コラム
2025年04月24日

若年層のサステナビリティをめぐるジレンマ-「責任意識」が動きだす、ゴールデンウィークという非日常のスイッチ

生活研究部 准主任研究員 小口 裕

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今年のゴールデンウィークは日並びがいまひとつ…という声がちらほら聞こえるが、うまく休みをつなげながら「今年は国内で気軽にリフレッシュしたい」と考えている人が以前より多いように見える。特に20~30代の若年層では、「せっかくなら国内で地方を巡って、ちょっと良いもの買って帰りたい」といった声もあるだろう。また、最近では、旅先のカフェや道の駅でも「エコ包装」「地元の農家との連携」など、質にこだわったエシカルな商品やサービスの表示が以前より自然と目に入るようになった。

では果たして、若い世代はどこまで「サステナ」に関心を持っているのだろうか?

ニッセイ基礎研究所の調査1・解析(表1)2によれば、「自分の行動が社会に与える影響に責任を感じる」という「責任意識」と、金融資産との間に0.130(p<.005)の有意な関係が見られた。

この数値は、一言で言えば金融資産や、性別、年齢など消費者の属性が、「責任意識」といったサステナ意識にどのような影響を及ぼすかを示している。このケースで言えば、金融資産は、責任意識に対して+(正の影響)があり、その影響(寄与)の大きさは0.130となる。この数値の大小は相対的なものなので、他の数値と比べて「比較的、大きいな」程度で見て頂きたい。

同様に、世帯年収との関係も同様(0.123)となるが、やはり責任意識に対して+の影響がみられる。一般的に年齢が上がるほど資産や年収も高くなるので、これらのデータのみを見れば、いわば「責任意識が高いのはシニア世代」という見方にもなりかねない。
表1:サステナビリティ意識7 因子(SHIFT)と消費者属性との関係(多変量重回帰モデルの標準化β係数)
 
1 サステナビリティに関する消費者調査/(2024年調査)調査時期:2024年8月20日~23日/調査対象:全国20~74歳男女/調査手法:インターネット調査(株式会社マクロミルのモニターから令和2年国勢調査の性・年代構成比に合わせて抽出)/有効回答数:2,500。
2 サステナブル意識7因子(f4責任意識~f7障壁)を因子得点を四分位で4区分に分割した順序変数を従属変数とし、個人年収・世帯年収・世帯金融資産(8区分)を主説明、年代(4区分)と性別(女=0,男=1)を統制変数として全項目を標準化、欠測行をlist‑wise除外した有効標本 n=1,487 に対しOLS推定で各要因の影響を統計的に算出した結果、決定係数 R² は0.01–0.06、VIF は1.05–2.18、F統計はいずれも5%水準で有意。ただしR² が小さく説明力は限定的である。なお「性別」と「年代」は小数第三位まで数値が一致している

けれどこの話、若年層にとって本当に「無縁」だろうか?

実は、年代を統制(固定)したうえでも、収入や資産に由来する責任意識の効果は残っており、さらに「年代それ自体」にもしっかり責任意識に影響していることがわかる(0.070)。さらに「自分ごと意識(使命感)」は-0.026となり、20代が調査対象の世代では最も高い。つまり若年層にも「自分ごととして社会を考えたい」という芽は、むしろしっかり存在しているのだ。

ただし若年層には、また別のリアルがあるのかもしれない。

見逃せないのが、「個人年収」との関係だ。厚生労働省の調査3によれば、一般労働者の賃金は20代(23.2万円 2024年度/20~24歳/学歴計)から50代に向けて増加していくのだが、サステナ行動への「日常習慣(積極性)」と個人年収の関係は–0.075とむしろ逆方向。障壁意識との関係では–0.114といった傾向もあり、若い世代はどうやら「自分事としての思いはあるけど、行動のきっかけがない、時間がない、お金がない」──そんなジレンマの中にいるのかもしれない。

20代は本来、意欲も高く、吸収力もある世代だ。そのポテンシャルが「気にはしているけど、時間も余裕もないから」の一言で埋もれてしまっているとしたら、まさに社会・経済的ロスといっていい。

無論、今回の解析は、サステナ意識7因子4と、消費者の属性との関係を紐解いたに過ぎず、若年層のサステナ意識は、これら属性のみでまったく説明しうるものではない。しかし、そのサステナ意識や行動を着火するための「火種」を見出すヒントぐらいにはなるだろう。
 
そこで注目したいのが、ゴールデンウィークの旅先で巡り合う「非日常」が持つ力だ。いつもと違う景色、違う空気、違う選択肢。そこに、「このコーヒー1杯で地域の森づくりに参加できます」とか、「この商品は地元学生と開発しました」といったメッセージが添えられていたら──若年層の中の「静かな責任感」が、ふと動き出すかもしれない。

サステナ消費を若年層と結びつけたい、という企業や自治体の声は年々高まっている。けれど大げさな理念や堅いメッセージより、日常と地続きの「小さな気づきと充足感」をどう作るかがカギだ。詳しくは別稿5をご覧頂きたいが、「何となくいいと思ったから選んだ」が、「実は、この行動が意味を持っていたんだ」と後からわかる──そんな「実は、エシカル」の行動設計が、いま求められている。
 
そしてその設計のヒントは、案外、道の駅のレジ横や旅先のPOPに転がっているのかもしれない。
図1:サステナビリティ意識7因子
図2:消費者のサステナビリティ行動変容を促進する「サステナブル・マーケテイング」仮説
 
3 令和6年賃金構造基本統計調査 第3表 一般労働者の学歴、年齢階級別賃金及び対前年増減率
4 詳しくは、ニッセイ基礎研レポート「サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(2)」(2025年3月21日)を参照のこと。
サステナビリティ意識項目を因子分析の結果(、7つの因子が抽出された。7つの因子寄与率は50.324%であり、社会科学研究において許容可能な水準である。各因子の信頼性は高く(Cronbach’s α・ω ≥ 0.8)、適合度指標(CFI = 0.988, RMSEA = 0.043)も良好である。因子間相関は0.3~0.7の範囲で、因子の独立性を保ちつつ関連性が示されている。
5 詳しくは、ニッセイ基礎研レポート「サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(3)-消費者のサステナ意識・行動ギャップを解く4つのアプローチ」(2025年3月28日)を参照のこと。解析の結果、若年層を中心に、「新しい技術やサービスに強い関心を持ち、面白そう、便利そうと感じる」ことが行動の主な消費の原動力となることが明らかとなり、その延長線上で「面白い、かつ実はサステナだったんだ」と気づけるような商品や体験が響きやすい~すなわち「実はエシカル」という方向性を提案している。例えば、廃材やリサイクル素材を用いてデザインされたアップサイクル製品やインテリアといった商品性が想定されるが、消費者が興味を持つ「面白さ」や「デザイン性」を備えつつ、サステナビリティの要素をさりげなく自然に組み込み「実は」と気づかせるアプローチといえる。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月24日「研究員の眼」)

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生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

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レポート紹介

【若年層のサステナビリティをめぐるジレンマ-「責任意識」が動きだす、ゴールデンウィークという非日常のスイッチ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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