2025年02月14日

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■要旨
 
  • 「地方創生2.0 」は、国内人口減少を前提とし、「楽しく、安心・安全に暮らせる持続可能な社会」を目指している。その要点の1つとして、各地域が固有の社会課題に対応することによる、官民連携を通じた投資拡大や関係人口の増加による経済・社会改革の推進が掲げられている。
     
  • 民間セクターの視点でみると、ニッセイ基礎研究所の調査によれば、消費者は企業に対して、より積極的なサステナビリティ活動を求めていることが示されている。近年では、GR(Government Relations:ガバメント・リレーションズ)に代表される様な「地域課題解決にフォーカスした良質で戦略的な官民連携」が求められていると言われるが、地方創生SDGsの推進においても、民間企業による積極的な関与と実践に対する地域からの期待がうかがえる。
     
  • また、三大都市圏を除く地方ブロック市場は、民間最終消費支出ベース(2020年)で全国の約4割以上を占めており、企業にとっても、経済的利益と社会的利益の両立を目指す「共有価値(Creating Shared Value, CSV)」創出を通して、人口減少傾向にあるこの地方マーケットとどう向き合うか、は課題となっている。
     
  • こうした中で、公益社団法人日本マーケティング協会は2024年1月にマーケティングの定義を34年ぶりに刷新し、マーケティング活動の持続可能性に対する関与を強化することを表明した。

    その改訂の核心は「持続可能な社会の実現」をマーケティングの中心的役割と位置付けた点にあるが、この改訂は「(短期的な)拡大成長をマーケティングの目的」としていた従来の事業活動から大きな変換を迫るものである。ニッセイ基礎研究所の調査でも、地方部(三大都市圏以外)において、地域の持続可能性に配慮された生産物や製品が強く支持される傾向が見られており、今後は、この人口減少下にある地方マーケットをどのように攻め、刈り取るかという戦略発想のみならず、地域の持続可能性に対する貢献活動を通して市場をどのように育成・深耕しながら「中長期視点で顧客基盤の拡大を図っていくか」という共創的な視点が一層求められているとも言える。
     
  • また、先行研究によれば、サステナビリティ活動に取り組む上で重要なのは「社会との共感」とされる。ニッセイ基礎研究所の調査では、女性の方が男性と比べてサステナビリティに関する事柄への共感が高い傾向が示されている。しかしその一方で、女性にとって活動参加・活動のバリアー(抵抗要因)の存在も明らかになっている。
     
  • また「社会との価値共創」を企業が進めていく上では、その成果をどのように評価し、企業価値に組み込みながら、従業員を動機づけていくかという課題もある。特に、経団連の調査でも、社会貢献活動実績に応じた組織上・人事上の評価について、「優れた取り組みを行った個人を人事上の評価において加点する事例がある」は5%強にとどまっている。
     
  • 地方創生2.0推進に向け、地方自治体が「アウトサイドイン」発想で官民連携を通じて社会課題と向き合う重要性が増しているが、34年ぶりのマーケティング定義改訂は、官民連携などの地方創生活動に対して少なからず追い風に繋がることが期待される。その一方で、「女性や若者に選ばれる楽しい地方」を掲げている地方創生2.0を、どのように実効性のあるものにしていくのか、地方の女性従業員を始めとする幅広い市民が「地域社会との価値共創」で共感力を存分に発揮しながら顧客基盤の拡大と深耕を図る上で、どのような制度と環境を設計・整備していくのか、が問われているのではないだろうか。
■目次

1――はじめに
2――地方創生2.0と官民連携
  1|地方創生2.0における官民連携の重要性
  2|地方自治体に求められるアウトサイドインの発想
3――民間の視点からみる「官民連携」
  1|企業の社会的責任に関する取り組みの現状
  2|マーケティングや営業を通じたCSV創出
4――34年ぶりのマーケティング定義改訂とその背景
  1|変革期を迎えたマーケティングの現在地
  2|定義改訂の背景にあるもの
  3|1990年代定義~サステナビリティより「成長の加速」が優先された時代
  4|2024年定義~当面の人口減少とポストグロースを意識
  5|改訂のポイントは「価値共創」「関係性」「構想」
5――「社会との価値共創」とは何か
  1|官民連携と「社会との価値共創」
  2|事例1:京都市と大塚製薬株式会社による「社会との価値共創」ケース
  3|事例2:新潟県粟島浦村とカルビー株式会社の「社会との価値共創」ケース
  4|市場を攻めて、刈り取る「戦略」から、市場を育成・深耕する「構想」へ
6――今後の課題
  1|官民連携の取り組みにおける期待
  2|成果をどのように評価するのか~山積する「社会との価値共創」の課題
  3|どのように推進するのか~事業部門とサステナビリティ推進部門・広報部門との連携 
  4|どのようにリソースを確保するのか~DX推進に伴うベースロード業務のデジタル化
  5|地方創生は「共感」が鍵~地域で働く「女性」の役割の重要性
  6|「共感」を起点とした「地域社会との価値共創」がマーケティング・営業の本質に

(2025年02月14日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

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レポート紹介

【企業のマーケティングや営業にもサステナビリティ変革の足音-34年ぶりのマーケティング定義刷新に見る地方創生への期待】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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