消費者の批判的視線があることが伺える(数表3・4)。
数表3 フィンランドにおけるGoogle Trendの検索ワード人気度の時系列推移
数表4 ドイツにおけるGoogle Trendの検索ワード人気度の時系列推移
その一方で、日本では「SDGs」への検索が圧倒的(数表1)で、ESGやSustainabilityは常に低位にとどまっている。これは、SDGsが「入口の言葉」として、他国で分散されている関心を日本では一手に引き受けてきたことを示唆しているとも言えるだろう。

4――「飽きた」のではなく「定着した」?——検索数の減少をどう読むか

2022年以降、日本でのSDGs検索(人気度)は減少傾向にあり、ピークアウトが見て取れた。これをもって「やっぱり一過性だった」と判断するのは簡単だが、慎重に捉える必要もあると思われる。

たとえば、人々がある言葉を検索しなくなるとき、それは「知っていて当然」の段階に入ったというサインでもあるだろう。たとえば「コロナ」や「キャッシュレス」といった言葉も、検索トレンド上では波があるが、社会から消えたわけではない。

実際、日本国内でも「ESG」や「Sustainability」への関心がじわじわと増えてきており、SDGsという包括語から、次の専門概念へと関心が分岐してきた可能性もある。これはむしろ、社会的な理解が「広がりから深まりへ」移行しつつある過程とも見ることができるだろう。

5――「持続可能性」の安定的な増加——より生活に近い言葉で「持続可能性」を語る意識の広がり

さらに、2021年以降、「持続可能性」という日本語キーワードの検索数は安定的に増加している。

この傾向を、サステナビリティやSDGsといったカタカナ語や英語ではなく、「日本語としての定着」の兆しと捉えると、見える風景はまた変わってくる。

たとえば、「SDGs」というラベルを一つの通過点とし、より生活に近い言葉で「持続可能性」を語ろうとする意識が、日常やビジネスシーンの中で静かに育ち始めているように見える。検索という行動に表れる言語選好の変化は、関心の深化や内面化の兆候とも読み取れる。

やや好意的な捉え方をすれば、今回取り上げたGoogleトレンドのデータだけを見ると、日本は「SDGs」という言葉を社会化させた、世界でも稀有なケースのひとつであるという可能性も浮かび上がる。 
 
今後に向けて重要なのはこうした知識基盤をいかに次のテーマへとつなげていくかであろう。

たとえば、ESG経営への転換、脱炭素政策との接続、あるいは若年層との共創といった文脈において、SDGsを「きっかけ」として機能させながら「次」に繋げる視点が求められている。

そして今、「持続可能性」という言葉そのものが、ビジネスや生活の文脈で自然に使われ始めている。これは、単なるラベルを超えて、「中身のある日本の言葉」として拡張する良いタイミングであるとも言えるのではないだろうか。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月15日「研究員の眼」)

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生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

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